脳神経疾患に対する「ケアの生態学」アプローチ

―生態社会環境に埋め込まれた包括的ケアのモデル構築
  • FS1

研究プロジェクトについて

本FSでは、地球上の多様な生態−社会環境と密接に関係した健康問題を解決するための研究と実践の枠組みとして「ケアの生態学」を提起します。てんかんと認知症という二大脳神経疾患に焦点をあて、さまざまな生態−社会環境の中で生きる人びとの生活の質を決定する諸要因としての知識、技術、社会性、価値を包括的に記述し、それらの相関を理解するための学際研究の枠組みを構築します。

なぜこの研究をするのか

脳や神経系の病気にはさまざまなものがありますが、中でもてんかんと認知症は多くの人たちが患っている病気です。てんかんは適切な治療によって治癒や改善が期待できる病気ですが、医療福祉の人材や施設などが不足している国や地域では、患者さんの多くが適切な治療や支援を受けられずにいます。認知症は治療が困難な疾患です。世界人口の高齢化に伴って、医療・福祉資源の限られた国や地域でも、認知症の患者さんが急増することが見込まれています。

医療・福祉資源の限られた国や地域で生活する脳神経疾患の患者さんとその家族の生活の質を向上させるためには何をしたら良いのかという問いが、この研究の出発点です。ここで重要なことは、てんかんや認知症の患者さんとその家族の生活の質は、彼らを取り囲む環境と密接に関係しているということです。たとえばアフリカでは、オンコセルカという寄生虫の影響でてんかんの流行が発生することがあります。この寄生虫に感染すると必ずてんかんを発症するのではなく、たとえば地域社会における武力紛争に起因する心身のストレスであるとか、寄生虫への免疫力を低下させるような生活環境の改変といった要因が、流行に関与している可能性が指摘されています。このような地域でてんかんの負荷を軽減するためには、寄生虫の脳神経系への影響を緩和するような生活環境を確保する必要があります。

これからやりたいこと

本FSの最終目的は、脳神経疾患が発現する生態−社会環境の検討に基づいて、地域で生活する患者さんとその家族を対象とした「包括的なケア」のモデルを構築することです。患者さんとその家族の生活の質を支えるための生態−社会環境を整えるという言い方をしても良いでしょう。これに似た従来の取り組みとして、「コミュニティに根ざしたリハビリテーション」(CBR)を挙げることができます。CBRとは、障害を抱えた人たちが地域で生活するための機能的訓練や社会統合のための取り組みを指し、主に医療・福祉資源が限られた場所で実践されてきました。「ケアの生態学」アプローチによる包括的ケアのモデルは、CBRの枠組みを発展させて、脳神経疾患の影響を緩和するための生態環境のマネジメントや、地域の社会−生態環境に埋め込まれたケアのプログラムを策定するものだと考えることもできます。

本FSでは、ウガンダおよびカメルーンの農村におけるてんかん、マダガスカルと日本における認知症を主要な調査フィールドとします。患者さんとその家族のニーズを理解するため、世帯調査票やインタビュー、ジェノグラム(人々の病歴や社会関係などを示した図)などの手法を組み合わせた調査をおこないます。

この研究は、医療・福祉資源の限られた場所で生活する人たちだけでなく、日本社会で脳神経疾患を抱えて生活する人たちのケアを考える上でも重要な知見をもたらすものだと考えています。日本の医療・福祉制度は充実していますが、過疎や社会的孤立などの問題から、認知症患者さんの地域での生活を支えることは容易ではありません。アジアやアフリカのさまざまな場所で生活する人たちが、脳神経疾患患者の暮らしを支える環境をどのように築いてきたかを学ぶことも、本FSの重要な目標だと考えています。

メンバー

FS責任者

氏名所属
西 真如京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

主なメンバー

氏名所属
佐藤 靖明 大阪産業大学デザイン工学部
増田  研 長崎大学多文化社会学部
井上 貴雄 北海道大学病院
PEETERS, Koen Institute of Tropical Medicine, Antwerp
野村亜由美 首都大学東京健康福祉学部
IDRO, Richard Mulago Hospital, Kampala
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