社会生態システム転換における衡平性:
熱帯森林フロンティアの政治・権力・不確実性

  • FS1
  • FS2

研究プロジェクトについて

熱帯森林フロンティアでは、伝統的な焼畑を営んでいた森林が集約的な商品作物農業に急速に転換され、地域社会も大きく変容しています。この社会生態的システム転換は多くの問題を抱えていますが、本FS では、とくにその衡平性に着目、転換の背景にある政治・権力・当事者の力学を検証し、新たな政策オプションを提供することを目的としました。自然・社会条件の異なる、カメルーン、コンゴ民主共和国、ラオス、ミャンマー、マレーシア(サバ、サラワク)の地域社会を対象に学際的・超学際的な研究をデザインし、より持続可能で衡平な開発のための諸条件の理解を図りたいと考えています。

なぜこの研究をするのか

写真1:ラオスにおける森林農業フロンティア(Thilde Bech Bruun 撮影)

写真1:ラオスにおける森林農業フロンティア(Thilde Bech Bruun 撮影)

写真2: 北部ラオスにおけるベトナム市場向けのトウモロコシの収穫(Robert Cole 撮影)

写真2: 北部ラオスにおけるベトナム市場向けのトウモロコシの収穫(Robert Cole 撮影)

「開発」の名のもと、社会的・生態的な不正義・不公正が生み出されつつある地域があります。伝統的な農業と近代的な農業がぶつかり合う境域「熱帯森林フロンティア」です。

そこでは、地域の人びとの日常生活を支え多様な生態系サービスを生み出してきた焼畑などの森林利用が、国家の利益を優先させる政策やその背景にあるグローバルな市場原理により、商品作物生産を目的とする画一的な農業に次々と転換されつつあります。問題なのは、地域の人びとがこうした転換から排除されていることです。人と自然の関係は軽視され、地域の人ではなく外の政治・権力外によって一方的に決められてきています。社会生態システムの転換という大きな変化に、衡平性が欠如しているのです。

本FSを企画したのは、この転換期にある熱帯森林フロンティア地域での衡平性について広く考えたいからです。「開発」の議論で抜け落ちているのは、衡平性です。衡平性が実現できない地域の将来は脆弱でかつ予測不能となります。

研究ではまず、熱帯林フロンティアの「開発」にだれが特権的な関心を持ち、そこからだれが不均衡な利益を得ているのかを明らかにします。政治・権力構造を明らかにしたうえで、このいびつな「開発」の過程で、社会的にも経済的にも政治的にも周縁化された地域の人びとに目を向けたい。彼らを内包しなければ、より豊かで持続可能な発展の経路はあり得ないと考えているからです。

これからやりたいこと

「開発」によるシステム転換の社会学的および生態学的影響を検討し、あらたな豊かさの指標と生態系サービスの項目の設定を模索したいと考えています。そのために以下の二つのアプローチで研究を行います。

ひとつは従来の研究を省察したうえで、普遍的な基準を求めるアプローチです。まず開発やグリーン・エコノミー、さらに気候変動政策といった文脈の中での森林保全と農業の巷間的・政治的言説を、次に組織的要因や権力構造が、地域の脆弱性や予測不可能性に影響する過程を、それぞれ分析します。そのうえで、こうした過程に、どのような「介入」が可能なのかを広く検討することになります。

もうひとつは事例研究に基づき、地域の固有性に着目するアプローチです。先に挙げた六つの研究対象地域ごとに、地域の人びとの価値観とそれを反映した行為、さらに彼らのエージェンシー(行為主体性)を把握し、想定される将来の道筋ごとに、それらがどのように社会・生態システム転換と「応答」するのかを、生態系サービスと生態的プロセスの変化とともに、明らかにすることになります。

このふたつのアプローチを実行するために不可欠な学際的・超学際的な研究体制を組織しました。また、それぞれの地域での成果を高次に統合する研究の枠組みも明確になりつつあります。最終的な目標であるオルタナティブな政策提言に向けて研究活動を推進していきたいと考えています。

メンバー

FS責任者

氏名所属
WONG, GraceStockholm Resilience Centre, Stockholm University
  1. HOME
  2. 研究プロジェクト
  3. 研究プロジェクト一覧
  4. 予備研究・インキュベーション研究
  5. 社会生態システム転換における衡平性:
    熱帯森林フロンティアの政治・権力・不確実性
↑ページトップへ
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
総合地球環境学研究所

〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4

Tel.075-707-2100 (代表)  Fax.075-707-2106 (代表)

みんながわかるちきゅうけん