Studies勉強会

第1回勉強会(「気候変動」基礎の学習)

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木原 浩貴 氏京都府地球温暖化防止活動推進センター 副センター長/総合地球環境学研究所 客員准教授
(講義より一部抜粋)
(講義より一部抜粋)

■グレタ・トゥーンベリさんのプレゼンテーションを視聴

グレタ・トゥーンベリさんは、自分達の未来を奪おうとしている大人に向かって強烈なメッセージを発している。世界中で、「Fridays For Future」という名前で若者が声をあげている。京都でも行われている。ヨーロッパの調査時、「政治家は、『気候変動問題に取り組む』と言わなければ、若者から票が得られない」と聞いた。日本ではどうか。京都では広がっているか。そういった取り組みを聞いて、皆さんはどのように感じるか。

①気温の上昇

「気温は本当に上がっているのですか?」という疑問に対して、議論の余地はない。二酸化炭素やメタン等が影響している。

②温暖化のメカニズム

宇宙に逃げていくはずの赤外線がスムーズに出ていけなくなり、地球の温度が上がっている。

③温暖化は人間が起こしたことか

「本当に人間が起こしているのか?」という問いかけもあるが、国際的機関の最新の報告書によれば、人間が温暖化を起こしている可能性は、95%以上である。皆さんは、この数字をどのように捉えるか?(その後の報告書では、「疑いの余地がない」と表現)

④気温はこれからどうなるか?

未来は決まっていないため、これからどうするかによって変わってくる。現在の程度の温暖化対策を続けた場合、2100年までに気温が4度程度上がると言われている。グレタさんらは、「このように気温が上がっていく中で社会を引き継がれても困る」と言っている。

例えば、日本でも2018年の7月は非常に暑く、熱中症の死亡者数は、1か月で1000人を超えた。産業革命以降、人間は、燃料等を燃やして二酸化炭素を出してきたが、「二酸化炭素排出による温暖化が起こっていなければ、これほど高い気温にはならなかった」という研究もある。

⑤CO₂排出量0について

基本的には、CO₂等の排出量を0にしなければ温暖化は止まらない。産業革命以降の気温上昇を1.5度に抑えないといけないが、すでに1度程度は気温が上がってしまっているため、残りの0.5度で抑えようと思った場合は、2050年までに0にしないといけないことがわかってきている。

⑥CO₂ゼロに向けて

今は、エネルギーを得るために、化石燃料を燃やしている。効率よく使用して、エネルギーの消費量を減らしていく。エネルギーが必要なところは、再生可能エネルギーで賄っていく。どうしても化石燃料を使ってしまう部分は、数多くの木を植えたり、機械などで吸収したりする。

⑦大きな動き

たとえば、2015年にできたパリ協定では、将来的にCO₂の排出量を0にすることを、すでに世界で合意している。当然日本も合意している。2050年までにCO₂排出量を0にする。2030年までに、CO₂排出量をおよそ半分くらいにしなければならないことがわかっている。これからの暮らしと産業と地域づくりの最低限の基盤になっていく。

日本も10年後の2030年までにCO₂排出量を46%にするという目標を出している。京都府や京都市も、「CO₂排出量0を目指す」と言っている。様々な企業も、「私達の事業は、自然エネルギーだけを使用します」と宣言している。自治体でも、徐々に同じような宣言を始めている。例えば、京都府福知山市役所では、「再生可能エネルギーだけを使用していく」と宣言している。

⑧事例:トヨタ自動車

例えば、トヨタは、「2050年までに、バリューチェーン全体でCO₂排出量を0にします」と言っている。バリューチェーンは、取引先全部である。ペンキ1滴、ネジ1本に至るまで、CO₂排出量0でつくっていく。そうしなければ、トヨタと取引できないということである。

⑨世界はどのように動いているか

イギリスでは、「2030年にはガソリン車とディーゼル車は販売禁止にする」と言っている。ノルウェーでは、より早く、「2025年には販売禁止にする」と言っている。ドイツやフランスも「2040年には販売禁止にする」と言っている。

