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地域に根ざした小規模経済活動と長期的持続可能性―歴史生態学からのアプローチ

FS-02

FS責任者

羽生淳子 University of California, Berkeley

コアメンバー

WEBER, Steven Washington State University
細谷 葵 お茶の水女子大学
OWENS, Mio Katayam Univ. of California, Berkeley
SLATER, David 上智大学
米田 穣 東京大学
内藤大輔 総合地球環境学研究所
NILES, Daniel Ely 総合地球環境学研究所
池谷和信 国立民族学博物館
佐々木 剛 東京海洋大学海洋科学系
松井 章 奈良文化財研究所
LIGHTFOOT, Kent Univ. of California, Berkeley
FITZHUGH, Ben University of Washington
AMES, Ken Portland State University
SAVELLE, James McGill University
CAPRA, Fritjof Center for Ecoliteracy

研究プロジェクトについて

生産活動の多様性と経済の規模、およびその長期的持続可能性は、密接に関係しています。本FSは過去と現在の事例研究を通じて、地域に根ざした小規模で多様な食料生産がなぜ重要なのか、また、それを機能させるためには何が必要かを考えます。その結果に基づき、社会ネットワークに支えられた小規模なコミュニティや経済活動を基礎とした、人間と環境の新しい相互関係性の構築を提唱します。

なぜこの研究をするのか

本FSの目的は、地域に根ざした小規模で多様な経済活動(特に食料生産)の重要性を、人間社会の長期的な持続可能性という観点から考えることです。食の多様性について、今日、さまざまな議論が行なわれていますが、そのほとんどは短期的な視野から経済的利益と損失を論じており、2050年より先の見通しを示した研究は多くありません。これに対して、本FSでは「長期的な持続可能性」を、少なくとも数百年から数千年にわたる持続可能性と定義します。そして、考古学・民族史学・歴史学・古環境学などの成果を取り入れながら、文化の長期変化の原因・条件・結果について考察します(図)。

分析対象は、日本からアメリカ大陸西岸を含む北環太平洋地域です。北環太平洋地域には、気候・植生・地震の多さなど、共通する要素がたくさんあります。さらに、東アジアから新大陸への人類拡散にともなう更新世末期以降の歴史的連続性や、海洋資源や木の実などに依存した小規模社会例の豊富さなど、歴史・文化・社会的共通性も重要です。太平洋両側の地域をひとつのまとまりとしてとらえることにより、この地域に固有の共通性と、そのなかでの多様性を明らかにすることができると考えます。

図 文化の長期的変化の原因・条件・結果
図 文化の長期的変化の原因・条件・結果

何をどのように研究するのか

本FSでは、以下の3種類の研究活動を行ないます。

 (1)長期変化班:考古学・民族史学・歴史学・古環境学などのデータに基づいて、食・生業の多様性、社会・経済の規模、交易網、環境管理の度合い、人口動態、気候変化などの諸要素がどのような因果関係をもっているのかを調べます。具体的には、「小規模で多様な経済活動は、大規模で均質的な経済活動よりも長期持続性が高い」という仮説を検証するとともに、経済の規模・多様性と、それに関係の深い諸要素がどのような関係をもっているのかを考察します。

 (2)民族・社会調査班:民族誌学・社会学などの成果に基づいて、近・現代における小規模社会・経済のあり方と、それらが直面した問題を分析し、大規模経済が優勢を占める現代社会のなかで、地域に根ざしたコミュニティや有機栽培農家などによる小規模な生産がなぜ大事なのか、またそれらを機能させるためには何が必要かを考えます。

 (3)実践・普及班:過去・現在の事例から得られた知見に基づき、小規模で多様な経済の長所を取り入れた社会システムを提案し、生徒や市民を対象としたセミナーや教育活動を行ないます。

グローバリゼーションにともなって、小規模で多様な経済活動が大規模で均質な経済に統合されるにしたがい、多数の環境・社会問題が生じています。一方で、近年、インターネットなどの発達によって、各地域で孤立していた個人や小規模生産者が情報を交換して連携を強めることが可能になった、との指摘もあります。本FSは、過去と現在の事例研究を通じて、食の多様性と環境に対するダメージの少ない経済活動の重要性を改めて評価し、地域に根ざした小規模な経済活動を基礎とした人間と環境の新しい相互関係性の構築を提唱するための基盤づくりをめざします。

 

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