2011年度業績

理学研究科長・理学部長としての1年はまさに嵐のようだった。リーディング大学院の申請に伴う大学院プログラムや学位規定の検討、全国10大学理学部長会議の懸案課題に加え、事務改革、全学共通教育改革、教員組織改革、入試制度改革等、矢継ぎ早に本部より改革案が提示され、それに素早く部局としての対応や全学的な視野からの意見が求められた。なかなか手ごわい課題がひしめいていて、数々の識者に相談する必要があり、自分の未熟さを思い知らされた。3人の副研究科長や事務の方々に支えられてやっと歩いてきたという気がする。ただ、振り返ってみて間違ったことは言っていないのが救いである。これからの1年、これまでに培った知識とネットワークを基に理学にとって好ましい将来像を積極的に描いていきたいと思う。基盤研究Sは最終年度を迎えた。3つの異なる学問分野(霊長類学、先史人類学、生態人類学)から人類の資源をめぐる葛藤とその回避の方策について検討を加えることが目的であり、多くの新しい知見が得られたと思う。秋に沖縄で行われた第65回日本人類学会大会で二つのシンポジウムを開催し、その成果を発表できたことは幸いだった。私自身も国際高等研究所から『ヒトの心と社会の由来を探る~霊長類学から見る共感と道徳の進化~』を出版でき、成果を世に問うことができた。もうすぐ東京大学出版会から『家族の進化』が出版される予定で、今夏にメキシコで開かれる第24回国際霊長類学会でもシンポジウムを開いて基盤Sの成果を議論することにしている。JICA/JSTの地球規模対応課題対応科学技術協力(SATREPS)のプロジェクトも前半の2年半を終了し、日本とガボンの双方から中間評価を受けた。目標と計画はそれぞれの国の指針によく合致していて大きな期待ができるが、効率性と具体性にはやや難があるという評価だった。ガボンの組織や制度とこのプロジェクトの資金運用の仕組みがうまく合致せず、これまで大変苦労をした結果だと思う。とにかくここまでこぎつけることができ、継続可能な体制を保つことができているのは多くの関係者の努力の賜物である。ひとつうれしかったのは、ガボン側が住民参加とガボン人研究者の育成を高く評価してくれたことであり、それは本プロジェクトの欧米とは違う大きな特徴である。それを肝に銘じてこれからの計画を速やかに実施していきたいと思う。

英語論文

  1. Yamagiwa J., (2011). Science diplomacy for gorilla ecotourism. AJISS-Commentary, 138 : 1-3.
  2. Yamagiwa J, Basabose AK, Kahekwa J, Bikaba D, Matsubara M, Ando, C, Iwasaki N, Sprague DS (2011). Long-term changes in habitats and ecology of African apes in Kahuzi-Biega National Park, Democratic Republic of Congo. In: Plumptre AJ (ed), The ecological impact of long-term changes in Africa’s Rift Valley, Nova Science Publishers, New York, pp. 175-193.
  3. Yamagiwa J, Basabose, AK, Kahekwa J, Bikaba D, Ando C, Matsubara M, Iwasaki N, Sprague DS (2011). Long-term research on Grauer’s gorillas in Kahuzi-Biega National Park, DRC: life history, foraging strategies, and ecological differentiation from sympatric chimpanzees. In: Kappeler PM, Watts DP (eds), Long-term field studies of primates, Springer, New York, pp. 385-412.

和文論文

  1. 山極壽一, 2011. 「家族の進化」、精神医療, 65 : 23-30.

総説

  1. 山極壽一, 2011, 「「生態史」という世界を読み解く視座」、『梅棹忠夫―知的先覚者の軌跡』、国立民族学博物館、pp. 52-54.
  2. 山極壽一, 2011. 「共感の由来と未来」、アステイオン, 74 : 177-186.
  3. 山極壽一, 2011. 「共感社会の光と影―ゴリラと人間の比較から考える」、第28回2010年比叡会議報告書『21世紀に求められる文明とは何か その1/部分と全体』、pp.34-43.
  4. 山極壽一, 2012. 「ゴリラはどうやって共同体崩壊の危機に対処するか」、Biocity, 50 : 44-47.

