調査エリア

主な調査フィールドは、生物多様性のホットスポットである琵琶湖流域です。また、アジアの途上国モデルとして、人口過密と富栄養化が深刻化するフィリピンのラグナ湖流域で比較研究を実施しています。これら2つの流域社会において、上・中・下流の地域で取り組む自然再生活動に焦点を当てながら、「水のつながり」を介した地域内と地域間の交流を促進しています。

 

 

琵琶湖と生き物の多様性

 

琵琶湖には、日本全土の淡水のじつに3分の1の水量が湛えられています。世界では百傑に満たない小さな湖ですが、3番目に古い歴史をもつ古代湖です。

また、世界屈指の生き物の多様性の宝庫としても知られます。琵琶湖に多様な生き物が生息することによって、私たちはさまざまな生態系サービス(自然の恩恵)を受けることができます。

琵琶湖にしか生息しない固有種は湖魚食文化を育み、森林は水源を涵養し、微生物は水質を浄化するはたらきを担います。また、自然との触れ合いを通して、生き物は楽しみや癒しを与えてくれます。このように、多様な生き物によって支えられる琵琶湖の生態系は、飲み水を供給するだけでなく、わたしたちの暮らしに豊かさをもたらしてくれます。

流域とは?

 

流域とは、山地や平野に降った雨や雪が河川水となって流れ下りながら集積し、湖や海に注ぐまでの領域を指します。琵琶湖の流域は、滋賀県の面積に匹敵します。

 

わたしたちの社会は流域を中心に発展してきました。わたしたちが流域で社会・経済活動を営むと、流域の環境が変化することによって、そこにすむ生き物や生態系に何らかの影響が及びます。流域の環境悪化によって、生き物の数や多様性が低下すると、めぐりめぐって、わたしたちが生態系から本来得られるはずの恩恵を十分に受けとることができなくなります。

流域の健全性とは、生き物の多様性を損ねることなく生態系を利用することによって、わたしたちが流域社会で持続的に豊かな暮らしを営める状態をさします。

 

流域の変化

 

今から半世紀前、高度経済成長の時代には、琵琶湖やその流入河川に生活・農業排水や工場廃水が大量に流れ込み、富栄養化が深刻化しました。また、水質の悪化によって、生き物の多様性が著しく低下しました。

 

滋賀県では、琵琶湖の富栄養化をもたらす物質の1つであるリンの湖内への流入を防ぐため、流域住民による「せっけん運動」が始まりました。これを契機として、リンや窒素など富栄養化をもたらす物質の排出を規制する条例が制定され、生活排水を浄化する流域下水道処理施設が設置されました。このような法律やインフラの整備によって、現在、琵琶湖の水質は改善しつつあります。しかし、生き物の多様性は十分に回復していないのが現状です。同時に、流域住民の身近な自然への関心も薄れつつあります。

 

 

健全な流域をめざして

 

そのような現状を踏まえて、栄養循環プロジェクトは、流域に暮らす住民一人ひとりが身近な自然の価値に気づき、行政や研究者など多様な主体と協働してその自然を守り、将来に受け継ぐことによって、琵琶湖流域の健全性を向上する活動(流域ガバナンスとよびます)を進めています。

 

 

流域の上流から下流、そして、琵琶湖の沿岸まで、それぞれの地域で培われてきた自然を賢く利用する知恵を活かし、地域固有の自然を守る活動を地域住民と協働して実践しています。そのような活動を通して、「人と自然のつながり」や「人と人のつながり」を促し、「地域のしあわせ」を向上するお手伝いをしています。このような活動の輪を流域全体に広げることによって、流域本来の循環のしくみを取りもどし、生き物でにぎわう琵琶湖を蘇(よみがえ)らせることをめざします。

 

 

調査地

 

琵琶湖に流入する河川の中で最も大きな野洲川の流域を対象として、その上流・中流・下流・沿岸の4つの地域で身近な自然を守る5つの活動に取り組んでいます。

 

※チーム名をクリックすると
       各詳細ページへジャンプします。


 

