大学共同利用機関法人　人間文化研究機構　総合地球環境学研究所

2018年6月30日、北海道大学（札幌市）にて、第22回地球研地域連携セミナー「グローバルとローカルの視座から地域の人々の生活と健康を考える」を開催しました。今回のセミナーは、地球研と北海道大学保健科学研究院が主催し、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)地域自律型水インフラマネジメントとの共催となりました。地球研の研究プロジェクト「サニテーション価値連鎖の提案─地域のヒトによりそうサニテーションのデザイン」（プロジェクトリーダー: 山内太郎）の研究テーマであるサニテーションの問題と密接に関わる健康と生活をテーマに、グローバルとローカルの視点から活発な議論が交わしました。

セミナーは、はじめに安成哲三（総合地球環境学研究所所長）による挨拶および山内太郎（北海道大学大学院保健科学研究院教授・地球研教授）による趣旨説明を行いました。

続いて4名による講演を行いました。まず、原田英典氏（京都大学大学院地球環境学堂助教）が「暮らしに伴う多様な糞便との関わりから考えるサニテーションの役割」と題して、バングラデシュとベトナムでの糞便（大腸菌）の暴露解析の結果を紹介し、環境に存在する様々な種類の大腸菌のなかでも、特に病原となるヒト由来の大腸菌のコントロールにおいて、サニテーションに期待ができることを示しました。

次に、荒木敦子氏（北海道大学環境健康科学研究教育センター准教授）が「身近な生活環境における化学物質と子どもたちの健康」と題して、北海道・札幌でおこなった調査の結果から、フタル酸エステル類のハウスダスト中の濃度を取り上げ、子供たちへの影響について、特にアレルギーや性ホルモンバランスのかく乱との関係が示唆されることを報告しました。

また、蒋宏偉(ジャン・ホンウェイ)（総合地球環境学研究所特任助教）が、「エコヘルスからアジア発展途上地域の「健康」を考える」と題し、人間文化研究機構の広領域連携型基幹研究プロジェクトである『アジアにおける「エコヘルス」研究の新展開』（NIHUエコヘルス）を紹介しました。中国海南島の調査では、マラリア感染率の推移の分析から、感染率の減少の原因として、換金作物であるゴムノキの植林による蚊の生息環境の減少が可能性としてあげられることを紹介しました。さらに、ラオス農村での調査では、感染症、寄生虫への感染経路のひとつとして野外排泄に着目し、小型GPSや加速度計をもちいて調査参加者の活動空間分析をおこない、寄生虫（タイ肝吸虫）のコントロールには、活動空間の広がりから農繁期に男性を優先的な対象として行動への介入をおこなうことが効果的であることなどを示しました。

最後に、牛島健氏（北海道立総合研究機構北方建築総合研究所主査）が、「「地域生活価値」と「ひと・もの・価値フロー」を通じて地域の生活とインフラ運営を考える」と題して、人口減少や高齢化が進み、集落の消滅が予想される北海道におけるインフラの維持について、地域生活の豊かさを評価する指標「地域生活価値」、価値の流れを見える化する「ひと・もの・価値フロー」の二つを使って地域での取り組みの事例を分析し、地域自立型のインフラマネジメントの可能性を示しました。

講演の後の総合討論では、山内太郎が司会を務め、各講演者が会場から寄せられた様々な質問に答え、議論を深めました。最後は齋藤健氏（北海道大学大学院保健科学研究院研究院長）の挨拶でセミナーを締めくくりました。当日は約40名の参加があり、盛況のうちに閉幕しました。

今後も地域連携セミナーは日本中の様々な場所で開催する予定です。お住まいの地域で開催された際には、是非足をお運びください！