自然豊かな地域に暮らしている人が、必ずしも自然に親しんでいるわけではなく、むしろ、当たり前にある自然の重要性は意識されていないことが多いことがわかってきました。そのため、各地で自然の豊かさやその価値は十分に活用されていません。地域活性化と環境保全を両立させるためには、住民組織による自然資源の利用と自然のケアのバランスをとることが重要です。これが私たちの求める未来のあるべき姿です。身の回りにある自然への興味や関心をはぐくみ、価値を再発見するためには、環境教育や体験学習なども効果的ではあります。そして、興味や関心を持ち続けるためには、生業や日々の生活に自然への関心を喚起する活動が組み込まれていることが重要です。特に貧困地域や途上国では、自然へのケア活動が生活の改善につながることが求められます。このようなバランスをとる活動を促進するため、私たちはエリアケイパビリティーサイクル(ACサイクル)という活動モデルを提示しました(図1)。地域の住民組織が行政や研究者と協働して、地域資源を活用し、身の回りの自然をケアし、地域の暮らしを豊かにするこの活動モデルは、地域のさまざまな可能性を明示してくれます。そして、このエリアケイパビリティーサイクルに即した活動を増やすことが、地域の可能性を高め、環境変化へのレジリアンス(回復力)を高め、将来への希望をつなぐことになると考えています。
ACサイクルを増やすためには、自然と生業を結びつける技術の開発や産業構造の改良が必要です。また、開発された技術や改良されたシステムを、住民組織が活用することにより新たな生態系サービスの利用が進み、住民の身の回りにある自然への興味や関心が涵養される連鎖が重要です。一方で、住民組織による生態系サービスの活用が行き過ぎた利用とならないよう、研究者と住民および行政の協働による科学的モニタリングと分析が必要です。また、このような環境に配慮した地域のあり方が外部から評価されることは、住民の自尊心の向上や活動への自信を高め、さらなる活動の展開と地域外を含めた生態系へのケアの拡大に重要であることがわかってきました。
本プロジェクトでは、この一連の活動と社会および意識の変容の連鎖には(1)地域にある独特な“地域資源”を地元のコミュニティで活用している点、(2)資源の利用によって、利用者が資源を支えている環境の重要性を理解し、ケアを行なっている点、(3)資源とそれを支える環境に関し、利用とケアのバランスがとられ、活動が外部からも評価されている点という3つの要素が重要であり、これらがACサイクルの構成要素になっています。