背景

明治時代、野洲川の上流に位置する甲賀の森では、薪炭や建材用に樹木が過剰に伐採されたため、森林が荒れ果ててしまいました。雨水や土壌を保持する能力を失った山林から大量の土砂が流出することによって、下流や沿岸の住民はたび重なる水害に悩まされました。このような状況を憂いて、甲賀の森の植林活動が始まりました。

 

 

 

 

課題

現在、甲賀の森は緑を取り戻しましたが、少子高齢化が進む当地では林業の担い手が不足することによって、山の手入れが行き届かず、森林生態系による土壌や栄養分を保持する能力の低下が懸念されています。

 

 

活動内容

栄養循環プロジェクトでは、森林の間伐が土壌中の栄養循環に及ぼす影響を科学的に評価するとともに、河川を介した森と湖のつながりを実感する活動を通して、流域住民が森林保全に直接・間接に関わるそ仕組みを作ることを目指します。

 

 

 

 

 


 

背景

 

甲賀市の小佐治地区は、野洲川の中流域に位置するお餅の名産地です。数百万年前、この一帯には、古琵琶湖が広がっていました。古琵琶湖の地層に堆積した栄養分に富む粘土質の土壌が当地のモチ米文化を育みました。その良質なモチ米は、皇室にも献納されました。

 

 

 

 

野洲川の本流と支流の杣川(そまがわ)に挟まれた小佐治は丘陵地形のため、河川の水を灌漑に用いることができません。谷筋ごとに谷津田を切り拓き、その最上流に沢水や雨水のため池を設ける天水灌漑が発達しました。水資源が限られていたため、上流部の水田の排水を下流部の水田で大切に循環利用していました。このため池・水田・河川の水のつながりによって湿地の生き物の多様性が育まれました。

 

 

課題

 

ところが、1955年に上流の大原地区に灌漑ダムが建設され、灌漑用水として使えるようになり状況が一変しました。コンクリートで作られた用水路と排水路が作られ、不要となったため池が消失しました。栄養分に富む水田の排水は、排水路から直接河川に流れ込むようになりました。また、水のつながりが失われることによって、湿地の生き物の多様性は低下してしまいました。

 

 

活動内容

 

そこで、地域住民が中心となり、伝統的な生業の知恵を活かした保全活動を始めました。水のつながりを再生し、生き物と人のにぎわいを取り戻すことをめざしています。森で育ち、水田で産卵するニホンアカガエルを「地域の環境ものさし」として、ひよせ(1年中水田内の水が乾かないようにするための溝)、田越し灌漑(高所の水田排水を低所の水田で循環利用する灌漑様式)、冬水田んぼ(冬季に水を張った水田)などの伝統的な灌漑様式を導入しました。 
栄養循環プロジェクトでは、この活動が湿地の生き物の多様性や水田の栄養循環におよぼす効果を科学的に評価する調査を地域住民と協働して実施しています。

 

 

 

 

 

主な成果

 

住民と地域の環境ものさしづくり

地域のしあわせを実感できる自然環境の目安を「地域の環境ものさし」と名づけて、住民と一緒にものさしづくりを開始しました。地域住民によ る主体的な活動を起点とした順応的流域ガバナンスの事例を紹介しています

奥田 昇・淺野悟史・脇田健一 2016年12月 超学際科学に基づく順応的流域ガバナンス:生物多様性が駆動する栄養循環と人間のしあわせ. 地理 62(1) :32-39.ISBN:4910061550177.
http://www.kokon.co.jp/
book/b278886.html

内容についてのお問い合わせ

ニホンアカガエル卵塊数による
地の保全活動の結果

生物多様性という概念は,地域での活動のモチベーションにするには捉えどころがないかもしれません。もっと分かりやすい指標を使って保全活動の結果を実感したり,時には活動の内容を変えてみたり,保全活動をもっと身近に,自分事として楽しみながら取り組むために「地域の環境ものさし」を提案しました。小佐治地区での2年間の実践研究の過程を示し,この地域でニホンアカガエルの卵塊数が「地域の環境ものさし」としてどのように機能したかを論述しています。また,以下の論文ではニホンアカガエルの卵塊数がこの地域の保全活動の結果を反映していることをGIS(地理情報システム)の分析を通じて明らかにしています。

地域の環境ものさし」による生物多様性保全活動の推進 淺野悟史・脇田健一・西前 出・石田卓也・奥田 昇.2018年9月 農村計画学会誌 37(2), pp150-156

