東南アジアの熱帯雨林保護地域における非金銭的利益の評価と活用

  • FS1

研究プロジェクトについて

東南アジアの貴重な熱帯雨林は、商業伐採や農地への転用など、短期的な利益獲得を目的とした土地利用により、近年急速にその面積が減少し問題となっています。本FSでは、経済的利益だけが重要視され、これまで見過ごされてきた、金銭では換算できない熱帯雨林の効果や価値、「非金銭的利益」に注目し、新たな価値を生み出すための人材育成や環境教育、伝統的文化継承などの場としての可能性を探ります。そして、地域の利害関係者が主体となって熱帯雨林を多面的に活用し、森林を持続的に保全していくための枠組みの構築をめざします。

なぜこの研究をするのか

地球上の熱帯雨林の多くが、不十分な管理のもとで今なお劣化・減少し続けています。残存する熱帯雨林を単に保護するだけでなく、持続させるために、そこから価値が生み出せることを実証していくことが重要になります。その実現には、熱帯雨林の存在によって影響を受ける地域住民の理解や協力、主体的な参加が不可欠ですが、これまでは熱帯雨林から得られる長期的な利益を地域側で十分認識できずにきたため、彼らの積極的な参加が得られてきませんでした。

森林伐採などで得られる金銭的利益は、短期的な経済効果は大きいものの、環境を劣化や破壊し、収奪的かつ非持続的なものとなります。一方で、非金銭的利益は、可視化しにくく、短期的な効果は小さいものの、文化の継承や人々の教育水準の向上、生態系サービスの長期的な享受など、さまざまな形で波及的な効果を生み出し、長期的には地域により大きな利益を生み出すことが考えられます。

東南アジアの熱帯雨林保護地域では、これまで先進国が主体となったさまざまなプロジェクトが実施され、既にかなりの知見の蓄積があります。しかし、その成果を学術分野以外へ拡張し、地域の長期的な利益の拡充に利用する具体的な設計ができていない状況でした。

本FSでは、これら知的資源の評価と社会システムへの組み込みを通して、社会の様々な階層や所属の関係者が、熱帯雨林が有する非金銭的利益の可能性を認識し、活用する仕組みの構築に取り組みます。そして、地域住民が主体となった持続的な熱帯雨林の保全と利用のための枠組みの設計をめざします。

何をどのように研究するのか

単に熱帯雨林が保有する非金銭的利益といっても、その種類や量、また効果の及ぶ時間や範囲などは、条件によってさまざまであることが予想されるため、まずはそれらを整理する必要があります。

そこで本FSでは、東南アジア熱帯雨林の大部分を所有するマレーシアとインドネシアにおいて、森林の保全状況や、地域住民の森林に対する意識、関わり合い、社会的な背景や歴史、現状での生物多様性情報の集積状況、さらには金銭的・非金銭的利益の活用状況などを調べ、それらの関係性や因果関係を解析します。

また、自然体験や環境教育などを含めた非金銭的利益の多くが、短期的効果よりも長期的な効果の発揮が期待されます。しかし、東南アジアの熱帯域では、このような事例がほとんどありません。そこで、日本やアメリカ、コスタリカなど、他地域での過去の事例の検証やその後の追跡調査を通じて、非金銭的利益の中長期的な効果を検証し、東南アジア地域での取り組みの将来像を予測します。

さらに、地域の利害関係者と協働し、複数の地域で保護地域が保有する非金銭的利益の活用を通して、地域住民が主体となった持続的かつ長期的な自然保護のあり方を探り、その枠組みを提示します。

そして最終的には、非金銭的利益の効果的活用によって、熱帯雨林から周辺地域にもたらされる波及的な効果を含めた、熱帯雨林地域の新しい保全・利用モデルの提案をめざします。

図1 非金銭的利益の発生過程や形態

図1 非金銭的利益の発生過程や形態

写真1 タイ・サケラート保護林におけるエコツアー

写真1 タイ・サケラート保護林におけるエコツアー

メンバー

FS責任者

氏名所属
市栄 智明高知大学教育研究部自然科学系

主なメンバー

氏名所属
市岡孝朗京都大学大学院人間・環境学研究科
市川昌広高知大学教育研究部自然科学系
大沼あゆみ慶応義塾大学経済学部
敷田麻実北海道大学観光学高等研究センター
中静透東北大学大学院生命科学研究科
馬奈木俊介九州大学大学院工学研究院
吉田正人筑波大学大学院人間総合科学研究科
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