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琵琶湖-淀川水系における流域管理モデルの構築

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プロジェクトリーダー

谷内茂雄 京都大学生態学研究センター(総合地球環境学研究所 2008年3月迄)

研究プロジェクトについて

流域管理の上では、流域の階層性に由来する多様なステークホルダー間の問題認識の違いが、トップダウンとボトムアップの対立を引き起こします。私たちは、この問題を乗り越えるために「階層化された流域管理システム」という制度(メカニズム)を提案しました(図参照)。この考え方に立って、琵琶湖流域における農業濁水問題を事例として、コミュニケーションを基盤とした環境診断・流域管理の方法論の開発を進めてきました。1)住民参加・ガバナンスを理念とした流域管理のための新しい方法論を、2)理工学と社会科学の連携による分野横断的なアプローチによって、3)琵琶湖流域の3つの階層(滋賀県:マクロスケール、滋賀県彦根市稲枝地域:メソスケール、稲枝地域内の集落群:ミクロスケール)での実践的な調査活動をもとに、4)時代の要請にこたえうる流域環境学・地球環境学をめざして推進してきた点に特徴があります。

 

何がどこまでわかったか

(1)流域診断手法の開発と流入河川-琵琶湖の関係解明

安定同位体や微量元素などの新しい環境診断手法を取り入れて検討した結果、琵琶湖の水質形成・富栄養化に、湖東の中小河川の農業活動の潜在的インパクトが大きいこと、地域住民によるボトムアップからのきめ細かい水管理や水路掃除などが、琵琶湖の環境保全において有効・必要であることがわかりました。

(2)農業濁水問題の全体像とコミュニケーション手法の開発

濁水問題の背景には、戦後農政や地域農業構造の大きな変化、それにともなう農家の兼業化・後継者問題の深刻化という、社会的な問題構造があることがわかってきました。また、住民が地域の水環境やその未来像について話し合い考えていくことを支援する、実践的なワークショップ手法を開発しました。水環境の現況や保全策に関する情報提供が、農家の環境配慮の意識や行動へ及ぼす影響を検証する、実践的なワークショップを開催しました。これらの調査活動を通じて、集落の個別性を前提としたコミュニケーション手法の必要性と、社会関係資本などの社会的条件の重要性が明らかになりました。

図:農業濁水問題を事例とした琵琶湖流域における階層化された流域管理システム

赤い円(左図)と緑のボックス(右図)で示した滋賀県、彦根市稲枝地域(■で示した地域)、稲枝地域内の集落群は、いずれも農業濁水問題に関係した地域社会のステークホルダーですが、その問題意識は異なります。階層化された流域管理システムとは、1)不確実性に対処するための、各階層に応じた環境診断によるモニタリングとフィードバックの仕組み(PDCAサイクル)、2)階層間で分断されたコミュニケーションを促進する仕組み(赤い矢印)を、地域社会の中につくっていくことで、多様なステークホルダーのガバナンスに基づいた流域管理を進めようとする考え方です

 

地球環境学に対する貢献

グローバルな地球環境問題の解決には、1)流域が、地域の環境問題だけでなく、地球環境問題の具体的な解決を実践する重要な空間スケールでもあることへの留意と、2)その際、流域内のステークホルダーの、多様なものの見方や環境への関わり方をどのように調整するかが重要な課題となります。私たちは、コミュニケーションを基盤とした流域管理の研究を通じて、地球環境問題解決のための実践的な方法論構築にも貢献できたと考えています。

 

成果の発信

プロジェクトの「最終成果報告書」をぜひ読んでいただきたいと思います(ISBN 978-4-902325-11-9)。全国の大学図書館、滋賀県の自治体図書館等でご覧いただけます。5年間の分野横断的な流域管理研究の成果を、地球環境問題を見据えた「流域環境学」構築のはじめの一歩としてまとめています。最新の研究成果だけでなく、新しい学問を創るために私たちが試みた、地域における実践、分野を超えた学問の連携の意義、また研究者が挑戦すべき学問的・社会的課題など、その根幹にある地球研のプロジェクトとしてのメッセージとダイナミズムを伝えるよう執筆しました。

 

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