  その他研究成果論文

Can the spawn of the Japanese brown frog (Rana japonica, Ranidae) be a local environmental index to evaluate environmentally friendly rice paddies?. Asano, S.,Wakita, K.,I ,Saizen., N, Okuda. 2016年10月 Proceedings for the 37th Asian Conference on Remote Sensing Proceedings (ISBN:9781510834613) pp.283-291

  外部サイトによる紹介

無印良品のホームページ「ローカルニッポン」で活動内容が紹介されました。

 

 

 

 

 

背景

 

米どころとして知られる琵琶湖流域の下流部には、広大な水田地帯が広がります。琵琶湖に生息する魚類の中には、増水時に出現する一時水域を産卵場として利用するものがいますが、かつては代替繁殖地として水田にも数多くの魚が産卵遡上しました。

 

ところが、1972年に始まった琵琶湖総合開発により、逆水灌漑(湖水を揚水して水田に供給する圃場整備)が導入されると、湖・水路・田んぼの生息地のつながりが分断されることによって、水田での産卵を好むコイ・フナ類の漁獲量が著しく減少してしまいました。

 

 

課題

 

そのような背景の下、滋賀県は、湖辺域水田を対象として魚類の産卵遡上を促す魚道を水田の排水路に設置する「魚のゆりかご水田プロジェクト」を開始しました。「魚のゆりかご水田」を実施した農家には補助金が支給されますが、労力を要する魚道の維持管理を割に合わないと感じる方も少なくありません。また、個人が所有する水田と異なり、共同管理されている用排水路の改変には集落の合意が必要です。これらの理由から、魚のゆりかご水田は湖辺農村社会にあまり普及していないのが現状です。

 

 

近年、水田に産卵遡上する琵琶湖固有種のニゴロブナが出生水田に母田回帰することが標識放流調査によって明らかになりました。しかし、このような母田回帰習性を野生魚が有しているか否か、また、母田に回帰する個体の割合に地域差があるか否か明らかになっていません。

 

活動内容

 

栄養循環プロジェクトでは、野生のニゴロブナの耳石の化学的な分析(ストロンチウム安定同位体分析)を行うことによって、水田に産卵遡上した個体の回遊履歴を明らかにする研究に取り組んでいます。

 

北国では、母川回帰するサケの産卵遡上を目的とした河川の自然再生活動が盛んです。人間は、回帰資源(帰巣習性をもつ生物資源)を保全することに努力を惜しまない傾向があります。生まれ育った場所に戻ってくる生き物の数が増えれば、その保全努力が報われるためです。ニゴロブナの母田回帰能力を科学的に実証できれば、地域協働でゆりかご水田の活動が促進されると期待されます。

 

 

 

 

 

 

主な成果

 

  セミナーの開催

第25回地球研地域連携セミナー「地域のにぎわいと湖国の未来:魚のゆりかご水田~5つの恵み~」を2018年12月2日(日)に滋賀県立琵琶湖博物館にて開催しました。セミナーには161名が参加しました。パネルディスカッションで話し合った内容はこちらからご覧になれます。

  メディアによる紹介

2019年7月10日京都新聞夕刊3面に上原研究員の寄稿文「現場と実験室から自然を診る〜 安定同位体分析を用いて」が掲載されました。

 

 

 

背景

琵琶湖岸には砂州によって内陸に取り囲まれた潟湖(ラグーン)が見られます。このような小水域は本湖(琵琶湖)に対して内湖と呼ばれています。わかっているだけでもかつては現在の7倍もの面積の内湖があり、湾曲した湖岸に沿って広大な湿地が広がっていました。浅い水辺は水中の植物にとって光の利用効率が良く生産性が高い特徴があります。ヨシ原が発達した内湖は、魚類の産卵場所や仔稚魚の隠れ家としても好適です。内湖に生育する魚類の産卵習性を巧みに利用した漁や田船による水運などを通じて、内湖は水郷で生活を営む人々の暮らしと深く結びついていました。 ところが、戦後の食糧増産の必要性から内湖の多くは干拓されて消失してしまいました。湖岸の改変以前と比べると、内湖の湖岸地形や河川流入の様子も様変わりしました。

