HOME > 2008年度以前の終了プロジェクト > 流域環境の質と環境意識の関係解明-土地・水資源利用に伴う環境変化を契機として

流域環境の質と環境意識の関係解明-土地・水資源利用に伴う環境変化を契機として

プロジェクトのホームページ

地球研年報(業績一覧など)

プロジェクトリーダー

関野 樹 総合地球環境学研究所

研究プロジェクトについて

人間は、環境に見いだされるさまざまな価値をそれぞれ判断し、それに基づいて環境に対する行動を決めてきました。本研究では、この環境に対する価値判断に関わる概念「環境意識」について考察し、価値判断に影響を及ぼす環境の要素を明らかにする手法の構築を目的としました。この中では、複数の環境変化シナリオを使って人びとの選好を解析するという手法が試みられました。

 

何がどこまで分かったか

環境意識を解明するための手法として、シミュレーションモデルに基づいた環境変化シナリオの作成と、それを用いたシナリオの選択型実験(シナリオアンケート調査)を実施しました。まず、森林伐採が森林流域環境に及ぼす影響を予測するための水・物質循環のシミュレーションモデルを開発し、伐採に伴う渓流への硝酸態窒素の流出が湖の富栄養化につながる可能性などが示唆されました。さらに、これらの予測結果から環境変化シナリオを作成し、人々の環境意識を調べるためのシナリオの選択型実験を実施しました。その結果、調査の対象となった人々にとって河川や湖の水質の悪化が最も危惧される環境変化であること、また、森林伐採による森林の植物の種類や量の減少も環境変化として懸念されることが示唆されました。さらに本研究の中では、森林や河川、湖についての人々の関心を調べる調査も行われ、直接・間接利用価値や生態系機能といった「環境の価値」を人びとは峻別して認識していることなどが明らかになりました。

 

地球環境学に対する貢献

プロジェクトでは、地球環境問題の根本的解決に資するための課題の一つとして、人間が環境をどのように認識しているかを概念レベルから考察すること、つまり「環境意識の解明」を取り上げました。本研究の成果は、環境の価値という概念の有効性を社会調査という実証的研究によって分析できることを示しています。また、環境意識を解明する手法の一部として、森林伐採などの人間活動に対する流域環境の変化予測が行われました。ここで構築された森林-河川-湖をつなぐシミュレーションモデルの考え方は、陸から海までの流域圏環境の予測モデルへも拡大できるものであり、公衆参加の手法として環境アセスメントなどの分野でも貢献できるものと考えられます。

 

図 環境意識の解明

図 環境意識の解明

まず、社会調査により人々の環境に対する関心事が明らかにされます。次に、これらの関心事が仮想的な環境改変(ここでは森林伐採)によりどのように変化するのかが数値シミュレーションや現地調査などによって予測され、その結果を基に環境変化シナリオが作成されます。人びとの環境意識は、この環境変化シナリオを使ったアンケート調査や住民会議によって解析されました

 

成果の発信

環境意識を解明するための手法を実験的に適用した朱鞠内湖集水域(北海道雨竜郡幌加内町)においてワークショップを開催し、住民自らが30年後に期待する町の将来像について議論を行いました。この中では、本研究の成果を応用して作成した「町の環境と社会に関するシナリオ」が議論の材料として用いられています。また、幌加内町において公開シンポジウムを2008年11月に開催し、本研究の成果を紹介するとともに、住民の皆さんからのご意見をいただきました。本研究の成果の中心である環境意識を解明するための手法については、2009年11月に勁草書房より「環境意識調査法 環境シナリオと人々の選好」が出版されました。本書では、環境シナリオを用いた環境意識調査について、概念的な考察から、シミュレーションモデルを用いたシナリオの作成、意識調査の設計と調査結果の解析などそれぞれの段階に分けて実際の調査の事例とともに解説しています。環境アセスメントに不可欠な住民参加を実現するための取り組みにも役立つものと思います。