2023年度終了FS

「持続可能性」の基底価値の把握とそれに基づく地球規模課題の認識・実践の文化間比較

プロジェクト概要

「持続可能性」とは本来、SDGsに言及するかどうかではなく、人間同士、そしてそれを取り巻く環境との共生に関する根源的な思想の問題のはずです。この研究では、「持続可能性」が世界でどのような意味合いで使われているのかを入り口とし、それが人々の生活世界※での認識や行動とどのように関係しているのかを分析します。さらに、文化や考え方が違う社会で、我々が知らない環境と共生できるような知があるのかを探ります。

※生活世界:科学によって理念的に構成される以前に、われわれが身体的実践を行いつつ直観的なしかたで日常的に存在している世界のこと。エドムント・フッサールによって提唱された。

なぜこの研究をするのか

地球研では「持続可能性」を超えた「未来可能性」という考え方を掲げていますが、2015年にSDGsが国連総会で合意され、2021年にはサステナビリティが流行語大賞にノミネートされるなど、持続可能性はすっかり一般の人々に馴染みある言葉となりました。テレビや新聞では、企業の営利活動を通じたSDGsへの貢献や、私たちの生活の中で資源を再利用する努力をしている事例などが報じられます。学術研究の世界では、1990年代以降、持続可能性を主題とする研究の数が爆発的に増えていますが、そのほとんどはマクロの気象や地理データを扱ったり、ラボで実験するような理系の研究です。これらは皆、持続可能性という言葉を使って語られますが、根本では必ずしもつながっていません。しかし、本当に社会の持続可能性を高めることを目指すなら、自然と人間が共存するために、経済活動を規制するシステム、生物圏の中で人間はどのように存在するのかという哲学、将来との世代を超えた公平性を保つ民主主義など、様々な価値観や思想を伴う本質的な議論が必要です。

そうした本質的な議論のきっかけとなるよう、この研究では、まず人々が持続可能性に関する課題とは何で、それに対してどういう行動をするべきだと思っているのかを調べます。いろいろな考え方のパターンを見出し、そこから持続可能性のための共存に向けた多様な知を抽出することを目指しています。

図1:持続可能性とともに使われることが多い言葉たち

研究の進捗状況

これからやりたいこと

研究グループでは、昨年までの研究で、持続可能性の基底的価値観を整理する3つの思想ベクトルを設定しました。また、学術研究論文やネット上に公開された文書のなかで持続可能性がどのように論じられ、それが基底価値の3つのベクトルと整合するのか、何等かの偏りがあるのかを検討しました。これらに基づいて、図2に示した枠組みに沿って、人々の持続可能性に関する価値観、問題認識、行動と文化の関係を調査するための質問票を試作し、オンラインでフィリピンとケニアの200人の人に対して実施しました。

今後は、試行した質問票を修正し、配布対象者の選定と回収方法を検討し、異なる視点が効果的に抽出できるような対象者に配布します。こうしたコンテクストごとの分析を蓄積し、かつ横断的に共通性と相違性を検討することで、「持続可能性」概念をトップダウンに当てはめる演繹的な方法ではなく、質問票への個人の回答をもとに帰納的に構築し、グローバルなレベルに再帰させることを目指しています。このように、現象-概念-主体-社会構造の関係を実証的に分析しつつ思想・哲学につなげることで、理系中心になりがちな持続可能性の学術研究において、人文社会科学から、新しい切り口、発想を提示することが期待されます。

※生活世界:科学によって理念的に構成される以前に、われわれが身体的実践を行いつつ直観的なしかたで日常的に存在している世界のこと。エドムント・フッサールによって提唱された。

図2:この研究が探求する価値観・行動・態度・文化の関係

メンバー

FS責任者

山田 肖子

名古屋⼤学アジア共創教育研究機構・大学院国際開発研究科・教授

主なメンバー

米原 あき 東洋大学社会学部
木山 幸輔 筑波大学人文社会系
島津 侑希 愛知淑徳大学交流文化学部

研究スケジュール

2022年度
(令和4)
2023年度
(令和5)
IS FS

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