⑩再生可能エネルギー

1990年頃の日本は、太陽光発電が普及し、世界でもトップクラスに再生可能エネルギーで電気をつくることができていた。しかし、その後の日本での再生可能エネルギーによる発電は、まったく伸びていない。イギリスは、海に風力発電を数多く建てることで、再生可能エネルギーの発電割合が増えている。ドイツでも、再生可能エネルギーによる発電は、全体の40%程度ある。デンマークでも、目標数値よりもはるかに早いスピードで伸びている。オーストリアでは、90%程度の電気が自然の恵みのエネルギーでつくられている。「再生可能エネルギーや自然の恵みのエネルギーの値段は高いのではないか?」という疑問については、是非調べてほしい。

⑪気候変動や温暖化に関する意識

温暖化というものが大変な問題だと分かれば分かるほど、つらくなって、目をつむりたくなってしまう調査結果がある。別の調査によれば、日本では、「温暖化対策はつらいものだ」とか、「やらなければいけないものだけれど、つらいものだ」と回答する人が6割いる。諸外国を見ると、「温暖化対策を行うことで、暮らしの質が良くなる」「生活の質が上がる」と回答する人が多い。こういった結果を、どのように見ていったらよいだろうか。

第2回勉強会(「気候変動」発展の学習)

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江守 正多 氏国立環境研究所地球システム領域 副領域長/総合地球環境学研究所 客員教授
(講義より一部抜粋)
(講義より一部抜粋)

①世界平均気温の変化

世界平均気温は、変動しながらも徐々に上がっている。1年ごとに見た場合は非常に不規則に変動しているが、長期的に見た場合、気温は上がっている

②気温の変化と人間活動

過去100年間の世界の平均気温の変化を調べる際に、科学者は、コンピューターシミュレーションを使用する。自然界の法則を数式にして、コンピューターで解くことによって、実際の地球ではできないような実験もコンピューターの中で可能となる。人間活動を計算に入れなければ、実際に起こった気温の上昇は説明できない。

③より長い期間の気温の変化

昔は太陽活動の変動などによって温度が上下していたが、そういったものとは比べ物にならない温度上昇を人間が起こしている。過去のデータは温度計で計測したものではなく、木の年輪等から推定したデータである。不確実性はあるが、世界中の研究者が様々なデータを集めてきた最新の結果である。過去2000年間から見ても、最近の気温変化は特別である。

④CO₂濃度

気温は上下するが、氷期と間氷期の間のCO₂濃度の差は、約100ppmである。それに対して、産業革命前から現在までの人間活動によって排出されたCO₂濃度は、すでに約130ppmと言われている。過去200年で人間がつくりだした変化は、10万年程度かけて地球が自然に変わるリズムよりも大きくなってしまっている。

太陽活動の変動よりも、人間活動のほうが地球に及ぼす影響が大きいということで、地球にとっても非常に特別な時代に生きている。そういった時代を「人新世」と呼ぶが、人間というものが、地球に対して最もインパクトを与えているような時代に生きているという認識が必要になる。

⑤地球が温暖化することによって、何が起きるか?

まず、異常気象が増えている。30年に1度よりも稀なものを「異常気象」と呼ぶ。今の気温は、長期的に上昇傾向にある。そのため変動が極端に振れたときに、平均の上昇が重なっている分、より記録的になってしまう。極端な変化があることで何が起きるか。海面が上昇する。洪水が起きる。気温が上がることによって大気中に水蒸気が増えるが、大雨になると、水蒸気が増えた分だけ、より記録的な大雨となってしまう。水蒸気が多いと、台風もより発達する。平均気温の上昇が重なっているために、熱波もより記録的になる。

特に海面上昇について、バングラデシュのような沿岸の発展途上国や、キリバスやツバル等の小さい島国で海面が上昇すると、水害が増え、やがては国がなくなってしまうのではないかと言われている。難民になることもある。食料安全保障や水資源不足という問題については、特に乾燥地域の発展途上国で見られる。地球温暖化によって、中東やアフリカの国で干ばつが増え、食料がなくなり、収入がなくなり、水がなくなるところが出てくる。

⑥不公平な構造

そういった国に住んでいる人々が悪いのではなく、先進国や新興国の人が排出したCO₂によって問題が引き起こされている。先進国や新興国の人々と比較すると、発展途上国の人々はCO₂を排出していないにも関わらず、生きるか死ぬかという影響を受ける人たちが数多く出てくる。非常に不公平な構造がある。

また、将来世代の人にとっては、より深刻な問題である。将来は今よりも温暖化が深刻になっていくことで、より悪い影響の出た地球の上で、長く生きていかなくてはならない。そういった原因をつくったのは前の世代のはずで、非常に不公平ではないか。生態系にもダメージがある。こういった構造を、是非おぼえておいてほしい。

