研究の目的

高緯度で内陸にあるシベリアは、世界で最も早期に大幅な温暖化が進行する地域です。ここでの寒冷・少雨の気候に順応した自然は、変化に対して脆弱です。気温やエネルギー・水循環の変化が引き金となり、雪氷・植生の変化、異常気象の頻発、最低気温の上昇や展葉期の早まりなどが生態系にもたらす影響など、様々な変化が引き起こされます。温暖化は二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの生態系での収支も大きく変化させます。

一方シベリアでは、ロシアの社会主義的近代化を経て、北極圏・亜北極圏の他地域と比べ独自の社会システムを構築しており、そこに暮らす少数民族と都市住民の環境の変化に対する適応性や防御能力などは、その社会構造、歴史、文化に強く依存します。

シベリアでの温暖化の自然や人への影響を正確に把握し、近未来を予測するには、その詳細な調査・分析が不可欠です。



研究の方法・対象地域

レナ河流域を典型とする東シベリアは、最も温暖化が顕著に現れ、その影響が大きいと予想されるので、ここを重点的な対象として選定し、その対照地域として西シベリアも対象に含めます。東シベリアでは降雨が少なく永久凍土地帯であり森林密度が低いという特徴があり、開発は遅れています。これに対し西シベリアでは、降雨や植生は東ヨーロッパに類似しているが、気温は低く、大湿原があり、石油・天然ガスの生産や重化学工業が発展しています。こうした違いに注目して東西を比較することは、地域特性を理解する上で重要な視点であります。

        


気候変化と開発が変化の駆動力であり、それらの現状把握と近未来予測をシベリア全体について行うことが第一の課題であります。ここでは、既に起こっている変化を調査した文献、今後の開発計画など既存の資料を精査します。また、自然生態系の水・炭素循環における機能や、そこでの二酸化炭素・メタンなど温室効果ガスの収支について、その年々の変化から、近未来予測のためのパラメータを取得します。少雨の気候ながら森林が形成されている東シベリアでは、水循環の変化が重要な鍵になります。これまでの研究で水循環の理解は進んできているが、地下貯留水など重要なプロセスの把握が不十分であります。また、近未来を予測するために気象と水・炭素循環の関係を過去にさかのぼって理解することも重要であります。

こうした自然の変動要因に基づく近未来予測と、予想される開発を前提に、都市住民と狩猟牧畜を生業とする少数民族について、その衣食住の生産・消費に関わる文化的・地域的特質をふまえて、どの様な変化が生じるかを明らかにします。そのためには、過去の異常気象や現在進行している温暖化の特徴を捉え、環境変動と歴史変動の相互作用を要因とする社会の変化や、変動の影響を吸収する社会文化のメカニズムを、環境認識・経済生産活動・交通インフラ・少数民族の生活などを対象として明らかにします。



期待される結果

温暖化と開発の進行予測の下で、現在生じている変化とその特質を明らかにし、北極圏・亜北極圏における近未来の人と自然の変化を予測します。これは温暖化の早期警報としても、また、わが国の気候や資源需給に直接かかわる問題としても、重要な課題であると考えます。

温暖化の人や社会への影響は、直接的にはその経済発展段階、社会的な吸収能力に依存しますが、背後でそれを支える社会文化要素が重要です。グローバルな気候影響予測モデルでは社会文化にかかわる要素が軽視されていますが、その重要性を指摘できると期待されます。



G1: シベリア広域グループ

  • G1a: 炭素・水循環サブグループ
  • G1b: 温室ガスサブグループ
  • G1c: シベリア概況サブグループ

G2: 水循環-生態系相互作用
プロセス研究グループ

  • G2a: 過去の復元サブグループ
  • G2b: プロセス研究サブグループ
  • G2c: モデル解析サブグループ

G3: 人間生態グループ

  • G3a: 氷結水環境 サブグループ
  • G3b: 生業パターンサブグループ
  • G3c: 環境認識実践サブグループ