2012年度業績

今年はいくつかの重荷を下ろし、新しい出発を期する1年であった。まず5月に民博で開催された日本アフリカ学会で足達太郎さんといっしょにアフリカ生物学フォーラムを企画し、このところ存在感の薄いアフリカニストの生物学者たちに、アフリカへの熱い想いをぶつけてもらった。8月にメキシコで開催された第24回国際霊長類学会大会では、この4年間務めた会長の任期を終え、次期会長の松沢哲郎さんに引き継いだ。ぜひ日本の霊長類学の存在と貢献度を高めてほしいと思う。9月にはコンゴ民主共和国で人とゴリラの共存を目指して活動しているポレポレ基金の20周年を祝う会があり、ガボンでいっしょにゴリラの研究をしている竹ノ下祐二さん、藤田志歩さん、岩田有史さんといっしょに参加した。内戦下でこれほど長く続けられるとは思っていなかっただけに、感激もひとしおだった。10月には国立10大学理学部長会議があり、日本の誇る理学教育と研究を支える安定した基盤的経費の必要性を国に訴え、その声明をプレスリリースした。また、狂言師の茂山千三郎さんと協力して「ゴリラ楽―ゴリラの子守歌2」という創作狂言の会を催した。千三郎さんの熱演で、ゴリラの子育ての不思議な特徴と動物園における苦心の一端をわかっていただけたと思う。11月には日本人類学会が慶応大学であり、昨年度まで実施してきた基盤研究S「資源利用と競争回避に関する進化人類学的研究」のまとめとなるシンポジウムを開いた。11月11日には京都大学自然人類学教室の50周年を祝う会があり、多くの関係者が参加した。出席予定だった池田次郎先生が体調を理由ご欠席だったことが残念だったが、杉山幸丸さんや西邨顕達さんをはじめ元気な先輩たちにお会いできたことをうれしく思う。年が明け、1月のセンター試験と2月の学部入試の合間にガボンへ渡航し、この4年間実施してきたSATREPSのプロジェクト「野生生物と人間の共生を通じた熱帯林の生物多様性保全」について科学技術協力省や国立公園局と協議し、エコツーリズムの実装へ向けて舵を切るべく準備を行った。3月にはこの2年間務めた京都大学理学部長、理学研究科長の任を無事終えることができた。共通事務改革、国際高等教育院設立、教育研究組織改革と矢継ぎ早に重要な課題が舞い降り、副研究科長や専攻長のみなさんと昼夜をいとわず取り組んできた。大学経営が企業型に移行しようとしている昨今、理学が長年実施してきたポリシーを維持することがますます難しくなっている。土俵際まで追い詰められた感があるが、卓越したアイディアを持ち寄ったおかげで何とか少し押し返すことができたと思う。この他、環境省中央環境審議会や京都府文化力創造ビジョン検討会議の委員を務めたほか、日本学術会議統合生物学委員会のワイルドライフサイエンス分科会の委員長、国際学術誌PRIMATESの編集長としても忙しい日々を送った。ここで一息ついて魂を入れ替え、面白い仕事をしたいと思う。

総説

  1. 山極壽一, 2012. 「ゴリラにみる人類の由来と未来(前編)―言葉を用いないコミュニケーション」、臨床作業療法, 9(3): 222-228.
  2. 山極壽一, 2012. 「ゴリラにみる人類の由来と未来(後編)―人間社会の基本とは」、臨床作業療法, 9(4): 334-340.
  3. 山極壽一, 2012. 「食べるということ―ヒトを人にする食文化」、大阪保険医雑誌, 553: 4-11.
  4. 山極壽一, 2012. 「人間[ヒト]」、現代社会学事典、弘文堂、p. 991.
  5. 山極壽一, 2012. 「動物社会学」、現代社会学事典、弘文堂、p. 941.
  6. 山極壽一, 2012. 「テリトリ-」、現代社会学事典、弘文堂、p. 915.
  7. 山極壽一, 2012. 「家族の起源[霊長類学]」、現代社会学事典、弘文堂、p. 185.
  8. 山極壽一, 2012. 「父」、現代社会学事典、弘文堂、p. 879.
  9. 山極壽一, 2012. 「棲み分け」、現代社会学事典、弘文堂、p. 729.
  10. 山極壽一, 2012. 「ホモ・サピエンス」、現代社会学事典、弘文堂、p. 1186.
  11. 山極壽一, 2012. 「伊谷純一郎」、現代社会学事典、弘文堂、p. 51.
  12. 山極壽一, 2012. 「今西錦司」、現代社会学事典、弘文堂、p. 68.
  13. 山極壽一, 2012. 「脳の大きさと数」、月刊みんぱく, 421: 8-9.
  14. 山極壽一, 2012. 「アフリカニストにとって生物学とは何か」、アフリカ研究, 81 : 59-60.
  15. 山極壽一, 2013. 「「資源をめぐる葛藤の進化史的背景」、日本人類学会進化人類学分科会ニュースレター、29: 4-7.

