2023年度終了FS

森林の価値とは ―森と⽣きるひとと社会の未来像―

プロジェクト概要

日本は代表的な森林国であるが、近年、大面積を占める人工林の管理の不足や放棄の広がりに歯止めがかかりません。人びとは森林という存在から生活の面でも経済的な面でも「隔たり」、過少利用に起因する様々な問題が顕在化しています。この研究は人びとや社会の森林に対する価値認識を文化的側面も含めて問い直し、人や社会と森林との持続的な相互関係を再構築する道筋を示すことを目的とします。

なぜこの研究をするのか

皆さんは森についてどのような思いをお持ちですか。日本は国土の7割近くが森林で、世界的に見ても有数の森林国です。けれども、現在、日本では林業は活発な産業とはいえませんし、多くの人びとが都市に住み、中山間地の人口減少は歯止めがかかりません。また、実は日本の森林の半分近くは木材生産のために植えられたスギやヒノキの人工林で、多様な生物が棲む自然の森とはいえません。毎年花粉症のことが取り沙汰され森自体に嫌悪感をいだく人も少なくありません。林業に携わる人が減り、後継者の不足も深刻です。大切な国土の主要な植生である森林がこのような状況になったことの背景には、人びとが、森林がなぜ必要なのか、どのような森林である必要があるかという価値認識の喪失があり、結果、私たちは未来を見据えた森の管理や利用の方向を見通すことができなくなっているのではないでしょうか。

こうした問題意識に立って、私たちは人と森林の持続的な関わり方を再構築する道筋を示し、それに至るアプローチや必要な方法を創ることを目指します。このために、これまで人びとや社会が森にいだいていた価値観の変遷を歴史的に明らかにし、それがなぜ変化してきたのかを明らかにします。そうした人びとや社会の森に対する考え方や思いを踏まえた上で、これからの森林との関わり方を、地域の人びとと模索する実践を行いたいと考えています。

写真1:あなたは、どちらの森になじみがありますか?

研究の進捗状況

これからやりたいこと

今日の日本人が森林に対してどのような思いや考え方を思っているかを調べるのと同時に、これまで人びとや社会が森にいだいていた価値観の変遷を歴史的に明らかにしたいと思っています。このために、次のような調査を進めたいと思っています。琵琶湖の周りの山地を含む近畿地方の森林を調査の対象として、古代から中世、近世、近代、現代に至る森林植生の変化を明らかにします。古代から近代までの植生は花粉分析という手法によって浮かび上がらせます。湖の堆積物や周辺の様々な遺跡から出土する花粉資料から周辺の植生を推定するという方法です。同時にそれらの地域で、古文書や絵図の収集・整理を行い、人びとの暮らしや生業の中で森がどのように利用され、保全されていたかを明らかにします。

こうした日本での研究に加えて、フィンランドやドイツのようなヨーロッパの先進国、インドやインドネシアのようなグローバルサウスの国々の人びとなどに森林観について問う調査を行い、日本の調査と比較することで社会経済、自然環境、民族や文化の違いが森林観にどのような影響を与えるのかについても探って行きたいと考えています。

図1:私たちの研究体制

メンバー

FS責任者

⼤⼿ 信⼈

京都⼤学⼤学院情報学研究科・教授

主なメンバー

高橋 卓也 滋賀県立大学環境科学部
大石 高典 東京外国語大学大学院総合国際学研究院
日浦 勉 東京大学大学院農学生命科学研究科
森 章 東京大学先端科学技術研究センター
石原 正恵 京都大学フィールド科学教育研究センター
藤村 健一 福岡大学人文学部
安部 浩 京都大学大学院人間・環境学研究科
林 竜馬 滋賀県立琵琶湖博物館
Marjo Neuvonen Natural Resources Institute Finland
Agnes Rampisela Faculty of Agriculture, Hasanuddin University

研究スケジュール

2022年度
(令和4)
2023年度
(令和5)
IS FS

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