著書

  1. 山極壽一, 2011. 「ゴリラの森から見た戦争と環境」、京都家庭文庫地域文庫連絡会編『きみには関係ないことか』、かもがわ出版、p. 102.
  2. 山極壽一, 2011. 「コミュニケーションとは何か~サルから知る、人の身体と心~」、知デリBOOK Vol 1-5つの知の対話集―、アート&テクノロジー知術研究プロジェクト2006-2008、pp.7-50.
  3. 山極壽一, 2011. 『ヒトの心と社会の由来を探る~霊長類学から見る共感と道徳の進化~』、高等研選書?、財団法人国際高等研究所
  4. やまぎわじゅいち・あべ弘士, 2011. 「ゴリラとあそんだよ」、福音館
  5. 山極壽一, 2011. 「ゴリラと野生生物の復活劇」、吉田昌夫・白石荘一郎編『ウガンダを知るための53章』、明石書店、pp. 29-33.
    山極壽一, 2012. 「ヒトはどのようにしてアフリカを出たのか? ヒト科生態進化のルビコン」、印東道子編『人類大移動―アフリカからイースター島へ』、朝日選書、pp. 219-243.
  6. 山極壽一, 2012. 「サルの名付けと個体識別」、横山俊夫編『ことばの力―あらたな文明を求めて』、京都大学学術出版会、pp.269-288.

報告、その他の著作

  1. 山極壽一, 2011. 「人間を人間たらしめるのは団らんというコミュニケーション」、おかずのクッキング, 173: 60-63.
  2. 山極壽一, 2011. 「負の遺産への責任」、京都水族館(仮称)と梅小路公園の未来を考える会編『京都に海の水族館? 市民不在のまちづくり計画』、かもがわブックレット、pp.44-45.
  3. 中村桂子・山極壽一・佐野春仁・西村仁志, 2011. 「いのちと環境から考える」、京都水族館(仮称)と梅小路公園の未来を考える会編『京都に海の水族館? 市民不在のまちづくり計画』、かもがわブックレット、pp.18-24.
  4. 山極壽一, 2011. 「見つめる目」、生物学者のみる夢⑱、ダーウィンが来た、No. 18 : 18.
  5. 山極壽一, 2011. 「下のしつけ」、生物学者のみる夢⑲、ダーウィンが来た、No. 19 : 18.
  6. 山極壽一, 2011. 「『教える』はヒトのあかし―教育とは学びを育む業である」、朝日新聞社WEBRONZA、2月15日
  7. 山極壽一, 2011. 「危機に手をつなぐ姿は「世界の模範」―頼もしい人々の和と輪を思う」、朝日新聞社WEBRONZA、3月22日
  8. 山極壽一, 2011. 「泣かない赤ちゃん」、生物学者のみる夢⑳、ダーウィンが来た、No. 20 : 18.
  9. 山極壽一, 2011. 「ラクダのこぶの秘密」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 21 : 18.
  10. 山極壽一, 2011. 「たそがれどきの決断」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 22 : 18.
  11. 山極壽一, 2011. 「愛のささやき」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 23 : 18.
  12. 山極壽一, 2011. 「研究科長・学部長ご挨拶」、2011年度京都大学大学院理学研究科・理学部概要、p 3.
  13. 山極壽一, 2011. 「動物の世界を探偵する」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 24 : 18.
  14. 山極壽一, 2011. 「人間は「感情」の葦でもある」、朝日新聞社WEBRONZA、4月23日
  15. 山極壽一, 2011. 「からっぽの森に中身を―里山復興論」、朝日新聞社WEBRONZA、6月14日
  16. 山極壽一, 2011. 「食べ物を分ける理由」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 25 : 18.
  17. やなぎみわ・山極壽一・横山俊夫, 2011. 「梅棹文明学の来た道」、考える人, 37 : 58-69.
  18. 山極壽一, 2011. 「音楽の起源」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 26 : 18.
  19. 山極壽一, 2011. 「タイタスとの再会―ゴリラの記憶能力に感動」、心の玉手箱、日本経済新聞夕刊、7月11日
  20. 山極壽一, 2011. 「酒を通じた交友―現地人と生まれた絆」、心の玉手箱、日本経済新聞夕刊、7月12日
  21. 山極壽一, 2011. 「ポレポレ基金―保護活動資金は芸術作品で」、心の玉手箱、日本経済新聞夕刊、7月13日
  22. 山極壽一, 2011. 「楽器リケンベ―過酷な自然に立ち向かう」、心の玉手箱、日本経済新聞夕刊、7月14日
  23. あべ弘士・山極壽一・早川篤, 2011. 「動物園や水族館を語ろう」、MURYOJU, 82 : 5-8.
  24. 山極壽一, 2011. 「神々のすむ島―酒の流れた先に大事な物」、心の玉手箱、日本経済新聞夕刊、7月15日
  25. 山極壽一, 2011. 「動物たちが危険を感じるとき」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 27 : 18.
  26. 山極壽一, 2011. 「けんかと仲直りの方法」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 28 : 18.
  27. 山極壽一, 2011. 「理学研究科長・理学部長就任のご挨拶」、弘報, 189 : 2-3.
  28. 山極壽一, 2011.「変幻自在な自然に同調する―子どもたちが山や海や川で学ぶこと」、朝日新聞社WEBRONZA、8月1日
  29. 山極壽一, 2011. 「ボスとリーダーの違い」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 29 : 18.
  30. 山極壽一, 2011. 「動物たちと話をするために」、生物学者のみる夢?、ダーウィンが来た、No. 30 : 18.
  31. 山極壽一, 2011. 「9.11再考―戦争は人間の本性ではない」、朝日新聞社WEBRONZA、9月17日
  32. 山極壽一, 2011. 「共感と団結力」、青淵. 751 : 3-4.
  33. 山極壽一, 2011. 「ゴリラの国で学んだこと」、全人, 754 : 4-8.
  34. 山極壽一, 2011. 「心を黒字にする社会を―共感によるつながり」、産経新聞(夕刊)9面、10月18日
  35. 山極壽一, 2011. 「食の進化―サルは何を食べてヒトになったか」、研究会「たべる」共同研究報告書、「たべるを見る/たべるから見る―たべることおめぐる学際的研究2-」、pp.69-80.
  36. 山極壽一, 2011. 「「科学技術の」の科学を忘れていないか」、朝日新聞社WEBRONZA、11月15日
  37. 山極壽一, 2011. 「自然の音を聞く暮らし」、京都新聞(朝刊)、11月27日
  38. 山極壽一, 2012. 「サル学から考える少子高齢化社会の行方」、朝日新聞社WEBRONZA、1月19日
  39. 山極壽一, 2012. 「アフリカの森の酒カシキシの魅力」、Vesta, 85 : 18-19.
  40. 山極壽一, 2012. 「秋入学は歓迎、でも国際化の決め手ではない」、朝日新聞社WEBRONZA、2月16日
  41. 山極壽一, 2012. 「自然を解釈する心―生物のつながりを物語に」、朝日新聞社WEBRONZA、3月20日