 

 

課題

 

 平湖・柳平湖は埋め立てを免れた内湖の一つです。しかし、以前に比べると内湖への河川の流出入が少なくなり、生き物たちの生息地のつながりや循環のしくみは様変わりしました。かつては、この内湖にも湖魚が産卵に訪れ、川エビや貝類なども豊富に生息していました。生き物たちの生息地のつながりが縮小した一方で、近年は外来魚が増加しました。また、内湖に蓄積した栄養物質が過剰になり、夏場にはアオコや悪臭が発生するようになりました。

 

地元の志那町では、内湖の水質と在来魚の生息環境の問題に行政と共に向き合い、底泥のしゅんせつ(土砂の採取)や湖岸植栽・魚道設置などの事業計画にも参画してきました。一連の整備事業は平成29年度で終了します。内湖の持続的な保全と管理が地元の主体的な保全活動に委ねられることになっています。湖岸植栽整備、水田への在来魚の卵・稚魚放流、産卵観察、地元小学校の校外学習受け入れ、地元の漁協との釣り大会など、内湖本来の環境を保全し、水辺の生き物のにぎわいを実感する自主的な活動が始まっています。

 

 

 

活動内容

 

栄養循環プロジェクトでは、内湖に産卵遡上する湖魚の魚道利用状況に関するビデオ観察、魚類耳石の化学的な分析(ストロンチウム安定同位体分析)による回遊履歴の調査、環境水中のDNA分析による魚道設置後の魚類相のモニタリング調査を実施しています。また、湖内のリンなどの栄養の循環や微生物のはたらきを調べる調査も進めています。こうした科学的知見から住民の方々と共に環境を見守る活動の支えになるような取り組みを目指しています。

 

主な成果

 

内湖にすむ底生動物の種数が、人間活動によってどのように影響を受けているか調べました。調査の結果、周辺に宅地や水田が多い内湖ほど湖水が濁り、底生動物の種数が減少していることがわかりました。さらに、水路による水のつながりが湖水の濁りに影響する可能性も示唆され、内湖の生態系の保全を考える上で重要な知見が得られました。

(研究成果論文)Okano,J., J.Shibata, Y.Sakai, M.Yamaguchi, M.Ohishi, Y.Goda, S.Nakano, N.Okuda 2017,10 The effect of human activities on benthic macroinvertebrate diversity in tributary lagoons surrounding Lake Biwa. Limnology 2017 :1-9. DOI:10.1007/s10201-017-0530-2.

びわ湖のスジエビは春から夏にかけて内湖で繁殖し、冬にびわ湖の湖底で生活することが知られています。他方、冬に内湖に留まる個体がいるという報告もあり、その生態はよくわかっていません。環境DNA分析法(水中に存在するDNAから生物の生息を推定する手法)を用いて調査を行った結果、冬場も内湖でスジエビのDNA が検出され、採捕調査によってスジエビの生息が直接確認されました。本研究により、スジエビの生活史には多様性があり、内湖は越冬地として重要であることが明らかとなりました。

(研究成果論文)Wu, Q., K. Kawano, Y. Uehara, N. Okuda, M. Hongo, S. Tsuji, H. Yamanaka & T. Minamoto 2018,04 Environmental DNA reveals nonmigratory individuals of Palaemon paucidens overwintering in Lake Biwa shallow waters. Freshwater Science 37.0. DOI:10.1086/697542

 

 

背景

 

琵琶湖の水草は、浅水域の基礎生産を担うだけでなく、魚介類に棲みかを提供します。かつて、水草は、湖辺に暮らす人々の地域資源としても重宝されました。戦前まで、湖辺の農村社会には、水草を堆肥として利用する生業の知恵がありました。集水域から湖に流入した栄養分が水草に吸収され、再び、堆肥として農地に還元されることによって、流域の栄養循環が成り立っていたと考えられます。

 

ところが、戦後、化学肥料や農薬の普及に伴って湖の水質が悪化すると、水草帯は急速に衰退しました。近年、下水道などのインフラ整備が進み、湖水の透明度が増すことによって、水草の生育環境は大幅に改善されました。ところが、今度は、水草が増えすぎることによって、新たな問題が生じるようになりました

 

課題

 

