実践プログラム

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実践プログラム1

環境変動に柔軟に対処しうる社会への転換

プログラムの概要

地球環境の持続性は、人類にとって本質的な重要性を持つ課題です。私たちの社会は、人間活動に起因する環境変動(地球温暖化、大気汚染などを含む)と自然災害に柔軟に対処できるものに変わっていかなければなりません。そのためには、環境変動や自然災害の問題が、生存基盤の確保、貧困・格差、戦争・紛争といった社会問題とどのように複雑に絡みあっているかを明らかにし、その双方を見据えた社会の転換につなげていく必要があります。本プログラムは、そのために必要な知識を総合し、具体的な選択肢を提案することをめざしています。

第一に、アジア地域は、歴史的に西洋とは異なる発展径路をたどってきましたが、その多様性も含め、「アジア型発展径路」の持つ意味を考察します。1960年代以降の日本の工業化、都市化は、大気・水質汚染、地盤沈下、健康被害などの深刻な環境問題を生み出しましたが、その後、現在にいたるまで、急速な工業化、都市化を経験したアジア諸国でも同種の問題が生じています。今世紀にはそれに加えて、地球温暖化、地球規模での生態系の破壊など、地域では扱いきれない問題が重なって現れ、地球環境問題として認識されるようになりました(図1、2 を参照)。その経緯を解きほぐし、アジア地域の側から解決への道筋を考えます。第二に、生存基盤の持続的確保の条件を、ステークホルダーの視点を取り入れて、多面的に解明します。社会の持続性を確保するには、生存、利潤、統治、保全の4つの動機が適切に働くことが必要であり、それにふさわしい価値観と制度が機能しなければなりません。フィールドワークの現場から政策担当者、国際機関にいたるまで、多様な立場の人たちと連携することによって、激しく変化する現実の課題を可視化すると同時に、それを生存基盤の確保という地域社会の課題につなげていきます。

図1:高度成長型モデルの環境への負荷−日本の都市公害

図1:高度成長型モデルの環境への負荷−日本の都市公害

図2:高度成長型モデルの環境への負荷−公害問題から地球環境問題へ

図2:高度成長型モデルの環境への負荷−公害問題から地球環境問題へ

新しい成果

昨年度は、増原上級研究員をハブとするプログラム研究会において、日本の高度成長期に、水、土地、食料、エネルギー(例えば電気)、マテリアル(例えばプラスチック)といった要素がどのように結び付けられて工業化、都市化が実現したのかを、比較史的に検討しました。土地と水の不足への一つの対応は、臨海工業地帯における大規模な埋立であり、工業地帯と都市生活圏との切り分けと共生でした。「埋立型」とでも呼ぶべきこの東アジア型モデルは、現在のグローバルな地球環境問題の基礎ともなっていることがしだいにわかってきました。

また、プログラム研究会では新型コロナウイルス感染症の日本、アジアへの影響を2回にわたって議論し、論文や地球研のホームページ、ニュースレターなどを通じてその成果を発信しました。

プログラムに所属するプロジェクトのテーマ、取り扱っている問題など

写真1:ドローンで撮影した熱帯泥炭火災。インドネシアリアウ州プララワン県2019年9月撮影。

写真1:ドローンで撮影した熱帯泥炭火災。インドネシアリアウ州プララワン県2019年9月撮影。

写真2:福井県北川流域に残る霞堤(かすみてい)。北川流域には、このような霞堤(不連続堤)が多く残っており、流域の治水に役立っているほか、豊かな生物多様性を支えるとともに自然の恵みをもたらしている。2020年9月撮影。

写真2:福井県北川流域に残る霞堤(かすみてい)。北川流域には、このような霞堤(不連続堤)が多く残っており、流域の治水に役立っているほか、豊かな生物多様性を支えるとともに自然の恵みをもたらしている。2020年9月撮影。

図3:TROPOMIで観測されたNO2濃度分布のロックダウン前後の差。青は減少、赤は増加を示している。ピンはインドの大都市を示す。1, elhi; 2, Mumbai;3, Lahore; ,Islamabad; 5, Karachi; 6, Dhaka; 7, Chittorgarh; 8, Hyderabad;9, Chennai; 10, Bangalore.(Aakashプロジェクト。同プロジェクトのページに掲載された図と説明も参照)

図3:TROPOMIで観測されたNO2濃度分布のロックダウン前後の差。青は減少、赤は増加を示している。ピンはインドの大都市を示す。1, elhi; 2, Mumbai;3, Lahore; ,Islamabad; 5, Karachi; 6, Dhaka; 7, Chittorgarh; 8, Hyderabad;9, Chennai; 10, Bangalore.(Aakashプロジェクト。同プロジェクトのページに掲載された図と説明も参照)

