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病原生物と人間の相互作用環

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C-06

プロジェクトリーダー

川端善一郎 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

ヒトや家畜や野生生物の感染症の発生と拡大は、人類が直面するきわめて深刻な地球環境問題です。本プロジェクトは、コイヘルペスウイルス(KHV)感染症(写真)をモデルとし、「人間による環境改変が感染症の発生と拡大を引き起こす」ことを実証的研究に基づいて明らかにしようと試みました。病原生物と人間の相互作用環の視点から、さまざまな感染症の発生と拡大を未然に防ぐ環境と、病原生物への対応の方法を提案することをめざしました。

 

何がどこまでわかったか

「人間による水辺の環境改変によって、KHV感染症が発生・拡大する」という仮説がほぼ実証できました。さらに、この相互作用環を概念モデルとしてさまざまな感染症に適用し、人間による環境改変が感染症の発生・拡大にかかわる過程の理解を深めました。

 

私たちの考える地球環境学

世界の感染症対策は、診断法や拡大防止法の研究に力が注がれていましたが、KHV感染症をはじめさまざまな感染症の事例から、感染症の発生・拡大を未然に防ぐには、細胞や個体レベルの病理的メカニズムの解明にあわせて、自然環境中における病原生物の動態と、病原生物を生み出す背景と考えられる「人間による環境改変と病原生物とを含めた宿主」の相互作用環の理解が不可欠であることがわかりました。KHV感染症の例では、コイの大量斃死(へいし)後もKHVが広域的かつ長期的に水域に存在することから、KHVをコイの生息地から排除することはきわめて難しく現実的ではないことがわかりました。このことから「病原生物が存在しても感染症が起きにくい環境対策、つまり環境と人間の関係を築くことが重要である」ことが提示できました。地球上どこでも適用できる概念と、この概念に沿った具体的実証研究が地球環境問題の解決には不可欠です。

新たなつながり

(1)研究手法の開発による国際的つながりができました。自然環境中のKHVおよび宿主であるコイの居場所を定量的に把握する世界初の手法を開発しました。これにより世界の研究機関が手法を共有し、世界規模の調査が可能になりました。

(2)人間の環境改変によって起きる感染症を「環境疾患」と呼ぶことを提案しました。その結果、感染症に関する国際会議で多くの人と「環境疾患」の考え方を共有することができるようになってきました。

(3)上海交通大学と地球研中国環境問題研究拠点との共催で国際シンポジウム「湖の現状と未来可能性」を上海交通大学で開催し、「環境疾患」も考慮した湖の環境保全対策について人文社会科学分野の研究者とも議論し、確固たる実証研究に基づいた施策の提案の重要性を確認しました。

(4)研究成果を論文として多くの国際誌に発表しました。研究成果をさらに進展させるために、元研究員を中心にいくつかの共同研究を開始しました。研究成果は海外の研究機関からの招待講演にて発表し、「環境疾患」の重要性を広めました。

写真 コイヘルペスウイルス感染症で死んだコイ(琵琶湖、2004 年松岡正富撮影)
コイヘルペスウイルス感染症で死んだコイ
出典:総合地球環境学研究所編(2010)『地球環境学事典』 弘文堂、p.284

 

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