研究プロジェクトについて
アラスカやシベリアの現地住民の伝統的な食・生業・文化の一部をなす凍結利用の食糧貯蔵が、温暖・湿潤化する自然環境と、電化生活・加工食品などの社会環境の変化により機能不全を起こしています。本FSでは、古老・若年世代を含めた当事者との対話と協働や自然科学調査を通して凍結貯蔵の歴史と変化を明らかにするとともに、未来を起点とした、これからの現地将来のあり方とその実現を見通す方法論を考えます。
なぜこの研究をするのか
このプロジェクトの研究者はこれまでアラスカやシベリアでさまざまな調査をしてきました。そこでは多様な伝統・言語・歴史・社会背景を持つ人びとが暮らしていますが、その多くは「凍結」という自然現象を利用した地下冷蔵・冷凍庫を創り、食糧の保存・貯蔵を行ってきました。その凍結貯蔵は住民の食・生活・文化において大変重要な役割を担っています。ところがいま北極域では、緯度の低い他の地域よりも温暖化の影響が強く現れ、その凍結貯蔵の維持が難しくなっています。さらに、冷蔵庫や冷凍庫といった電化製品や加工食品などの現代的な技術や消費スタイルの普及も重なって、人びとの生活のあり方・文化の継承は大きな課題に直面しています。これは、地球温暖化や文明化というグローバルな状況のもとで、自然エネルギーに依拠するローカルな文化と、その文化に居場所を感じる人びとが、土地と環境の変化にどのように対処すべきか、という問題です。
これからやりたいこと
その問題を扱うために、私たちはアラスカ、シベリアというベーリング海の両側にある村落・コミュニティを対象にします。この地域は氷河期には陸橋としてつながっていて、これまで人類が両大陸の行き来をした重要な場所です。そこで、どのような場所・施設・方法で凍結貯蔵が行われてきたのか、近年の温度や湿度また気候の状況はどうなのかを自然科学や考古学を使って調査します。一方、古老や各世帯の人びとへのインタビューやアンケートを通して、凍結貯蔵が現地の食・生活・文化において果たしてきた役割や機能、また現在の状況や必要性を文化人類学や生態学・社会学的に聞き取ります。フードライフヒストリーとは、それを切り出すために私たちが提唱した新しい視点です。これらの結果を住民とともに見直して、それぞれのコミュニティが将来に望む凍結貯蔵のあり方を協働して考えます。例えば、自治体や地域レベルでのワークショップを通して当事者たちが自身の考えを再考し深めること、他のコミュニティの様子や対応を互いに共有すること、継承が中断しているところでは中高生を中心に体験型イベントなどで疑似体験することなどを考えています。
今後も温暖化が続いていった30年後、今の中高生が社会の中核を担うころに、彼ら・彼女らの共同体では「凍結貯蔵」をどうしたいと思うでしょう。もし保存・継承したいと思った場合、どのような方法でそれは可能になるでしょう。私たちは、その問題を一緒に考えていきたいと思っています。
写真1:シベリア内陸部の地下貯蔵庫入り口
メンバー
FS責任者
氏名 | 所属 |
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斉藤 和之 | 海洋研究開発機構地球環境部門・主任研究員 |
主なメンバー
氏名 | 所属 |
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岩花 剛 | アラスカ大学フェアバンクス校、国際北極圏研究センター |
久郷 洋子 | アラスカ大学フェアバンクス校、Arctic and Northern Studies |
平澤 悠 | 東亜大学、人間科学部 |
立澤 史郎 | 北海道大学大学院、文学研究院/北極域研究センター |
KOSKEY, Michael | アラスカ大学フェアバンクス校、Cross Cultural Studies |
OKHLOPKOV, Innokenty | ロシア科学アカデミー凍土圏生物問題研究所 |