日本を含む東アジアの資源需要は、現在に至るまで、東南アジアの自然環境に大きな負荷をかけてきました。熱帯泥炭社会プロジェクトは、スマトラ島の泥炭湿地の持続的利用に向けた学際・超学際研究です。そこでは、アブラヤシやアカシアが輸出用に大規模に栽培されたことが泥炭地破壊の重要な原因になっています。本プロジェクトでは、泥炭火災による健康被害、社会経済被害、温室効果ガスの排出など喫緊の課題を踏まえ、地域社会の人びととの協働による問題解決を図っています。

Eco-DRRプロジェクトは、生態系サービスの多機能性を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装の研究です。自然災害リスクへの対応は、歴史的にはしばしば経済発展や人口増加を暗黙の前提として考えられてきました。しかし、現在、人口減少や高齢化に対応した防災減災のあり方が問われています。自然資源利用にも、脱炭素化への動きに対応した新しい発想が必要です。地域に根付いた判断と行動変容は、生存基盤の確保のために、他のアジア諸国も将来直面するにちがいない課題でもあります。

Aakashプロジェクトは、インド・パンジャーブ地方の藁焼きの背景にある農業問題、環境問題を総合的に検討します。緑の革命以降導入された新しい農業技術は生産性を飛躍的に向上させましたが、水や土壌に負荷をかけるだけでなく、圧縮された二毛作のなかでの藁焼きが、首都デリーを含む広域に大気汚染や健康被害をもたらす要因の一つとなってきました。本プロジェクトは、こうした「大気のつながり」による環境破壊の広がりを、コロナ禍による最近の変化も追いつつ、広い視野から可視化しつつあります(図3)。環境要因の幅広い理解は、地域の農業や生存基盤のなかでの行動変容にもつながっていくことが期待されます。

第3期の最終年度に当たる今年度は、現在走っている三つのプロジェクト、さらに過去にプログラム1に属していた羽生プロジェクト、中塚プロジェクトの成果も踏まえ、プログラムとしての成果統合を試みます。

プログラムディレクター

メンバー

プログラムディレクター

氏名所属
杉原 薫総合地球環境学研究所特任教授/関西大学経済学部客員教授/京都大学東南アジア地域研究研究所連携教授/政策研究大学院大学非常勤講師

経済学博士。大阪市立大学、ロンドン大学SOAS、大阪大学、京都大学、東京大学、政策研究大学院大学などで、経済学、歴史学、地域研究、政策研究の分野の教育研究に従事。経済史、環境史の立場から、日本、アジアから見たグローバル・ヒストリーを考えています。

研究員

氏名所属
山本  文研究推進員
岩崎 由美子研究推進員

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実践プログラム2

多様な資源の公正な利用と管理

プログラムの概要

さまざまな資源はお互いに関連しあっていて、単一の資源問題を切り離して解決しても全体の問題解決に至らない場合がたくさんあることがわかってきました。また、資源は地域から地球レベルまでさまざまな空間スケールで多様なステークホルダーによって生産・流通・消費されており、それらのプロセスを通じて公正に利用・管理するしくみと評価方法が必要になっています。持続可能で豊かな社会の実現には、再生可能な自然資源の賢い利用が鍵となっていますが、再生可能エネルギーの利用や食料生産、水資源の統合的利用などとさまざまな生態系サービスの間にトレードオフやシナジーが生じています。また、途上国と先進国、都市とその周辺地域などでこうした資源の供給や消費、コスト負担などの点で公正さが問題となっており、問題の解決が必要です。一方で、アジア地域は急速な経済成長や人口増加、都市化などを背景とした大きな変化が起こっているものの、豊かな自然と文化に結びついた持続性の高い資源利用の伝統も残っており、私たちの将来像に大きな示唆を与えています。このプログラムでは、地球研がこれまでおこなってきた研究の成果を生かし、多様な資源を、さまざまな空間スケールで、多様なステークホルダーとともに、公正に利用するための手法を探ります。

写真1:伝統的農業景観(岩手県花巻市)

写真1:伝統的農業景観(岩手県花巻市)

写真2:熱帯林の木材(マレーシア)

写真2:熱帯林の木材(マレーシア)

