東南アジアにおける持続可能な食料供給と健康リスク管理の流域設計

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嘉田良平 総合地球環境学研究所 |
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湯本貴和
益永茂樹
松田裕之
金子信博 |
総合地球環境学研究所
横浜国立大学環境情報研究院
横浜国立大学環境情報研究院
横浜国立大学環境情報研究院
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水嶋春朔
J. Galvez Tan
R.F. Ranola
A.C. Santos-Borja
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横浜市立大学医学研究科
フィリピン大学医学部
フィリピン大学農学部
ラグナ湖開発公社研究部
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近年、アジア農業・漁業の現場で生態系の破壊、水質汚染、洪水の多発などさまざまな異変が起きています。この研究では、その過程で生じているさまざまな「食と健康のリスク」に注目します。そこでフィリピンを対象に実態調査を実施して、食料供給と人の健康に関わる生態リスク拡大のメカニズムを解明するとともに、流域を単位とする総合的なリスク管理の方向性を提示します。
研究の目的
この研究の目的は、アジア各国で広がりつつある化学的・物理的・生物的な諸側面にまたがる生態リスクの実態とその影響、とりわけ人々の食生活や人体の健康面に及ぼす影響を明らかにすることです。とくに、(1)内水面(河川・湖沼)の魚類に蓄積されている重金属汚染の実態と健康リスクへの影響、(2)長期にわたる周辺農地への化学資材の多投入とその生態系・地力への影響、(3)土地改変による水循環の変化と水質汚染への影響という、3つの主要テーマについて日本・フィリピン合同の調査チームによって、学際的な調査研究を実施します。
研究の方法
調査対象として、人口圧が高く、急速な都市化や土地改変によって生態系の劣化が著しいフィリピン・ルソン島南部のラグナ湖(Laguna de Bay)周辺地域をとりあげます。実態調査は、(1)環境リスク分析班、(2)健康影響評価班、(3)生態系劣化評価班、(4)社会経済評価班という4チームによって行います。まず、重金属および有機質汚染について、主なリスクの発生源と汚染物質の特定化、汚染ルートの解明を行います。また、健康影響については、地域住民の栄養・健康・疾病の状態について多数の面接調査を行います。これらの現地調査においては、フィリピン大学医学部、同農学部、ラグナ湖開発公社等と連携協力して、地域住民参加型の調査とモニタリングを試みつつ、その有効性についても検証します。
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ラグナ湖周辺に乱開発の波が押し寄せ、「自然の恵み」にもさまざまな異変が生じています。この研究では、重金属その他の汚染とその影響について解明します(2009 年11 月)
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期待される課題
第1に、生態系サービスの変化を量的に把握することによって、私たちの食卓がいかに身近な生態環境に支えられているのかを明らかにします。また、食品安全、健康という日常的な課題が、いかに上流域の環境あるいは生態系と深くつながっているのかについて科学的に解明します。
第2に、生態環境の定点観測を地域住民の協力のもとで実施します。農業・漁業者自らの観察によって「住民参加型モニタリング・システム」を構築するとともに、発展途上国においてこうした取り組みがどの程度有効であるのかについて検証します。なお、ラグナ湖周辺地域では、2000年代前半に国連(UNESCO)によってラグナ湖を対象に生態系サブグローバル評価(SGA)が実施されましたが、近年の急激な開発と生態系劣化の影響を調査分析することによって、このSGAの有効性についても検証します。

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