実践プログラム1

人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した
防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装

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研究プロジェクトについて

洪水・土砂災害・高潮などの自然災害は、気候変動にともない増加しつつあり、自然災害リスクへの適応が求められています。私たちは、生態系がもつ多様な機能を活用する防災減災の手法(Eco-DRR)に注目し、豊かな自然の恵みと防災減災が両立する地域社会の実現に向けて研究を実施します。また、多くの地域社会で進行しつつある人口減少は土地利用を見直す機会をもたらしており、自然の恵みと防災減災を両立する土地利用のあり方についても検討します。

なぜこの研究をするのか

温暖化・降水の変化・海面の上昇・海洋の酸性化などをもたらす気候変動は、人間社会のさまざまな面に影響することが予測されており、実際に世界中でその影響が出始めています。私たちは、気候変動のもたらす影響のうち、洪水・土砂災害・高潮などの自然災害に注目し、自然災害リスクへのより良い適応を地域社会に実現したいと考えています。一方で、日本やアジアの多くの地域社会は、人口減少による担い手不足の問題をすでにかかえているか、近い将来にその問題が生じると予測されています。しかし人口減少は、これまで集約的に利用してきた土地(市街地など)を、自然や半自然の粗放的な土地利用(自然生態系や農地生態系)に転換することができるチャンスもつくります。自然災害リスクは、ハザード(気象条件)と曝露(土地利用によってハザードに曝さらされる程度)と脆弱性(影響の受けやすさ)が組み合わさって発生しますが、土地利用の見直しにより曝露を下げることで、リスク全体を低く抑えることが可能です(図1)。生態系の多様な機能と恵みを活用しながらより良い防災減災することは、地域社会の持続可能性にとって重要です。このような生態系を活用した防災減災の手法(Eco-DRR)を地域社会に実現すべく研究を進めます。

図1: 生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)では、ハザードの高い場所での人間活動の曝露を小さくし、ハザードの低い場所で主な人間活動をおこなうことで、災害リスクを減らしつつ、生態系の豊かな恵みを利用できる。

図1: 生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)では、ハザードの高い場所での人間活動の曝露を小さくし、ハザードの低い場所で主な人間活動をおこなうことで、災害リスクを減らしつつ、生態系の豊かな恵みを利用できる。

図2: 湿地がもたらす多様な機能の例。生態系がもつ災害の抑制機能と多様な自然の恵みをうまく組み合わせて活用するのが、生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の特徴。

図2: 湿地がもたらす多様な機能の例。生態系がもつ災害の抑制機能と多様な自然の恵みをうまく組み合わせて活用するのが、生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の特徴。
 

どこで何をしているのか

自然災害リスクを身近にとらえ、具体的な対応を検討し、リスク回避を実行するために、以下の3つの研究をおこないます。研究対象地域は、日本全国スケールから、福井県内・滋賀県内・千葉県内などの具体的な地域社会のスケールまで、研究内容によって異なります。

  • (1)自然災害リスクの可視化(過去・現在・将来)
  • 自然災害による潜在的な社会経済リスクを評価して、リスク情報の地図として可視化します。また、土地利用が過去に変化したことが自然災害リスクにどのように関係しているかを明らかにします。さらに、Eco-DRRを活用した場合などの土地利用の将来シナリオを検討して、自然災害リスクの予測評価をおこないます。

  • (2)Eco-DRR多機能性の評価・予測
  • さまざまな生態系サービス(自然の恵み)と人口分布や土地利用との関連を分析したうえで、土地利用が過去に変化したことがEco-DRRの多機能性にどのように影響しているかを明らかにします。また、Eco-DRRを活用した場合などの土地利用の将来シナリオについて、生態系サービスの観点からEco-DRRの多機能性を予測評価します。

  • (3) 超学際的アプローチによるEco-DRRの社会実装
  • 研究対象地域の多様な関係者と協働して、防災減災効果と生態系サービスを予測評価するとともに、地域社会におけるEco-DRRの実装を検討しその実現に貢献します。その際、防災減災や自然資源の利用についての伝統的な知識や地域独特の知識を活用する方策を探ります。また、Eco-DRRの積極的な利用を進める社会的および経済的なインセンティブや法制度のあり方を検討するため、産学官民の多様な関係者との連携を進めます。

