環境文化創成プログラム

環境文化創成プログラム

プログラム概要

地球環境問題の解決のために、先進的な科学技術に頼るだけでなく、科学と文化の接合を通して新しい価値観と生き方の創造に取り組みます。

地球環境問題という問題に私たちはどのように向き合い、どのようにして問題解決のための一歩を踏み出すことができるでしょうか。この問いかけに対して、文化と価値観の変容を切り口にしてアプローチする研究を束ねるのがこのプログラムです。まず地球環境問題がどのような「問題」として立ち現れているのかを「認識」する必要があります。そのために⾃然科学・社会科学の諸分野の連携によって複雑で膨大なデータを解析し現実の危機を「可視化(見える化)」します。こうした研究によって私たちは環境危機への「気づき」を手に入れ、危機についての認識を「共有」することができるのです。科学の力で危機を「可視化」—「気づき」—「共有」することで地球環境問題の解決のための準備ができるのです。

しかしこれがこのプログラムの最終目的ではありません。こうして「共有」された地球環境の危機の認識に対して、私たちが、そして社会がどのようにこれまでの⾃分たちの行動を変容させ、価値観を変革していくかを明らかにしなければならないからです。

その議論を展開するための出発点は、地球環境問題の現場、あるいは持続可能な社会の構築という議論の中にいかにして「文化」の視点を取り入れることができるかを探求することです。文化の視点というのは、グローバルやナショナルといった次元ではなく、もっと身近で親密なそこで共同して生きる人々のまとまりを重視するということであり、そこで人々がいかによりよく生きるかという価値を重視するということを意味しています。その中には、科学的知見とは異質な価値も含まれています。こうした価値に対して、矯正するのでも、賛美承認するのでもない、相互に変容しうるコンヴィヴィアル(異なったものが相互に特性を活かしてつながる様)で創造的な視点を作り出す必要があるでしょう。このプログラムはこうした視点を作り出す研究プロジェクトを総合するものです。

ミッションステートメント

所属プロジェクト等一覧

研究の進捗状況

このプログラムは2022年にミッションステートメントによるIS,FSの公募を実施し、2025年から3つのFRが揃って活動を開始します。

先述したように、環境文化創成プログラムの問題意識は、地球環境問題の解決のためには、科学的知識だけでは十分ではないということ、人々の価値観、生き方まで踏み込むためには、科学知とは異質な知や実践との、対等でコンヴィヴィアル(互いを活かして自立共生する)な連携・協同が必要だということ、という3つの視点がその核心にあります。

確かに人々の行動を変容させるには、法や制度に頼ることも必要です。しかしこのプログラムでは、現場の生活世界を基点にした「現場からのアプローチ」を基本にしています。科学的に正しい知識や政治的に正しい指示を「上から」、「外から」与えるだけでは、生活現場の現実はほとんど変わりません。そこから生まれたのが、地球環境問題にとっての文化の重要性です。

このプログラムでは科学知に加えて、もう一つの知識や実践を想定して、それと科学知との連動によって、人々の生き方や価値観、すなわち文化のあり方を明らかにします。

そのために有機物循環プロジェクトでは、生活知と科学知の連携を追求します。科学知をベースに、それをも一つのカードとして生活の必要と地域の文脈に応じて自在にブリコラージュ(切り貼り)して出来合いの知識や技術を再創造して発展させる生活知の豊穣性に注目します。

SceNEプロジェクトでは、アートと科学知の融合を目指しています。科学、とりわけ環境問題に関係する科学知と多様なアートの融合はこれまで多くの議論と実践・実験がなされてきました。しかし、この両者の根本的な関係はいかに捉えることができるのでしょうか。このプロジェクトは困難な、しかし可能性に満ちたこの領域に挑戦します。

そしてFashloksプロジェクトが展望するのは、在来知と科学知の共創による、地球環境問題における新しい知識と文化の創成です。地球環境問題の解決における在来知の重要性については、リオサミット以降「常識」化しています。しかしながら、在来知の何を評価するのか、科学知とどのような関係性を構築するのかについては、十分な議論は蓄積されていません。科学知の裏付けがある在来知はポジティブに評価するものの、その保証がない在来知は「矯正・啓発の対象」とされてきた歴史もあります。このプロジェクトはこうした複雑な関係の実践的かつ理論的な解明に挑戦します。

年報(業績一覧など)

メンバー

プログラムディレクター

松田 素二

総合地球環境学研究所特任教授/京都大学名誉教授

プロフィール紹介