琵琶湖・野洲川流域では、住民が身近な生き物の保全や生態系サービスを楽しむ活動を通じて地域の活性化につなげていこうとする姿が確認できました。このような活動は、地域の生態系や歴史の違いなどによってさまざまであり、進捗の段階も同じではありません。しかし、住民の活動が地域の生物多様性や栄養循環の回復につながることを示唆するデータや、地域のしあわせにつながっていると判断できる事例も確認できました。流域内の多様なコミュニティの活動がどのように流域全体に広がるかについては今後の課題となりましたが、少なくとも琵琶湖・野洲川流域において、生物多様性は地域と流域を結ぶ大きなポテンシャルをもっているといえそうです。
他方、河川の環境悪化が深刻なフィリピン・ラグナ湖・シラン−サンタ・ローザ流域では、生物多様性がすでに大きく失われ、人びとの関心も高くないことがわかりました。しかし、調査を進めていくと、流域の多様な主体の共通の関心が地下水にあることがわかりました。地下水の水質調査と人びとの生活との関係に焦点を当てることによって、現地で流域フォーラムを形成する機運が高まりました。
琵琶湖流域とラグナ湖流域の生態学的・社会経済的な特徴の違いについても、リン酸−酸素安定同位体手法など自然科学の調査や社会科学的な調査を通じてまとめることができました(図1)。