2024.11.15

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未来世代の声を聞くFuture Design−国連未来サミットで見えた可能性と新たな出会い

基盤研究部 京都気候変動適応センター 特別研究員 一原 雅子

2024年9月22日(日)から23日(月)にかけて、ニューヨークの国連本部にて未来に向けた行動計画や政策提言が話し合われる国連未来サミット(UN Summit of the Future)が開催されました。また、同月20日(金)から21日(土)にかけて、同サミットに先駆け、先行イベントとしてAction Daysが開催され、全56の団体が国連本部の会場にて様々な講演会やワークショップを実施しました。地球研からは一原雅子研究員(京都気候変動適応センター(KCCAC)特別研究員)が現地に赴き、KCCACにて行ってきた、Future Designを適用した気候変動適応策の検討に関する研究について、普及活動を行いました。また、現地の様子を見分してきました。以下、一原研究員からの報告です。

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KCCACで行ってきたFuture Designでは、農業関係者、行政担当者、研究者という異なる立場の三者が、互いの視点の違いを前提としつつ対等(フラット)に情報や知見を共有し、自分たちの認識も変容させつつ、気候変動下の京都の農業について将来ビジョンを共創していきました。これは、世界中で適切な気候変動適応策が模索される中で度々障壁となってきた、異分野からの参加者のフラットな議論や、従来の延長線上にない変革的な適応策の実現を可能にし得る結果と評価し得るものです。そこで、この研究結果について、国連の場で発信するために、一原が以下のとおり、現地参加をしてきました。

持続可能な開発目標(SDGs)の達成年である2030年が迫る一方で、その進捗は著しく遅れています。現状を憂いた国連加盟国からの求めを受けて、グテーレス事務総長は2021年、課題解決に向けた対処のための提言(Our Common Agenda)を提出しました。この中で提案されたのが将来サミット(UN Summit of the Future2)の開催でした。これまでSDGsを含む数多くの国際法や国際合意が蓄積され、向かうべき未来の方向性も、そのために必要な事柄もある程度の合意がある中で、必要な進度と内容を伴う履行が確保できない現状を踏まえ、既存の合意の履行を加速させるために、多国家主義への信頼回復と国際協力の強化に向けた議論を行うことが、このサミットの開催趣旨とされました。

最初の2日間に実施されるAction Daysではサイドイベントの開催が予定されていました。私達も上述したKCCACの研究成果とFuture Designワークショップ実施等をサイドイベントで実施することを企画し、上長の石井励一郎准教授やFuture Designの考案者である西條辰義教授(京都先端科学大学)に相談・助言を得ながら企画・応募をしました。しかし、サイドイベントの採択基準には「複数国が共催し、かつ一部が途上国であること」「政府機関も関わっていること」「国際機関およびNGOと共催すること」等があり、国連開発計画(UNDP)日本支部と連携して企画を組み応募したものの、最終的には不採択となりました(応募数は2000以上、最終採択数は56)。

そこで、他団体がFuture Designについて紹介している場を活用した研究報告を現地で行うことを計画しました!具体的には、オランダのNGOであるMilliongenerationsが、サミット開催期間中、国連本部の会場位置口付近にて、私と石井准教授が本年3月にWales国で実施したFuture Designの写真を含む、多様な将来世代考慮のための方法論に関するポスター展示を行うことにしていたのです(下記写真参照)。そこで、サミット開催前より彼らと連絡を取り、開催期間中、可能な限りポスター付近に待機し、通行人に声をかけて、当初意図していた発信を、対話を通じて個々に伝えました。その際、Future Designで用いる法被を活用し、私もその場で着用するとともに、通行人にも着用してもらって、数分だけでもタイムトラベルするイメージをもってもらうようにしました。

国連本部会場正面入り口から奥の会場に続く通路左側の壁に展示されたポスター

Future Designに関するポスタ―と一原

Future Designの法被を着たポスター展示企画主責任者のM.Münker氏

結果、以下の成果を得ることができました。

第1に、ポスター展示開催団体が本拠地を置くオランダ政府の方々に、直接Future Designについて伝えることができたことです。Milliongenerationsは9月21日(土)の午後に30分程度、ポスター展示付近においてオランダの大統領を含む数名によるスピーチ等を行いました。そこでも、その場にいた方々数名に、Future Designの説明を行う機会がありました。実は、オランダでは既に数件のFuture Designが実施されています。また、同国は本サミットで採択されたPact for the Futureの国家による実施に積極的に取り組むことを宣言しています。その国の方々に対話を通じてFuture Designを伝えたことは、今後同国でのFuture Designの活用の進展に繋がる可能性を持つ活動であったと思います。

第2に、本サミット及びAction Daysへの参加を通じて、ポスターとは離れて個々に他の参加者と多く交流し、今後につながる人脈を構築することができたことです。サミット参加機関がとても多かったため、最終的には総会への参加は多くの団体が1日のみ認められることになりました。私は22日のみの参加でしたが、Action Daysを含む全3日間、積極的に多数のイベントに参加し、他の参加者と対話し、活動紹介を通じて人脈構築を行いました。

今回の出張を通じて見分した内容については、今後、論文や学会等の場での報告を通じて、皆様と共有していく所存です。

関連リンク

「フューチャー・デザインで描く農業の気候変動適応ビジョン」(京都気候変動適応センター)
「未来人になって考える地球温暖化に負けない京都の農業 〜後継者不足、高齢化も克服するには?〜」(2024年2⽉7⽇プレスリリース)

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