2018年12月16日、大阪歴史博物館(大阪市)にて、第26回地球研地域連携セミナー「私たちの祖先は気候変動にいかに対峙してきたか ―弥生時代から近世まで―」を開催しました。今回のセミナーは、地球研と大阪歴史博物館が主催し、地球研の研究プロジェクト「高分解能古気候学と歴史・考古学の連携による気候変動に強い社会システムの探索」(プロジェクトリーダー: 中塚 武)のこれまでの研究成果である、樹木年輪の酸素同位体比などの最新の古気候データと考古資料や文献史料との照合から見える弥生時代以来の日本史の多くの時代に起きた気候の変動と人類の対応の歴史について、大阪の歴史情報の発信拠点である大阪歴史博物館において、参加者と共有しました。
セミナーは、安成 哲三(総合地球環境学研究所所長)による挨拶ののち、プロジェクトメンバーとして活躍した5名の研究者による講演を行いました。
まず、プロジェクトリーダーを務める中塚 武(総合地球環境学研究所教授)が、「日本史の背後にある気候変動の概観」と題して、樹木年輪セルロースの酸素同位体比を用いた最新の研究により明らかとなった、弥生時代前期から現在までの夏の気候の変動を、年~千年のあらゆる時間スケールで解析し、日本や中国の歴史の転換期が、400年周期でおこる、数十年周期の気候変動の振幅の拡大期と重なっていることが示されました。
次に、若林 邦彦氏(同志社大学歴史資料館教授)が、「弥生時代から古墳時代へのムラの変化と気候変動 ― 淀川流域を対象として」と題して、温暖で乾燥した弥生時代中期から、冷涼で湿潤な古墳時代への気候の変化と同時におこった、居住地と水田の分布の変化をもとに、自然環境の変化が社会構造の変化と相まって、初期国家形成に与えた影響を、集落遺跡のデータ集成から報告しました。
続いて、井上 智博氏(大阪府文化財センター調査課主査)が、「河内平野における水田稲作の展開と気候変動 ― 弥生時代から中世まで」と題し、池島・福万寺遺跡をはじめとする河内平野の水田跡を再検討し、弥生時代から中世までの水田稲作の変遷のメカニズムを、最新の酸素同位体比年輪年代法の成果と古気候データを駆使して明らかにしました。
その後、鎌谷 かおる氏(立命館大学食マネジメント学部准教授)が、「近世における淀川水系の水害と地域社会」と題して、近世に生きた人々が、自然災害とどのように向き合いながら日々をくらしていたのか、「瀬田川浚え(浚渫工事)」に対する、琵琶湖岸域と淀川流域の村々の対応の違いを例に、水害に関する史料と古気候復元データの比較を通して論じました。
最後に、高槻 泰郎氏(神戸大学経済経営研究所准教授)が、「米切手相場と気候変動の関係 ― 堂島米市場を舞台として」と題して、諸国相場の元方として知られた大坂のなかでも最も重要であった、堂島米市場で取引されていた証券「米切手」の相場と、気温や降水量との関係を読み解き、気候変動が江戸時代の社会・経済に与えた影響を考察しました。
講演の後のパネルディスカッションでは、豆谷 浩之氏(大阪歴史博物館学芸員)がパネラー、樋上 昇氏(愛知県埋蔵文化センター)が司会を務め、各講演者が会場から寄せられた様々な質問に答えて議論を深め、最後は中塚教授の挨拶でセミナーを締めくくりました。当日は約200名の参加があり、盛況のうちに閉幕しました。
今後も地域連携セミナーは日本中の様々な場所で開催する予定です。お住まいの地域で開催された際には、是非足をお運びください!
■当日の様子
![挨拶する安成 哲三 総合地球環境学研究所 所長](img/no26/1.jpg)
挨拶する
安成 哲三 総合地球環境学研究所 所長
![講演する中塚 武 総合地球環境学研究所 教授](img/no26/2.jpg)
講演する
中塚 武 総合地球環境学研究所 教授
![講演する若林 邦彦 同志社大学歴史資料館 教授](img/no26/3.jpg)
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若林 邦彦 同志社大学歴史資料館 教授
![講演する井上 智博 大阪府文化財センター調査課 主査](img/no26/4.jpg)
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井上 智博 大阪府文化財センター調査課 主査
![講演する鎌谷 かおる 立命館大学食マネジメント学部 准教授](img/no26/5.jpg)
講演する
鎌谷 かおる 立命館大学食マネジメント学部
准教授
![講演する高槻 泰郎 神戸大学経済経営研究所 准教授](img/no26/6.jpg)
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高槻 泰郎 神戸大学経済経営研究所 准教授
![パネラーの豆谷 浩之 大阪歴史博物館 学芸員](img/no26/7.jpg)
パネラーの豆谷 浩之 大阪歴史博物館 学芸員
![パネルディスカッションの様子](img/no26/8.jpg)
パネルディスカッションの様子
![進行を務める伊藤啓介 総合地球環境学研究所 研究員](img/no26/9.jpg)
進行を務める
伊藤啓介 総合地球環境学研究所 研究員
![満員の会場](img/no26/10.jpg)
満員の会場