琵琶湖では、1994年の大渇水による水位低下で湖底の光環境が好転したことを引き金として、浅い南湖の水草帯が一気に拡大しました。化学肥料の普及以降、堆肥として利用価値のない水草を刈りとる者がいなくなったため、水草は旺盛に繁殖しました。水草が異常繁茂すると、船の航行を阻害したり、ちぎれた水草が湖岸に打ち上げられて腐臭を放ったり、また、水草が湖水の流れを妨げ、湖底の酸素不足を引き起こすことで魚介類の多様性が低下するなど、さまざまな問題が発生しました。

滋賀県では、増えすぎた水草の駆除に取り組んでいますが、県の事業だけで広大な水草帯を管理するのは困難な状況にあります。

 

 

活動内容

 

栄養循環プロジェクトでは、水草堆肥が農地の栄養循環を高めるしくみを理解するとともに、流域社会の多様な主体と協働して、新たな地域資源として水草の利活用を促進し、持続可能な循環型流域社会をつくることをめざします。

 

主な成果

 

水草堆肥の活用

私たちが実施した圃場での実証試験から、水草堆肥を土壌に混ぜ込むことで微生物が活性化し、作物の成長がよくなることが確かめられました。水草堆肥を活用することで、化学肥料の利用削減と、集水域での栄養塩の有効利用も期待できます。

(研究成果論文)
大園享司・松岡俊将・藤永承平・保原達・奥田昇(2015)水草堆肥を利用して土壌―水域系内でのリン利用効率を高める.地球環境、20:11-16

音響を使用した新しい調査方法

湖に生育する水草の繁茂状況を調べるために、音響を使った新しい調査方法を開発しました。従来の水草を刈り取って、その重さを測る調査方法と新しい手法の結果をびわ湖の水辺で比較してみました。その結果、私たちの開発した手法を用いると、非常に高い精度で効率よく水草の繁茂状況を把握できることが確かめられました。また、この手法には、水辺の生きものの生息環境を損ねることなく水草を調査できる利点もあります。

(研究成果論文)
Mizuno,K., A. Asada, S.Ban, Y.Uehara, T.Ishida, N.Okuda(2018)Validation of a high-resolution acoustic imaging sonar method by estimating the biomass of submerged plants in shallow water. Ecological Informatics Volume 46, July 2018, Pages 179-184, https://doi.org/10.1016/j.ecoinf.2018.07.002

びわ湖とくらしについての
アンケート集計結果

びわ湖の近くにお住まいのみなさまが、びわ湖の環境についてどうお考えになっているか調べるために、2018年1月にアンケート調査を実施しました。質問票は大津市、草津市、守山市の約3万世帯を無作為抽出して郵送し、そのうちの15.2パーセントにあたる4,587件の回答をいただきました。ここでは、全回答の単純集計結果を公表しています。

びわ湖の近くにお住まいの方々へのアンケート調査から、回答された方はびわ湖の水草問題に非常に高い関心を持っていることが分かりました。特に、水草対策が環境問題の解決に役立つと考えておられる方が多数いました。また、水草堆肥が肥料として効果があるという理由から、家庭菜園で利用されていることも分かりました。今後は、水草堆肥の配布場所・方法を工夫して、水草堆肥の活動に多くの市民が参加できるようなアイデアを皆さんと考えていきたいと思います。

詳細はこちら

水草をメタン発酵で処理

わたしたちは、増えすぎた水草をメタン発酵で処理することでエネルギーに換えると共に、ここから排出される廃液を使ってクロレラなど微細藻類を培養する手法を開発しました。メタン発酵とは、酸素が無い状態でバクテリアが水草など有機物を食べると、最終的にメタンガスが生成される過程のことです。メタンは燃やすことができるのでエネルギーとして取り出すことが可能です。クロレラは健康食品や家畜の餌などになりますから利益を生みます。水草は、これらの技術を使って利活用し、適正な基準を設けて管理しながら刈り取ることで、持続的に利用可能な資源とみなすことができるようになるのです。

(研究成果論文)
Ban, S., T. Toda, M. Koyama, K. Ishikawa, A. Kohzu and A. Imai, 2018. Modern lake ecosystem management by sustainable harvesting and effective utilization of aquatic macrophytes. Limnology, in press. doi: 10.1007/s10201-018-0557-z.
 

