2023年度 終了プロジェクト

 

 

プロジェクト概要

製品やサービスがグローバルに流通する現代においては、環境問題もグローバルに広がっています。しかし、家庭の消費行動や企業の調達行動が、グローバルなサプライチェーン(供給網)を通じて環境にどのような影響を与えているかは、まだ十分には明らかになっていません。本プロジェクトでは、それを、様々なデータの分析から明らかにしようと研究を進めています。具体的には、私達の消費データやサプライチェーンを通じた環境負荷のデータを組み合わせることで、東京、大阪、パリ、ムンバイ、ジャカルタといった都市の消費者がサプライチェーンを通じて排出したCO2を比較しています。都市や家庭を研究対象として、消費行動や調達行動のカーボンフットプリントや環境負荷を分析しています。
本プロジェクトの研究はデータに基づくものですが、フィールドの研究者とも協力して、研究を進めています。研究成果により、都市の消費行動のグローバルな環境影響を「見える化」し、消費行動や調達行動に変化をもたらすことができればと考えています。


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  プログラムへの貢献について PDから一言

 

二酸化炭素の排出量の縮減が地球環境にとって決定的に重要であることは、今日、政策や生活づくりの前提になっています。しかしながら、カーボンエミッションに対する科学的に正しい警鐘を鳴らすことが、すぐに人々の行動を変容させたり、価値観を修正したりすることに結びつくわけではありません。 本プロジェクトは、私たちが都市の日常的な消費生活を続ける中で、多種多様な製品やサービスを購入使用したりするという行為の膨大な積み重ねを、そうした製品やサービスのサプライチェーンに焦点をあてて、環境に対する負荷を解明しています。そこでは、科学的知見と個々の消費者行動の中間に介在する、企業や自治体などが、それぞれの思惑と利害、理念をもとに、科学的知見を行動変容へと転換する役割を担っています。「科学と文化の対話」の中間項に着目して環境文化創成を展望することが、本プロジェクトの大きな貢献と言えるでしょう。

 

 

プロジェクト概要

環境汚染は人間の社会活動がもたらす深刻な問題です。特に、開発途上国では環境よりも経済が優先されるため、その解決への道筋が見いだされていません。私たちは、貧困と環境の問題を同時に解決し、持続可能な社会をつくる道筋を明らかにしたいと考えて研究を行っています。 対象としているのは、ASEAN諸国における零細小規模金採掘(ASGM)による水銀汚染です。ASGMでは手掘りした鉱石に水銀を混ぜ、水銀アマルガムとして金を抽出した後、加熱して水銀を蒸発させて金を得ています。この時。水銀を含む残土が河川等に投棄され、大量の水銀蒸気が大気中に放出され、全地球的な土壌や海洋の汚染につながっています。
この問題の解決を目指し、本プロジェクトは、地域住民や民間企業技術者、NGO職員、地方政府職員などと協働し、3つのレベルでの研究を進めています。1つめは、インドネシアとミャンマーのASGM地域において、多様なステークホルダーと科学者が共同体内で学習・実践することで、価値観を変化させ、問題を実践的に解決する手法を設計し、活動・協働するものです。2つめは、両国においてそれぞれASGM地域とそれ以外の地域の地域間ネットワークを構築し、市民協働により水銀汚染問題を国全体の問題と捉え、水銀ゼロを目指す活動を行うものです。3つめは、両国を含むASEAN諸国で、市民協働によるガバナンス強化を進め、水銀汚染問題に対処するための協働ネットワークの設立を目指しています。
これらの研究では、特に、問題解決につながる技術や活動、地域アイコンなどの「トランスフォーマティブ・バウンダリー・オブジェクト(TBO)」を活用することで、関心のないステークホルダーに強い関心をもたせ、共同体に参加するようにしたいと考えています。そして、ASGM地域の文化・社会・経済的背景を踏まえた、現実的な問題解決への道筋を示すとともに、ASEAN諸国全体で水銀汚染問題に取り組む機運を高めることを目指します。


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  プログラムへの貢献について PDから一言

 

水銀を使用した小規模金採掘が、環境や健康に多大な被害を与えることはよく知られています。しかし現実には数少ない貴重な現金収入源として、規制をかいくぐって継続している地域が世界に数多くあります。こうした活動に従事している人々に、「科学的正しい知識」を供与するだけでは、問題は解決しません。 本プロジェクトでは、単に「正しい知識を啓発する」のでも、「代替手段を与える」のでもなく、彼らの社会の基底にある価値に寄り添い、その実現のための方策を協働しながら見出すという、TDCOP(社会実装のための実践共同体)を多様なレベルで数多く作り上げる作業を、人々と相談しながら行っています。この方向性こそが「科学と文化の対話」を探求するプログラムの可能性を示しています。

 

 

プロジェクト概要

 

日本は代表的な森林国であるが、近年、林業経済の低迷と、中山間地の過疎化の進行によって、大面積を占める人工林の管理の不足や放棄の広がりに歯止めがかからない。人びとは森林という存在から「隔たり」、獣害や感染症、防災機能の 低下などといった社会問題も顕在化している。背景には、人びとが、森林がなぜ必要か、どのような森林である必要があるかという価値認識の喪失があり、未来を見据えた管理や利用の方向を見通すことを阻んでいるのではないだろうか。 このような問題意識を踏まえて、本研究は人と森林の持続的な相互作用環を再構築する道筋を示し、それに至る方法論を構築することを目的とする。このために以下のようなアプローチで研究を進める。
アプローチ1)人と社会にとって森林の価値とはなにか。歴史的な時間スケールで明らかにし、価値観が相互作用環の形成にどのような影響を与えているかを明らかにする。
アプローチ2)現在の森林の過少利用状況に至る、自然環境・社会経済的な状況の変化と、今日的な生態系サービスの必要性/充足性を把握・可視化する。
アプローチ3)自然環境、社会経済状況の異なる複数の国々において、森林に対する人びとの価値観に関する調査を実施し、人と森林との関係性への影響要因を探る。
アプローチ4)上記を踏まえて、森林についての価値観が形成されるメカニズムを整理し、理論を提示する。
アプローチ5)上記を踏まえ、森林と関わる地域にある今日的な問題を解決するために、実践的な研究活動を行うなかで
未来にむけて新たな相互作用環の構築を目指す。