著書

  1. 山極壽一・阿部知暁, 2012. 『ゴリラが胸をたたくわけ』、月刊たくさんのふしぎ、第325号、福音館書店
  2. 山極壽一, 2012. 「ヒトの脳の進化の舞台裏」、カール・ジンマー著。長谷川真理子監修『進化―生命のたどる道』、岩波書店、pp. 397-398.
  3. 山極壽一, 2012. 『家族進化論』、東京大学出版会
  4. 山極壽一, 2012. 『ゴリラは語る』、15歳の寺子屋、講談社
  5. 山極壽一, 2012. 「ヒトはいつから火を使いはじめたのか―人間の生活史からみた調理の起源」、朝倉敏夫編『火と食』、食の文化フォーラム30、pp. 20-43.
  6. 山極壽一, 2012. 『野生のゴリラと再会する―26年前のわたしを覚えていたタイタスの物語』、くもん出版
  7. 中川尚史・友永雅己・山極壽一, 2012. 『日本のサル学のあした―霊長類研究という「人間学の可能性」』、京都通信社

報告、その他の著作

  1. 山極壽一, 2012. 「日本人と和食―自然をつなぐ役割」、時代の風、毎日新聞(朝刊)4月15日
  2. 山極壽一, 2012. 「アフリカ熱帯林で双方向の科学外交を実らす」、WEBRONZA、4月25日。
  3. 山極壽一, 2012. 「子ども食育~霊長類との比較(動物学視点から)~」、Kewpie News, 458: 1-10.
  4. 山極壽一, 2012. 「食べる人類学者だった西田さん」、生態人類学会ニュースレターNo. 17(別冊)特集「西田利貞氏追悼」、pp.18-19.
  5. 山極壽一, 2012. 「時間を金で買う現代―買えぬ信頼取り戻そう」、時代の風、毎日新聞朝刊5月20日
  6. 山極壽一, 2012. 「心を通じ合わせる技法と能力」、センター研究報告会2011指定討論、こころの未来, 8: 35.
  7. 山極壽一, 2012. 「文化力、それは未来を共有する力」、WEBRONZA、6月9日。
  8. 山極壽一, 2012. 「シートン動物記から100年―共存の心が絶滅を救う」、時代の風、毎日新聞朝刊6月24日
  9. 山極壽一, 2012. 「ゴリラが笑うとき」、考える人, 41: 80-81.
  10. 山極壽一, 2012. 「理性欠く感情の高まり―個人重視の現代生活」、時代の風、毎日新聞朝刊7月29日
  11. 山極壽一, 2012. 「夏休みに考える「家族の時間」」、WEBRONZA、8月11日。
  12. 山極壽一, 2012. 「家族とコミュニティー:思いやる心言葉が育成」、時代の風、毎日新聞朝刊9月1日
  13. 山極壽一, 2012. 「アフリカの住民と歩むポレポレ流自然保護」、WEBRONZA、9月20日。
  14. 山極壽一・関野吉晴, 2012. 「ゴリラ社会の“負けない論理”を考える」、望星,43: 10-20.
  15. 山極壽一, 2012. 「勝つ論理と負けない論理」、青淵, 763: 2-3.
  16. 山極壽一, 2012. 「領土・国境へのこだわり:共存のルール見出せ」、時代の風、毎日新聞朝刊10月7日
  17. 山極壽一, 2012. 「アフリカの国境の町で感じたこと」、WEBRONZA、10月20日。
  18. 山極壽一, 2012. 「動物世界にも社会や文化」、日だまりカフェ(上)、読売新聞夕刊、11月1日、
  19. 山極壽一, 2012. 「泣かない類人猿の赤ん坊」、日だまりカフェ(中)、読売新聞夕刊、11月8日
  20. 山極壽一, 2012. 「世論を聞けるリーダー:ゴリラに学ぶ民主主義」、時代の風、毎日新聞朝刊11月11日
  21. 山極壽一, 2012. 「人類生んだ地の紛争憂う」、日だまりカフェ(下)、読売新聞夕刊、11月15日
  22. 山極壽一, 2012. 「京大新聞に期待する」、京都大学新聞、11月16日
  23. 山極壽一, 2012. 知の原点「ゴリラの世界で父親修行をする」、かぞくのじかん 22: 82-83.
  24. 山極壽一, 2012. 「動物社会学」、現代社会学事典、弘文堂、p. 941.
  25. 山極壽一, 2012. 「狂言「ゴリラ楽」の子育て支援」、WEBRONZA、11月29日。
  26. 山極壽一, 2012. 「達人の流儀」、Ele 7: 7-9.
  27. 山極壽一, 2012. 「カフジ・ビエガ国立公園における類人猿の保護活動と環境教育」、JWCS通信, 67: 5-7.
  28. 山極壽一, 2012. 「暴力で平和維持の誤解―別の手段 模範を日本が」、時代の風、毎日新聞朝刊12月16日
  29. 山極壽一, 2012. 「ゴリラになって人間を見つめる」、中川尚史・友永雅己・山極壽一編『日本のサル学のあした―霊長類研究という「人間学の可能性」』、京都通信社、pp. 138-139.
  30. 山極壽一, 2013. 「ゴリラの「笑い」が私たちに教えてくれること」、プロワイズ, 29 : 16-19.
  31. 山極壽一, 2013. 「京大の教養教育」、京都大学新聞、1月16日
  32. 山極壽一, 2013. 「ネット時代の教育現場―実践力学び信頼醸成」、時代の風、毎日新聞朝刊1月20日
  33. 山極壽一, 2013. 「動物園は野生動物をのぞく窓」、Habataki, 3 : 14.
  34. 山極壽一, 2013. 「ゴリラは歌舞伎だ」、WEBRONZA、2月4日。
  35. 山極壽一, 2013. 「人々の和の最良手段―「笑」サルとの違い」、時代の風、毎日新聞朝刊2月24日
  36. 山極壽一, 2013. 「自然の音を聞く暮らし」、京都新聞社編『日本人の忘れもの』、pp. 104-106.
  37. 山極壽一, 2013. 「自然保護で国際紛争を封じる」、WEBRONZA、3月16日。
  38. 山極壽一, 2013. 「カフジ・ビエガ国立公園における類人猿の保護活動と環境教育」、JWCS通信68: 8-9.
  39. 山極壽一, 2013. 「「勝つ」よりも「負けない」ことを毎日の食卓から子供は学ぶ」、MAMMOTH、26: 7.
  40. 山極壽一, 2013. 「科学を究める意味―未知の扉、友と開く喜び」、時代の風、毎日新聞朝刊3月31日