 

背景

 

琵琶湖は、1950年以降、湖周辺から流入するリンや窒素などの栄養分が増加することにより、富栄養化を経験しました。流入するリンの量が増えるに従って、湖内で植物プランクトンが増殖し、湖の透明度は悪くなっていきました。しかし、1980年に富栄養化防止条例が施行されると水質は徐々に改善され、1990年代まではリンも植物プランクトン量も減少する傾向がみられました。リンの減少傾向は、南湖では今日まで認められるのに対して、北湖では横ばい状態が続いています。

 

 

 

 

課題

 

農業から排出される栄養分が、琵琶湖にどのような影響を与えているのか、実はあまりよくわかっていません。現在、田植え期を挟んだ5月初旬になると、琵琶湖には大量の濁水が流れ込みます。これらは、一旦、沿岸の湖底に堆積しますが、その後、どのような運命をたどるのか調べられていません。私たちは、湖の中でのリンの動きを明らかにすることで、琵琶湖の北湖でリンが減少しない原因を探ろうとしています。

 

活動内容

 

琵琶湖は富栄養化した頃よりはずいぶんきれいになりましたが、北湖に流入した農業に由来するリンの行方は不明のままです。私たちは、微量のリンを精密に測る方法(イオンクロマトグラフィー)を用いて、湖内のリンの分布を調べることで、これを明らかにしようとしています。これまでの2年間の調査により、北湖におけるリンの鉛直分布(深さごとの濃度)と季節変化が明らかになりました。さらに、最先端の方法(リン酸-酸素安定同位体分析法)を用いることで、これまでわからなかったリンの由来について調べています。  他方、琵琶湖へ流入する地下水についても調べています。琵琶湖にはかなりの量の地下水が流入していると考えられていますが、その全体像はよくわかっていません。地下水に由来するリンが、どの程度、琵琶湖のリンの循環に影響しているのか調査しています。

   

 

 

 

 

 

主な成果

 

測定方法によるリン酸濃度の比較

リン酸の濃度を測定する従来の方法(モリブデン青法)と新しい方法(イオンクロマトグラフィー)を用いて、琵琶湖の周囲に点在する4つの内湖の湖水中のリン酸濃度を測定したところ、従来法では測定結果が過大評価されていることがわかりました。この過大評価の原因として、植物プランクトンがつくり出す溶存態有機物(湖水に溶けている有機物)が関係していることが明らかになりました。

 


(研究成果論文)
Yi, Rong, Peixue Song, Xin Liu, Masahiro Maruo and Syuhei Ban, 2019. Differences in dissolved phosphate in shallow-lake waters as determined by spectrophotometry and ion chromatography. Limnology, Online First, https://doi.org/10.1007/s10201-019-00574-2.
         

 

ラグナ湖はフィリピンで最も大きな湖です。およそ1,500万の人びとが流域に暮らし、漁業や湖面養殖など住民の食料供給源として重要な役割を担っています。

  

 

 

背景

 

ラグナ湖西岸のシラン-サンタ・ローザ流域は、メトロ・マニラを中心として急速に拡大する社会・経済活動のフロントラインに位置します。下水処理施設などのインフラ整備が不十分なため、湖辺や下流域では、人口密集地からの生活排水や工業地帯からの工場廃水の流入、中・上流域では森林伐採や農地開発による土壌流出や農業排水の流入によって、河川や湖の富栄養化と生物多様性の消失が深刻な環境問題となっています。

 

課題

 

火山灰地に広がる本流域では、表流水が地下に浸透しやすいため、流域住民の飲用や灌漑用の水資源はもっぱら地下水に依存しています。経済発展・人口増加に伴う水需要の増加は地下水の過剰搾取と地下水位低下を招くとともに、地下水汚染による健康被害も懸念されています。

 

活動内容

 

 栄養循環プロジェクトでは、地下水の汚染源を突きとめ汚染軽減策を講じるための科学的知見を得るために安定同位体を用いた調査を実施しています。また、並行して、身近な泉や共同井戸を地域資源と捉えて、水辺環境を保全する住民活動を行政やNGOと協働しながら支援しています。