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  プログラムへの貢献について PDから一言

 

かつて森も水も人々の生活世界の延長上にあり、その管理や運用もそれを活用しともに暮らしてきた社会(コミュニティ)が担ってきた。しかし社会の近代化は、一方で生活に多大な便利をもたらしたが、他方で、それまで担ってきた、たとえば森や水の管理運用の権利や責任を手放し、国家や地方自治体にそれを委ねてきた。その結果生じたのが、人々の生活との「隔たり」である。このプロジェクトは、この「隔たり」がそれぞれの社会でいま、どのように表出しているのかを明らかにし、それが生み出す問題点と、「隔たり」を乗り越える方法と方向について展望しようとする、ある意味で文明史的な意義をもつ研究である。今年度は、フルリサーチに向かって、地域によって表現系の異なる「隔たり」のもつ多様性多義性のなかからとくに重点的に注目するものを特定することが必要となる

 

 

プロジェクト概要

本研究では,成長著しいインドの主要都市を対象として,熱帯アジアにおいて急増する都市住宅の省エネ・脱炭素化を目的とした新たな「パッシブ建築文化」の創成を長期的な目標とする。
ISとしての1年間の研究期間(2022年4月~2023年3月)では,ムンバイを対象としたフィールド調査を実施し,現状の把握を行うとともに,FS以降の研究のフレームワークを定めることを目的とする。
住宅居住者を対象としたアンケート調査によって,一般居住者のライフスタイルや気候適応行動,さらに,熱的快適性や健康状況を明らかにする。典型的住宅を対象とした実測によって,建物属性を調べるとともに,室内熱環境,及び,室内外の空気質の実態を明らかにする。一方で,地域内にある土着的建築(ヴァナキュラー建築)を視察し,そこに培われた伝統的建築技術を考察する。以上の調査結果から,「熱的快適性・健康」―「省エネ・脱炭素」―「幸福度・生活の質」を地域の文脈のうえでバランスよく同時に満たすための方法を考察し,これらの総体を建築文化としてまとめる研究フレームワークとその深化の方法を精査する。


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  プログラムへの貢献について PDから一言

 

経済成長と消費生活の拡大が著しいアジア社会において、低炭素のパッシブ建築の普及と活用は地球・地域環境問題にとって決定的に重要である。このプロジェクトは、インドの中小都市をフィールドにして、パッシブな住宅のあり方を明らかにしようとする意欲的な研究である。これまでの研究や開発実践においては、いかにして環境負荷の低い住宅を建設し普及することができるかに重点が置かれ、それを政策的にトップダウンで実装することが目的になっていた。これに対してこのプロジェクトでは、パッシブな住宅の建て方(建築の技術)ではなく、パッシブな住宅の住まわれ方(居住の技法)荷力点をおいて、それをボトムアップでまとめていく研究を目指している。本年度は、プロジェクトの目的趣旨に全面的に賛同し協力する現地の大学と協働して、6つの異なる住居様式ごとの質問紙調査といくつかの集約的な事例調査をおこないフルリサーチに備える予定である。

 

 

プロジェクト概要

 

人々は「持続可能性」をどのようなものと認識し、それに基づきどのように行為するのか、それは異なる文化コンテクストにおいてどのように表出するのか。今日、「持続可能性」の危機について、科学的データが多く提供されている一方で、それが人間の環境との関わり、行動、思考とどのように関わるのかについての人文社会科学的探究も理念的議論も十分になされているとは言えない。にもかかわらず、曖昧に共有された「持続可能性」概念は既にグローバルかつ規範的な価値として広がり、人々の行為、社会的責任や制度を伴う実体的変化をもたらしている。そこで本研究は、グローバルな科学知としての「持続可能性」が人々の生活世界での認識や行動とどのように接合または乖離しているのかを分析する。 インキュベーション〜予備研究段階では、「持続可能性」概念を概念史やテキスト分析を通じて要素分解し、それを元に、人々の価値・心理・行動を把握するための分析スケールと質問票を開発する。プレリサーチ以降では、異なる文化コンテクストで質問票調査と人類学的なフィールドワークを行う。


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  プログラムへの貢献について PDから一言

 

持続可能性(sustainability)は、今日の地球環境研究のキーワードの一つであり、それを核心にしたSDGsは国際社会から地方自治体まで浸透した政策ワードになっている。しかしながら、この言葉や概念ほど曖昧かつ立場によって意味が変わるものはないだろう。たとえばその地域社会に存在している資源を枯渇させず、新たに育てながら使用する場面から、ペットボトルや古紙の再利用(リサイクル)の場面から、化石燃料のように有限かつ環境に負荷のかかるものからそうでないものに転換する場面まで、持続可能性は多義的に使用される。一方で、社会や秩序の持続可能性(持続の追求)は、現在ある不平等や不公正な社会制度や規範の変革(革命)を留める機能さえ果たすだろう。このような多義的持続可能性のもつそれぞれの価値(本研究では基底価値と呼ぶ)から解き明かしていくのが本研究の目的であり、本年度は、いくつかの文脈と地域でその実験的解明を行う。



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