電子情報化が進む時代の生物・遺伝資源の利用と公正な利益配分:
知財・ストーリーを通した生計向上と農業生物多様性保全

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研究プロジェクトについて

遺伝資源の利用と公正な利益配分(ABS)の課題解決を目的として、根底にある資源の情報の不整備と取引コストの高さ、住民へのインセンティブの欠如を含むナショナルとローカルの課題の克服をめざします。そのために、ナショナルとローカルをつなぐメソレベルでの情報整備、制度設計を主要対象とし、地域資源の自然科学的な情報・知財の整備による取引コスト低減と地域資源の科学的分析をとおし、資源の高付加価値化を実践します。

なぜこの研究をするのか

遺伝資源の取得の機会およびその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分は、30年以上の地球環境問題です。技術水準の異なる当事者間での地球規模の対立により、資源や知識が適切に活用されず、社会・経済格差の拡大、環境質の劣化の原因ともなっています。近年、遺伝資源のトレーサビリティが急速に向上した半面、論争は物質としての遺伝資源から知財・無形物(DNA塩基配列、合成生物、伝統知)へ拡大しています。遺伝子情報の解読技術の向上は、遺伝子の編集や情報の散逸に加えて、知財の過剰な保護にも関係し、資源が死蔵してしまうリスクもあります。情報の共有化の流れが今後も進行することを前提とし、モノに加えて情報としての遺伝資源が扱われる状況を見越した遺伝資源の公正な利用を促進する方策が求められています。

これからやりたいこと

図1  メソスケールレベルに着目した遺伝資源の公正な利用のための情報活用システム

図1  メソスケールレベルに着目した遺伝資源の公正な利用のための情報活用システム

写真1  内山愉太助教(左)とタイのカウンターパート(BEDO)と地理的表示に登録されたマンゴー生産者の方々と現地視察の様子

写真1 自家採種によって継承される遺伝資源も存在する(ミャンマーの農園風景)

資源の活用と利益配分が進まない背景には、利益配分の対象となる資源の整備が進まず、取引コストが高い「素材」となっており、そもそも配分すべき利益が生じにくい状況があります。課題の解決にはインターナショナルな組織間の締結に加え、ナショナルとローカルを連動させる必要があります。そこで本FSでは、ナショナルとローカルをつなぐメソレベルでの情報整備、制度設計を主要対象とし、①地域資源の情報やストーリーの整理と、②地域住民自らが利益獲得と保全動機を持つ持続的スキームの構築をめざします。 具体的には、地域資源の自然科学的な情報・知財の整備による取引コスト低減と、地域資源の科学的分析をとおし、地理的表示等の制度的枠組みも援用しつつ資源の高付加価値化を実践します。

具体的な対象地域としては、海外ではタイを主要対象として、フィリピン等の東南アジア、中国、韓国を対象とし、国内では、東北、離島(対馬等)、能登半島等を対象として、各地域の研究機関、事業者を含むステークホルダーとの連携を進めており、農研機構、遺伝資源センター(ジーンバンク)等とも連携して計画を遂行します。

最終的に、遺伝資源が利益を生まない要因である高い取引コストの問題を克服する情報整備、クリアリングハウスの形成と、地域住民が自ら循環的に資源を管理したくなる仕掛け(産品の高付加価値化)による利益配分の制度運営がなされ、利益配分と環境問題の同時解決が進行することが期待されます。そのプロセスにて、資源の提供・利用に関わる主体の能力開発、倫理形成もなされるよう計画しています。

FS責任者は、政府代表団、CLA(Coordinating Lead Author:調整役代表執筆者)としてのIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)での成果発信を実施しており、2020年の愛知目標、2030年SDGs(Sustainable Development Goals)については方法論的提案をおこない、各目標達成への貢献をめざしています。生物模倣技術のISO(TC266)のコンビーナーとして、新学術領域研究等において知財管理手法を実践し、ローカルには産品登録、文化的サービス(意匠等)の知財管理、関連研究の促進も意図しています。

メンバー

FS責任者

氏名所属
香坂  玲東北大学大学院環境科学研究科

主なメンバー

氏名所属
山田 奨治国際日本文化研究センター研究部
鈴木 睦昭国立遺伝学研究所知的財産室
CHANGTHAVORN, TanitBiodiversity-Based Economy Development Office (Thailand)
SUNDER, MadhaviUniversity of California, Davis
小沼 廣幸明治大学(元FAO ARD タイ)
井上  真早稲田大学人間科学学術院
白山 義久海洋研究開発機構特任参事
出口  茂海洋研究開発機構海洋生命理工学研究開発センター
陶山 佳久東北大学大学院農学研究科
磯崎 博司上智大学大学院地球学研究科
渡邉 和男筑波大学大学院生命環境科学研究科
大沼あゆみ慶應義塾大学経済学部
西川 芳昭龍谷大学経済学部
藤井 光夫日本製薬工業協会知的財産部
新井 好史公益社団法人上原記念生命科学財団
鴨川 知弘(株)サカタのタネ遺伝資源室
舟橋 史晃Copine–International Agriculture and Environment, LLC.
松岡  光シミックHD(株)
眞下 正樹経団連自然保護協議会/公益社団法人大日本山林会
谷口 雅保日本自然保護協会(NACS-J)/積水化学工業(株)
中村 考志京都府立大学大学院食品科学研究科
小林 邦彦総合地球環境学研究所
設樂 愛子東京海洋大学産学・地域連携推進機構
内藤 大輔Center for International Forestry Research (CIFOR)
松八重一代東北大学大学院環境科学研究科
柿沼  薫東北大学学際科学フロンティア研究所
田代  藍東北大学大学院環境科学研究科
内山 愉太東北大学大学院環境科学研究科
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