健康な社会のための持続可能な生態系アプローチ

研究プロジェクトについて

新興感染症はもともと自然生態系の中にあった病原体が、生物多様性や生態系の劣化などによって人の社会に広がってくることが原因であり、環境問題の一つです。しかし病原体の根絶は不可能であり、また人は自然生態系なしには生きてゆけません。そこで新たな感染症が発生するリスクを抑える人と自然のかかわり方を探り、持続的な社会のために必要な行動変容について研究します。

なぜこの研究をするのか

新興感染症の75%は、人以外の動物に由来する人獣共通感染症と考えられています。感染症は社会の大きなリスクであることから、複数分野の研究者や政策担当者などが連携する「人、動物、環境の衛生に包括的に取り組む」ワンヘルスという対策アプローチが進められてきました。

ワンヘルスの視点による分析から、病原体が自然生態系から人の社会に広がることによる感染症の新興化は、生物多様性の減少、土地利用変化、気候変動、移動や物流のグローバル化、都市化などが主要因であることが明らかになりました。このため国連環境計画(UNEP)などの国際機関は、COVID-19の拡大を受け、新たなパンデミックを防ぐためには環境対策が必須であるとしています。その一方で具体的な対策は、まだ十分に検討されていません。たとえば森林保全が進んでシカなど野生動物が増加・分布拡大した結果、シカを宿主とするマダニも増え、北米や日本でマダニ媒介感染症が拡大してきたと考えられています。新興化リスクの抑制には、生態系保全と新興感染症対策のバランスが必須であり、新たな生態学的アプローチが必要です。

これからやりたいこと

地域によって生物多様性、病原体、人と自然のかかわり方はそれぞれ異なることから、新たな生態系アプローチでは地域の特性を十分に考慮します。そのため本研究ではまず情報が豊富な国内で、新興化リスク抑制対策に関連のある地域ごとの特性を明らかにします。そして生物間相互作用をふまえた低リスクの生態系利用について解明し、野生動物を含めた自然生態系と適切な関係を保つ社会を目指します。またリスク抑制に欠かせない生態系保全は地域ごとに異なることから、行政や民間ボランティアの活動を推進する力が必要です。そのため保全手法だけでなく、政策制度などを含めた効果的なアプローチを検討します。さらに病原体の貯蔵庫でもある熱帯雨林地域でも、森林の保全と親和性の高いリスク抑制対策について、研究を進めます。地域的、伝統的な感染症リスク回避の知識も収集します。これらによって森林減少が懸念される地域の生態系保全に、感染症新興化リスク抑制を無理なく追加する手法を探ります。

新興感染症のリスク抑制には、すべての人の協働が不可欠です。自然に対する価値観、許容範囲などにかかる地域属性等を明らかにし、また効果的な知識の共有を検討することで、行動変容の道筋を示したいと考えます。

図1:ワンヘルスに基づく生態系アプローチ。感染症新興化リスクの抑制には、生態系の健全性を基盤とした人の社会のあり方を含めた対策が必要です。

図1:ワンヘルスに基づく生態系アプローチ。感染症新興化リスクの抑制には、生態系の健全性を基盤とした人の社会のあり方を含めた対策が必要です。

図2:生態系アプローチでは生態系をまたいだ生物間相互作用をふまえ、自然生態系との適切な関係性を保つ社会のあり方を探求し、行動変容の道筋を示すことを目標にします。

図2:生態系アプローチでは生態系をまたいだ生物間相互作用をふまえ、自然生態系との適切な関係性を保つ社会のあり方を探求し、行動変容の道筋を示すことを目標にします。

メンバー

FS責任者

氏名所属
岡部 貴美子森林研究・整備機構森林総合研究所生物多様性・気候変動研究拠点・拠点長

研究員

氏名所属
森田香菜子 森林研究・整備機構森林総合研究所生物多様性・気候変動研究拠点・主任研究員
江原  誠 森林研究・整備機構森林総合研究所生物多様性・気候変動研究拠点・主任研究員
西廣  淳 国立環境研究所・気候変動適応センター・室長
曽我 昌史 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部・准教授
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