学会およびシンポジウム、研究会での発表

  1. Yamagiwa J, 2011. Introduction du Projet. 1er Atelier scientifique du projet de conservation de la biodiversite en foret tropicale a travers la coexistence durable entre l’homme et l’animal (PROCOBHA). 31 aout, CENAREST, Libreville, Gabon.
  2. Yamagiwa J, 2011. Evolution of life history strategy in human and non-human ptimates. Worldsleep 2011, Plenary lecture, 16 October, Kyoto International Conference Center (Kyoto).
  3. 山極壽一, 2011. 「生物多様性保全とエコツーリズム―ゴリラ観光の光と影」、日本アフリカ学会第48回学術大会特別講演会「大森林のエコシステム―最先端の研究者の複合的まなざし」、5月20日、弘前大学(弘前市)
  4. 山極壽一, 2011. 「ヒトはいつから火を使い始めたのか―人間の生活史から見た調理の起源―」、2011食の文化フォーラム「火と食」、6月18日、財団法人味の素文化センター(東京)
  5. 山極壽一, 2011 「野生ゴリラの食物分配行動」、第27回日本霊長類学会大会、7月18日、犬山国際観光センターフロイデ(犬山市)
  6. 山極壽一, 2011. 「野生生物と人間の共生を通じた熱帯林の生物多様性保全」、JST/JOCA SATREPS Workshop「アフリカ熱帯林における人と自然の共存戦略」、7月22日、京都大学稲森財団記念館(京都市)
  7. 山極壽一, 2011. 「アフリカ熱帯雨林の生物多様氏保全とエコツーリズム:ゴリラ観光の現場から」、平成23年度環境省委託事業「ヒトと自然との共生懇談会」第3回懇談会「生物多様性の保全と持続可能な利用へ向けた地球戦略」、9月12日、環境省(東京)
  8. 山極壽一, 2011. 「大型類人猿の生活史と繁殖戦略」、第65回日本人類学会大会、11月5日、沖縄県立博物館(那覇市)
  9. 山極壽一, 2012. 「人間を創った森とは何か―ゴリラが教えてくれたこと」、第1回屋久島森羅万象森森会議基調講演、2月11日、屋久島安房公民館(屋久島町)
  10. 山極壽一, 2012. 日本学術会議シンポジウム「ワイルドライフサイエンス―森、人、心の由来をめぐって」総合座長、2月12日、屋久島宮之浦公民館(屋久島町)