新しい成果

図1:水、エネルギー、食料、生態系のネクサス

図1:水、エネルギー、食料、生態系のネクサス

2018 年度から、多様な資源の多様なステークホルダーおよびスケールでの公正な利用を理解するための枠組み構築のために、地域の資源利用に関するデータベースの作成を開始しました。2018年度には公表されている統計データを中心に、日本の各都道府県レベルでのエネルギー、水、食料、生態系サービスなどの需要と供給に関するデータベースを作成しました。2019 年度は、特に生態系サービス(生態系が人間社会にもたらすさまざまな利益)について、これを市町村レベルに拡張する作業を開始しました。予備的な解析によると、エコロジカルフットプリントや人間開発指数などの持続可能性に関する国際的な指標でみると、都道府県の差は小さいのですが、各資源の自治体内自給率は、人口密度にともなって大きな違いがあり、地域の持続可能性を考える上で重要な示唆が得られる可能性が出てきました。これらの成果の一部は、“Evaluating local sustainability, including ecosystem services provided by rural areas to cities to promotebioeconomy(仮訳:バイオエコノミーを促進するために農村地域から都市へ提供される生態系サービスを含む地域の持続可能性の評価)”として、発表しました。また、こうした持続可能性に関する異なった資源間の相互関係は、SDGsのターゲット間相互の関連性の解析にも利用できる可能性があります。

プログラムに所属するプロジェクトのテーマ、取り扱っている問題など

サプライチェーンプロジェクトは、製品のサプライチェーンを通じて、さまざまな原材料や資源を利用することが生態系や人間生活に与える影響を分析します。サプライチェーンの最下流にいる消費者(一般生活者)から最上流にいる国内外の企業までをステークホルダーとして、資源利用のローカルからグローバルなスケールにわたる影響に焦点を当てています。

2019年度からPRの始まるFairFrontiersプロジェクトでは、現在進みつつある熱帯林の劣化や持続可能性の低い利用形態の問題点を探ります。かつて行われていた焼き畑は、持続可能性の比較的高い利用方法でしたが、現在はそれが衰退し、大規模なプランテーションなどに変化しつつあります。アジア・アフリカの熱帯林を対象に、地域住民や政府、国際的な企業などさまざまなステークホルダーの間における、より公正な利用形態やシステムを分析・提言します。

PRのLINKAGEプロジェクトでは、琉球弧や西太平洋の熱帯・亜熱帯に位置するサンゴ礁島嶼系において、陸と海の水循環を介したつながりや、暮らしの中で育まれてきた生物と文化のつながりや多様性、多様な資源のガバナンスの規範・組織・制度の変遷や重層性を解明します。得られた成果のリンケージを可視化し、陸と海をつなぐ水循環を軸としたマルチリソースの順応的ガバナンスの強化をめざします。

写真3:渓谷からの水資源(青森県)

写真3:渓谷からの水資源(青森県)

写真4:太陽光発電(千葉県)

写真4:太陽光発電(千葉県)

プログラムディレクター

メンバー

プログラムディレクター

氏名所属
MALLEE, Hein総合地球環境学研究所教授

オランダのライデン大学にて博士号取得。社会科学者。当初、中国における人口移動および関連政策の研究をおこなっていたが、国際開発の分野に従事しはじめ、資源に対する現地の人びととの関わりと権利をテーマに、中国や東南アジアにおける農村開発、自然資源管理、貧困軽減に携わるようになる。近年は、これまでの活動における現地の人びとの参加や農村開発の経験をもとに、人間の健康と環境(エコヘルス)に関する諸問題に取り組んでいる。2013年より総合地球環境学研究所に勤務。Future Earthアジア地域センター事務局長。

研究員

氏名所属
小林 邦彦研究員
唐津ふき子研究推進員

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実践プログラム3

豊かさの向上を実現する生活圏の構築

プログラムの概要

日本を含むアジアとその周辺地域は、世界人口の6割以上を擁し、世界の経済活動の3割以上を担っています。この地域は、あらゆる面で多様性に富んでいる一方、人間活動の急速な拡大により、環境破壊、温室効果ガス排出の増大、生物多様性の消失などを経験しています。同時に、貧富の差の拡大、社会的疎外、失業、局所的な貧困、地域固有の伝統文化の消失なども経験しています。これらのプロセスで、都市域への人口集中や農山漁村域での過疎化にともない、社会、文化、資源、生態環境の急激な変容が起こり、両者の生活圏(暮らしの場)の劣化が加速しています。そこで、両者の連環を視野に入れ、豊かで持続可能な暮らしの場とは何かを考え、それを実現するための具体的な枠組みを作り、地域における経験や知恵を生かし、多様な自然と人間が共存しうる具体的な未来可能性のある社会への変革の提案をめざします。

