2023年度終了FS

モンスーン・アジアの都市住宅におけるパッシブ建築文化の創成

プロジェクト概要

この研究では、モンスーン・アジアの新興・途上国の都市居住者の間で、脱炭素化を目指した「パッシブ建築文化」を創り出すことを目指し、研究対象地のインドで、居住者の幸福度とエネルギー消費に影響を及ぼす要因を分析します。一方で、居住環境や行動の実態を調査し、「熱的快適性・健康」‐「省エネ・脱炭素」‐「幸福度・生活の質」を同時に満たす方法を考察します。

なぜこの研究をするのか

現在、都市人口が急増する国や都市の多くはアジア・アフリカの熱帯地域に位置しています。したがって、特にこれらの地域で急成長する中間層向けの都市住宅を省エネ・脱炭素化することが重要です。今、こうした熱帯地域の新興・途上国では、都市化と経済成長に伴ってエアコンが急激に増加しており、日本の住宅が戦後経験したような住宅の開放系から閉鎖系へのシフトが起こり始めています。つまり、日射や風通しなどの自然エネルギーを活用したパッシブな住宅から、窓を閉めエアコンに依存した閉鎖的な住宅へと変化しています。また、こうした都市化や西洋化が、一方で住宅やライフスタイルの画一化をもたらすことは、やはり日本の経験からも明らかではないかと考えられます。ライフスタイルや価値の多様性は、居住者の幸福度や生活の質にも大きく影響を与えうるものであり、これを都市住宅においても保持すべきかどうかを考察することは重要です。このような背景から、この研究では、エネルギー消費量の大幅な増大をもたらす開放系から閉鎖系へのシフトに歯止めをかけ、中間層向けの都市住宅にあっても地域性や多様性に富むパッシブデザインやパッシブな住まい方を普及させることが重要ではないかと捉えています。

写真1 デリー市内の都市住宅

研究の進捗状況

これからやりたいこと

このような問いに対して、研究チームは、単に建築技術を開発し提案するだけでは解決にならないと考えています。人々のライフスタイルや歴史・文化を深く理解したうえで、各地域の文脈のうえで行動変容なども含めた総体を建築文化として捉え、その創成を目指すことが必要です。この研究では、成長著しいインドの主要都市を対象として、住民自らが自然と省エネ・低炭素でパッシブなライフスタイルを営むような、行動変容を伴う新たなモード、文化を住民参加型の研究アプローチで探求し創成することを長期的な目標とします。IS期間では、デリーとカラグプルを訪問しフィールド調査を行い、都市住宅と伝統的住宅の建物属性や熱環境、ライフスタイルに関する実態を観察しました。さらに、デリーにおいては、大規模なアンケート調査を実施し、居住者の幸福度とエネルギー消費に影響を及ぼす要因を分析しました。このFS期間では、前年度にデリーで実施した幸福度調査を新たにカラグプルを対象に実施し、幸福度要因の多様性や地域性、さらに歴史性を考察します。また、デリーとカラグプルを対象に一年間の長期実測を行い、新たに季節変化を考慮して引き続き都市住宅と伝統的住宅の実態調査を実施し、室内環境と居住者行動の現状を把握します。

図1 研究全体の構成

メンバー

FS責任者

久保田 徹

広島大学大学院 先進理工系科学研究科・教授

主なメンバー

浅輪 貴史 東京工業大学 環境・社会理工学院
中野 康人 関西学院大学 社会学部
Nikhil KUMAR 広島大学大学院 先進理工系科学研究科
Shankha Pratim BHATTACHARYA Department of Architecture and Regional Planning, Indian Institute of Technology Kharagpur
Prashant ANAND Department of Architecture and Regional Planning, Indian Institute of Technology Kharagpur
Kshetrimayum Bangkim SINGH Department of Architecture, School of Planning and Architecture (SPA) New Delhi

研究スケジュール

2022年度
(令和4)
2023年度
(令和5)
IS FS

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