⑦日本におけるCO₂排出量

去年はコロナの影響があり、CO₂排出量が少し減少した。2019年と比較して、2020年の1年間でCO₂排出量が7%減少したと考えられている。経済を止めるとCO₂排出量が減少することを、期せずして実験してしまうことになった。経済を我慢してCO₂排出量を減少させることは、本来行おうとしていた方法ではない。

⑧どのようにしてCO₂排出量を削減していくのか

まず、省エネがある。再生可能エネルギーもある。原子力発電の運転にはCO₂を排出しないが、事故の心配や、廃棄物の問題がある。火力発電所では石炭や天然ガスを燃やすが、CO₂を大気に排出せずに、地中に穴を掘って、排出されたCO₂を埋めてしまうという方法も考えられている。ただしコストがかかるために、本当に行うかどうかは別の問題である。

車の燃料や飛行機の燃料を、電気や水素やバイオマスに置き換えるということもある。大気からCO₂を吸収するということも、可能であれば、行ったほうがいいことである。ただしコストもかかる。副作用もある。本当に行うかどうかは別問題である。

⑨対策について

1997年にできた京都議定書に従ってCO₂排出量を減少させていた2008年から2012年当時は、経済的な負担にもなるため、他の国に押し付けて、CO₂を減少させようという駆け引きがあった。

現在はパリ協定の時代になった。「パラダイムが変わった」と言われる。技術の変化が入ってきた。たとえば、太陽光発電や風力発電の値段が、安くなった。火力発電よりも安い地域が世界に数多く出始めて、再生可能エネルギーが急激に増えている。「再生可能エネルギーをビジネスにして、いかに儲けることができるか」という、経済的なチャンスの奪い合いが起きている。

⑩日本の動き

日本では、現在、火力発電でほとんどの電力を賄っているが、現在の電力需要の約2倍程度は、再生可能エネルギーでつくりだすことができると見積もられている。6割程度は洋上風力で、2割が陸上風力で、2割が太陽光である。経済性が改善されればさらに増える。

課題もある。再生可能エネルギーによる発電は、日本では未だに海外と比較して高いコストがかかる。乱開発の是正という問題もある。非常に急いで再生可能エネルギーによる発電を増加させていく必要があり、非常に大きな挑戦である。

⑪今の私達にできることは何か?

コロナ禍の場合と比較する。コロナ禍において私達ができることは、マスクをすることや、手を洗うことや、消毒をすることや、距離をとることや、なるべく出かけないということである。いつまで行えばいいか。出口を考えると、ワクチンや治療薬が全員に行き渡ることによって集団免疫ができるので、そのときまではこのような活動を行っていきましょうという話になる。

気候危機についても、私達にできることとして、「使用していない電気を消してください」ということ等を言われると思う。いつまで行っていればいいか。結論から言うと、脱炭素するまでである。そうであれば、私達1人1人にできることは、少なくとも、電気を消すという行動だけではなく、早く再生可能エネルギーによる発電が増えることを応援することである。そういった活動の後押しをし、加速をさせ、私達1人1人が興味を持ち、友達に話し、SNSで発信することである。あるいは、こういった活動を頑張っている企業や、政治家を応援することや、自治体の取り組みに参加するということも、私達1人1人がしなくてはならないことなのではないかと思う。

⑫さらに大きい出口を考える

「さらに大きい出口を目指さなくてはいけないのではないか?」たとえば、ワクチンや治療薬が行き渡り、コロナウイルスを抑え込むことができるかもしれない。しかし、「すぐに次のウイルスが出てくるだろう」とも言われている。なぜなら、人間が生態系に入り込み、森林伐採をしたり、野生生物をとって食べたり、観光に行っていると、ウイルスが、野生生物から人間社会に入ってくるためである。ウイルスが入ってくると、社会の中に格差がある場合、社会的に弱い立場の人達から、深刻な被害を受ける。ワクチンの奪い合いや、責任の押し付け合いが起きてしまう。

気候変動に関しても、似たような点があるかもしれない。技術を全部入れ替えたとして、もしもCO₂が排出されないようになったとしても、全員が幸せになっているかどうかということは、また別の問題である。こういった大きな問題の出口を考えなくてはならない。

第3回勉強会(「気候正義」の学習)