これらの枠組みや変革は、必ずしも既存の市場を基礎とする経済システムや政治的意思決定システムを前提とするものではなく、それらを根本的に変えてしまうもの、ないしは補うものとなるでしょう。ただし、トップダウンのみでシステムの変革を考案するのではなく、さまざまなステークホルダーとともに持続可能なシステムを提案し、その実現可能性を探ります。そのような提案は、地域に応じたものとなる可能性が大きいかもしれませんが、ある特定の地域のみに適用可能な提案というよりも、多様性を保ちつつ、何らかの一般的な枠組みの発見をめざしたいと考えています。

新しい成果

持続可能な社会をデザインする上で、世代間、世代内の公平性は重要な課題です。新たにプログラムに参加した Shibly さんは、現世代で力をもつ人こそ、仮想将来人になって今の問題を考えると、不平等を大幅に改善できることをバングラデシュのフィールド実験で発見しています。この結果に力を得て、昨年、私(西條)はG20の事前の準備会合であるT20 (Think 20 summit)のパネリストとして招待された際、世界の首脳こそ、仮想将来大統領、仮想将来首相になって、将来世代に大きな負担をかけてしまう炭素循環や窒素循環などのコントロールを考え、今の政策を提案してほしいと訴えました。残念ながら、これは採択されませんでした。でもあきらめずに頑張ります。

仮想将来世代を考える哲学者たちによる『フューチャー・デザイン×哲学』を勁草書房から出版予定です。

プログラムに所属するプロジェクトのテーマ、取り扱っている問題など

サニテーションプロジェクト:サニテーション(人のし尿を処理するしくみ)は「価値」の創造です。サニテーションを単なる技術ではなく、人間や地域社会のなかの価値連鎖そのものとして捉えるモデルが、「サニテーション価値連鎖」です。サニテーションプロジェクトでは先進国と開発途上国の共通の解決策として「サニテーション価値連鎖」を提案します。「健康と幸福」「物質(技術・経済)」「社会-文化」の3つの領域によって構成される「サニテーション・トライアングル」を提唱し、日本、アジア、アフリカで国際共同研究を進め、コミュニティに最適なサニテーション価値連鎖のシステムを模索しています。また、図像、イラストレーション、写真、映像などを活用した「可視化(Visualization)」と、プロジェクトの活動をリアルタイムに振り返って分析する「メタ研究(Metaresearch)」を有機的に統合して、各地のフィールドにおいて地域住民、NGO、行政、民間団体など多彩なアクター(ステークホルダー)との共創による超学際研究に取り組んでいます。

写真1: ザンビアでのアクションリサーチ:ZAWAFE2018 のDziko Langaブースにはザンビアの副大統領も来訪(サニテーションプロジェクト)

写真1: ザンビアでのアクションリサーチ:ZAWAFE2018 のDziko Langaブースにはザンビアの副大統領も来訪(サニテーションプロジェクト)

SRIREPプロジェクト:貧困問題を背景とする零細小規模金採掘という資源開発による地球規模の水銀環境汚染に対処するため、トランスフォーマティブ・バウンダリー・オブジェクトを活用したステークホルダーとの対話とその結果として結成したトランスディシプリナリー実践共同体による変容的学習と実践によって、この問題に対する住民の主体性を形成します。そして、各TDCOPの連携と協働で持続可能な地域イノベーションをもたらす道筋を解明します。さらに、研究者、住民、行政関係者、鉱山労働者などの多様なステークホルダーによって運営される「水銀ゼロ 社会ネットワーク」を立ち上げ、地域コミュニティによるボトムアップと行政・国のトップダウンを連携させ、環境ガバナンスを強化することによって、この問題を解決へと導く方法を解明します。

写真2: ゴロンタロ州ハヤハヤ村の農家を中心とするTDCOP中心メンバー(SRIREPプロジェクト)

写真2: ゴロンタロ州ハヤハヤ村の農家を中心とするTDCOP中心メンバー(SRIREPプロジェクト)

プログラムディレクター

メンバー

プログラムディレクター

氏名所属
西條辰義総合地球環境学研究所特任教授
/高知工科大学フューチャー・デザイン研究所・所長

社会の人びとの活力を保ちつつ、社会の目標である持続可能性や公平性も達成するしくみを設計することをめざしてきました。今の世代の人びとばかりでなく、将来の人びとも幸せになる社会のしくみの設計をフューチャー・デザインと名付け、研究をしています。

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