実践FS

環境文化創成プログラム

森林野生動物の持続的で公正な狩猟に向けた地域実践と科学の協働研究

プロジェクト概要

生物多様性保全への関心が高まるなか、野生動物狩猟で暮らしを立ててきた熱帯雨林住民の生活と文化は存続の危機にあります。この問題の解決には、狩猟実践に基く在来・地域知を信頼する住民と、科学的根拠を重視する保全行政の間の相互理解が不可欠です。私たちは両者が対等な立場でおこなう「協働研究」を進め、持続的な狩猟に向けた地域主体の野生動物管理システムを開発します。

なぜこの研究をするのか

ペッカリー、サル、ヤマアラシといった熱帯雨林の野生哺乳類は、食物連鎖や種子散布などを通じて豊かな生物多様性を支えています。また一方で森に暮らす地域住民にとっては、哺乳類の肉は貴重なタンパク質と現金収入の糧であり、生業としての狩猟は地域固有の文化と世界観を育む文化多様性の源でもあります。

しかし過去30年間に熱帯雨林の狩猟圧が急速に高まり、野生動物の減少が各地で報告されるようになっています。この問題は「野生肉危機wildmeat crisis」として国際社会の関心を集め、各国政府は保護区の設置と厳しい狩猟制限を進めました。その結果として生業的狩猟までもが制限され、保全行政と住民との間に軋轢が生じています。野生肉危機は、グローバルな価値(野生動物保全)とローカルな価値(生業的狩猟の維持)との摩擦によって生じる環境問題の典型例といえるのです。

さらにこの問題の根底には、野生動物管理をめぐる科学と在来・地域知との間の相互不理解がある、と私たちは考えています。保全行政は国際社会への説明責任から、定量的指標など科学的根拠に基づく明示的な管理を重視します。他方で地域住民は、長年の狩猟実践を通して得た野生動物に関する在来・地域知に基づいて、暗黙的な管理を行ってきたと考えられます。科学と在来・地域知は、実践においては共通点も多いのですが、基礎的な思想に大きな隔たりがあるため、一方の知識にのみ基づく管理システムは、他方からは持続的で公正だとはみなされません。野生肉危機の真の解決には、科学と在来・地域知が相互理解を深め、生業的狩猟を組み込んだ地域主体型の野生動物管理システムの構築が不可欠です。

写真1:ピータースダイカー。カメルーン熱帯雨林における生業的狩猟の主な対象のひとつ

研究の進捗状況

これからやりたいこと

この研究では、環境・動物相・狩猟文化が異なる世界3大熱帯雨林の5つの地域において、持続的狩猟を可能にするための野生動物管理システムの導入を目指します。そのために、保全行政(=科学)と地域住民(=在来・地域知)が対等な立場で調査を立案・実施・評価する「協働研究coproduction research」アプローチをとります。自動撮影カメラなどの科学的モニタリング手法に在来・地域知のアイデアを組み込み、住民の狩猟実践からの検証も行います。一方で、在来・地域知に基づく住民の主体的な提案をもとに管理システムを構築し、それを科学の視点からも練磨します。

在来・地域知に対する科学の優越性を前提としない協働研究によって、5つの熱帯雨林地域に五者五様の管理システムが作られるでしょう。「守りながら利用する」という共通の目標を目指しながら、地域の固有性に対応した狩猟の仕組みを製作するプロセスを地域ごとに比較することで、環境問題における協働研究アプローチの有効性を検証します。

写真2:コンゴ民主共和国・ワンバ村における地域住民との会合の様子

メンバー

FS責任者

本郷 峻

京都大学アフリカ地域研究資料センター・特定助教

主なメンバー

徳山 奈帆子 京都大学野生動物研究センター
安岡 宏和 京都大学アフリカ地域研究資料センター
Nathalie van Vliet Center for International Forestry Research
松浦 直毅 椙山女学園大学人間関係学部
中林 雅 広島大学大学院統合生命科学研究科

外部評価委員による評価(英語)

研究スケジュール

2023年度
(令和5)
FS

研究の流れについて

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