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宇佐美 誠 氏京都大学大学院地球環境学堂 教授
(講義より一部抜粋)
(講義より一部抜粋)

①「気候正義」の2つの意味

「気候正義」には2つの意味がある。1つは、「理論としての気候正義」。これは、気候変動や気候変動政策をめぐって問題となる正義や責任について、哲学的・倫理学的に考えるという研究の全体をいう。

もう1つは、「実践としての気候正義」。気候変動によって特に深刻な被害を受けるのは、先住民や人種的少数派(例えばアメリカでは先住アメリカ人やアフリカ系アメリカ人)である。そういった人たちの政治運動や社会運動では、「気候正義」という言葉がスローガンとして使われてきた。

②理論としての気候正義

「気候正義論」は、1990年代初頭に始まった。先進国の1人当たりの二酸化炭素(CO₂)排出量は、多くの途上国とくらべて非常に多い。ところが、途上国では、気候変動による被害が先進国よりもはるかに深刻である。そこで、先進国は、特に重い責任を負っているのではないか。そうだとすれば、先進国の責任は理論的にどのように説明できるか。これが、気候正義論の研究者の多くに共通した問題意識である。

気候変動の対策には、緩和策と適応策がある。気候正義論では、緩和策に着目した上で、温室効果ガスの排出権を個人単位で考え、これを地球単体でどのように分配するのが正しいかを考える。この論点は、便益や負担の分け方の正しさを論じる「分配的正義論」を気候変動に応用したものである。別の大きな論点は、次のようなものだ。気候変動は、非常に長期的で、しかも加速度的に深刻化してゆくだろうとされている。そこで、私たち現在世代は、将来世代に対して、何らかの責任を負っているのか、また負っているならば、それはどんな責任か。これらの論点や他のさまざまな論点について、研究が大きく進んできた。

③「気候正義論」が教えてくれること

気候変動を防ぐために、「電気を無駄にしないように」とよく言われる。こうした1人1人の心がけにも意味はあるが、それだけでは気候変動は解決できない。社会の仕組みが変わらないかぎり、気候変動は今よりいっそう深刻になってゆく。気候正義論は、気候変動を少しでも緩やかにするために新しい制度や政策を作ってゆくとき、その倫理的な土台を教えてくれる。

④「気候正義運動」が気づかせてくれること

私は最近、気候変動をめぐって3種類の格差があるということを強調している。1つ目は、先進国は途上国よりも、世界の富裕層は貧困層よりもはるかに多くCO₂などを出しているという「排出格差」である。2つ目は、途上国の人たち、そのなかでも社会的・経済的に不利な人たちが、気候変動からの被害をとくに深刻に受けるという「被害格差」だ。3つ目の、「対策格差」も重要である。世界全体で、あるいは一国のなかで貧困な人たちやぜい弱な人たちが、緩和策や適応策によっていっそう不利になってしまうことがある。これら3つの格差を背景にして、「気候正義運動」が生じた。気候変動を緩やかにするために必要な社会の新しい制度や政策は、不利な人たちや脆弱な人たちに犠牲を強いるようなものであってはならない。こうした人たちの最小限の利益を守り、被害が生じたらそれを補償するような制度が必要になる。このことを、「気候正義運動」は気づかせてくれる。

⑤私たちはどうするべきか

皆さんに3つのことをお願いしたい。何よりもまず、科学者の声にしっかり耳を傾けてもらいたい。その上で、周りの目を気にせず、自然科学的な知識に基づいて、自分自身の意見をはっきりと言ってほしい。そして、社会の仕組みを変えてゆくために、また社会の意識が変わってゆくために、自分には何ができるかを、自分自身でしっかり問うてほしい。

⑥若者の声が求められる時代

人間の活動が引き起こす急速な気候変動というものは、人類史上初の、まったく新しいタイプのグローバルな問題である。人類は過去に、こういった問題に直面することがなかった。気候変動を少しでも抑えるには、個人の心がけでは足りず、社会の仕組みを変えることが必須である。しかし、私を含む壮年や、ましてや高齢の人たちは、これまでの仕組みに慣れてしまっている。そこで、制度をどうやって少しだけ良くするかについては、知恵を出せるが、制度をどうやって大きく変えるかについては、アイデアを出すのがどうしても苦手だ。そこで、若者の出番となる。気候変動をさらに深刻にしてゆかないためには、若者がもつ斬新な発想と行動力が必要なのである。

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