これまでにわかったこと

自然災害の社会経済的なリスクを評価して、リスク情報の地図を作成する方法を開発してきました。研究対象地域においてリスク評価の方法を試行した結果、過去から現在までの土地利用の変化が、自然災害リスクを増加させていることが見えてきました。また、人口減少にともなって、土地利用のあり方を工夫することで、自然災害リスクを減らせる可能性があることもわかってきました。さらには、これらの土地利用の変化が、さまざまな生態系サービスに影響することも見えてきました。研究対象地域において地域の多様な関係者との連携を進めており、伝統的な知識の活用や自然の多様な機能の組合せなど、防災減災と自然の恵みを両立する方策のいくつかが見えてきました。

伝えたいこと

自然がもたらす恵みと災いは、本来、表裏一体をなしているものです。災いをしなやかに避けながら、恵みを賢く利用していくことが、持続可能な社会の実現には不可欠です。気候変動による自然災害リスクの拡大が懸念されているなか、従来と同じような手法で対処するだけでは、自然の恵みと災いをうまく調整することができなくなりつつあります。生態系を活用した防災減災の手法が、豊かな自然の恵みと防災減災をどのように両立させることができるか、多様な関係者との連携による研究で明らかにしていきます。

写真1:研究対象地域の一つ、福井県三方五湖流

写真1:研究対象地域の一つ、福井県三方五湖流
 

写真2:研究対象地域の一つ、滋賀県比良山麓地域(松井公明氏提供)

写真2:研究対象地域の一つ、滋賀県比良山麓地域(松井公明氏提供)

特筆すべき事項

図3:2020年に公開された、研究や実践の成果をまとめた冊子。地球研ウェブサイトから電子ブックやPDFを無料で閲覧できます。

図3:2020年に公開された、研究や実践の成果をまとめた冊子。地球研ウェブサイトから電子ブックやPDFを無料で閲覧できます。

プロジェクトは中間地点を折り返し、これまで進めてきた研究や実践の成果を広く発信することにも取り組んできました。シリーズ「地域の歴史から学ぶ災害対応」の続編として佐賀県松浦川における伝統知・地域知をまとめたほか、建設コンサルタント企業6 社の実務者と共同してまとめたEco-DRRやグリーンインフラに関する技術レポート、Eco-DRRを実装するための金融や保険の海外先進事例を紹介する冊子、千葉県印旛沼流域に数多く見られ多様な機能を発揮する谷津地形の管理についての手引き、滋賀県比良山麓の自然と人びとの暮らしの関わりを紹介した映画とその紹介冊子などを、地球研ウェブサイトなどにて無料で一般に公開・発信しています。今後も、さまざまな情報を広く発信してく予定です。

プロジェクトリーダー

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名所属
吉田 丈人総合地球環境学研究所准教授/東京大学大学院総合文化研究科准教授

福井県出身。専門は、生態学と陸水学。生物や生態系に見られる多様性や複雑性を適応やシステムの視点から解き明かす研究と、人と自然のかかわりの理解とその持続可能性についての研究に取り組んでいます。

サブリーダー

氏名所属
饗庭 正寛総合地球環境学研究所特任助教

研究員

氏名所属
黄  琬惠 研究員
島内 梨佐 研究推進員
千田 昌子 研究推進員
中井 美波 研究推進員

主なメンバー

氏名所属
秋山 祐樹 東京都市大学建築都市デザイン学部
一ノ瀬友博 慶應義塾大学環境情報学部
上原 三知 信州大学総合理工学研究科
浦嶋 裕子 MS&ADインシュアランスグループホールディングス
齊藤  修 地球環境戦略研究機関
柴崎 亮介 東京大学空間情報科学研究センター
東海林太郎 パシフィックコンサルタンツ株式会社
瀧 健太郎 滋賀県立大学環境科学部
西田 貴明 京都産業大学生命科学部
西廣  淳 国立環境研究所…気候変動適応センター
橋本  禅 東京大学大学院農学生命科学研究科
深町加津枝 京都大学大学院地球環境学堂
古田 尚也 大正大学地域構想研究所・国際自然保護連合
三好 岩生 京都府立大学大学院生命環境科学研究科
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