学会およびシンポジウム、研究会での発表

  1. 山極壽一, 2012. Life history strategies of the great apes. 自然学の会、4月26日、京都大学泉殿(京都市)
  2. 山極壽一, 2012. 「アフリカニストにとっての生物学とは何か」、フォーラム「アフリカ学としての生物学をかんがえる」、日本アフリカ学会第49回学術大会、5月27日、国立民族学博物館(吹田市)
  3. Yamagiwa J, 2012. Life history strategies of the great apes. A section meeting of Evolutionary Anthropology, July 6, Wink Aichi (Nagoya City)
  4. 山極壽一, 2012. 「社会的存在としての人間の由来―共感と暴力の過去と現在」、第28回日本霊長類学会大会公開シンポジウム「人間性の由来を探る~霊長類学から総合人間学へ~」、7月8日、椙山女学園大学(名古屋市)
  5. Inoue E, Akomo-Okoue E, Judai M, Ando C, Fujita S, Hongo S, Inoue-Murayama M, Yamagiwa J 2012. MALE GENETIC STRUCTURE OF WESTERN LOWLAND GORILLAS. The 24th Congress of International Primatological Society, August 13, Cancun (Mexico).
  6. Yamagiwa J, Ando C, Kahekwa J, Basabose AK 2012. FACTORS INFLUENCING LIFE HISTORY STRATEGIES OF EASTERN AND WESTERN LOWLAND GORILLAS. The 24th Congress of International Primatological Society, August 14, Cancun (Mexico).
  7. Yamagiwa J, Iwata Y, Basabose AK 2012. USE OF SWAMP OR RIVERSIDE FOREST BY EASTERN AND WESTERN GORILLAS. The 24th Congress of International Primatological Society, August 14, Cancun (Mexico).
  8. Ando C, Yamagiwa J 2012. WEANING AGE AND INTER-BIRTH INTERVAL OF WESTERN LOWLAND GORILLA (GORILLA GORILLA GORILLA) IN THE MOUKALABA-DOUDOU NATIONAL PARK, GABON. The 24th Congress of International Primatological Society, August 15, Cancun (Mexico).
  9. Yamagiwa J, Furuichi T 2012. FLEXIBILITY IN SOCIAL RELATIONSHIPS IN FEMALE-DISPERSAL PRIMATE SPECIES. The 24th Congress of International Primatological Society, August 15, Cancun (Mexico).
  10. 山極壽一, 2012. 「火と調理の起源―火は人間をどう変えたか―」、食の文化シンポジウム「火と食」基調講演、10月20日、味の素グループ高輪研修センター(東京都)
  11. 山極壽一, 2012. 「資源をめぐる葛藤の進化史的背景」、第66回日本人類学会大会シンポジウムS11「資源をめぐる葛藤とその解決法の進化」、11月2日、慶応大学日吉キャンパス(横浜市)
  12. 山極壽一, 2012. 「人間性の起源を探求する」、第66回日本人類学会大会シンポジウムS13「新課程教科書と人類学教育」、11月4日、慶応大学日吉キャンパス(横浜市)
  13. 山極壽一, 2012. 「野生のゴリラから学ぶこと」、第2回花王“いっしょにecoフォーラム”2012、招待講演、11月5日、ダイワロイネットホテル和歌山(和歌山市)
  14. 山極壽一, 2013. 科学の甲子園全国大会「特別シンポジウム」パネリスト、3月24日、兵庫県立総合体育館(西宮市)
  15. 山極壽一, 2013. クロリアAGORAスペシャル「専門家とは何か? FUKUSHIMAから考える」、パネリスト、3月28日、京都大学百周年時計台(京都市)