2024.07.18
トピックス
森林を炭素吸収源にすることは危険、新報告書が政策立案者に警告
2024年5月6日に国際森林研究団体連合(IUFRO)が発表した報告書「国際森林ガバナンス:傾向、欠点、新しいアプローチの批判的レビュー」に地球研FairFrontiersプロジェクトのリーダーであるGrace Wong准教授が執筆者として携わりました。IUFROは120カ国、15,000人の森林科学者からなる非営利・非政府の世界的ネットワークです。この報告書は、土地利用や気候変動に関する政策立案者に、公正で効果的な森林政策を実施するための実用的な情報を提供するために作成されました。
Wong准教授は、第3章(森林関連金融の現状と公正な投資の可能性)の主執筆者であり、第2章(国際森林ガバナンスにおける主要な動向の政治生態学と経済)と第6章(主な成果と結論)の分担執筆者でもあります。同プロジェクトの共同研究者の Maria Brockhaus、Moira Moeliono、Muhammad Alif K. Sahide、Gordon John Thomas、Helena Varkkeyも執筆に関わりました。
国際森林研究機関連合(IUFRO)報告書-国際森林ガバナンス:傾向、欠点、新しいアプローチの批判的レビュー
森林の炭素吸収源としての機能に頼りすぎる政策の危険性を指摘
報告書は、森林減少を抑制するための国際的な森林ガバナンスの効果はまだ限定的で測定が困難であるとし、世界的な熱帯林伐採の減少には一定の進展が見られるものの、気候変動や生物多様性の損失、社会的・経済的不平等の拡大に対する危機感は依然として高まっていると述べています。
さらに、一般的になりつつある森林炭素取引や森林破壊ゼロサプライチェーンなどの市場ベースの森林保全対策はかえって不平等を生むなど、持続可能な森林経営に逆効果をもたらす危険性があると指摘しています。また、国の規制やコミュニティ主導の対策など非市場ベースの仕組みが、公正な森林管理のための重要な手段となると結論づけています。
Wong准教授は、「この報告書は、森林に関するガバナンス構造がこの20年でどのように展開されてきたのかを批判的に検証したものです」と述べています。特に第3章では、森林金融(森林の保護、管理、再生に関連する経済活動や投資)のさまざまな供給源、さらに複雑化する“持続可能な”森林管理の金融化、そして現在の森林金融の傾向から公正な金融の可能性は何かを考察しています。世界中でカーボンオフセット・プロジェクトが数多く実施されているなか、ほとんどの場合、期待に反して農民など地元のステークホルダーの収入が減り、森林減少率は上昇していることを明らかにしました。これらのプロジェクトを持続可能にするには、地元コミュニティの権利の保護とともに環境面、社会面で長期的な利益につながる仕組みが重要であるとしています。Wong准教授は「本報告書は、公平性の観点から森林ガバナンスとその中の資金の流れに疑問を投げかけるものであり、まさにFairFrontiersプロジェクトの研究の中核をなすものです」と語りました。
Grace Wong准教授
メディアからの注目
なお、この報告書は、現在の国際的な政策の課題を明らかにしたことで、多くのメディアに取り上げられました。
Market-based schemes not reducing deforestation, poverty: report (AFP)
森林保全、市場主導型解決策にほぼ効果なし 報告書 (AFP記事和訳)
“Financialisation” of Africa’s forests is driving inequality, says report (African Business)
Forestry Governance Too Fixated On Carbon Sequestration, Study Warns (Forbes)
出版物情報
タイトル:International Forest Governance: A critical review of trends, drawbacks, and new approaches
国際森林研究機関連合(IUFRO)報告書 − 国際森林ガバナンス:傾向、欠点、新しいアプローチの批判的レビュー
著者:Sarah Ali, Bas Arts, Samuel Assembe-Mvondo, Stibniati Atmadja, Michael Böcher, Maria Brockhaus, Indah Waty Bong, Sarah L. Burns, Daniel A. Cordova-Pineda, Peter Edwards, Hannah Ehrlichmann, Rafaella Ferraz Ziegert, Alexandru Giurca, Evgenia Gordeeva, Caitlin Hafferty, Mark Hirons, Gordon John Thomas, Daniela Kleinschmit, Eric Mensah Kumeh, Niak Sian Koh, Ahmad Maryudi, Constance L. McDermott, Julián D. Mijailoff, Moira Moeliono, Dodik Nurrochmat, Franklin Obeng-Odoom, Mi Sun Park, Niina Pietarinen, Helga Pülzl, Muhammad Alif K. Sahide, Metodi Sotirov, Richard Sufo Kankeu, Helena Varkkey, Alizée Ville, Georg Winkel, Grace Y. Wong, and Doris Wydr
※ 太字の著者はFairFrontiersプロジェクトのメンバーです。
編者: Daniela Kleinschmit, Christoph Wildburger, Nelson Grima, Brendan Fisher
発行:国際森林研究機関連合(IUFRO)
巻:43
査読あり
言語:英語
発行年:2024
ページ数:164p
ISBN: 978-3-903345-25-6
https://www.iufro.org/science/science-policy/follow-up-studies/international-forest-governance-2024/
IUFROについて
国際森林研究団体連合(IUFRO)は、森林と樹木の生態学的、経済的、社会的側面の理解を深めるために協力する、世界120カ国、15,000人の森林科学者からなる非営利・非政府の世界的ネットワークです。1892年に設立されたIUFROは、オーストリアのウィーンに本部を置いています。第26回IUFRO世界大会は、今年6月にスウェーデンのストックホルムで開催されました。