実践プログラム

土地利用革新のための知の集約プログラム

FairFrontiersプロジェクト

プロジェクト概要

中央アフリカや東南アジアの熱帯地域では、フロンティア(開拓地)での森林破壊と土地利用の激化により、景観や生業または地域住民のウェルビーイングの急速な変容が起きています。このことはグローバルな環境問題であると同時に地域の社会・生態システムの危機でもあります。このプロジェクトは、政策分析と事例研究をおこない、森林と農業の境界地域での変容がより衡平で持続可能な開発となるための条件を明らかにします。

南半球の熱帯地域では、多様な焼畑農法や小自作農がほとんどだった森林と農業のフロンティアが急速に均質的な景観の商業農地に転換されています。農業、休耕地、森林のモザイクからなるこれらのフロンティアは、複数の生態系サービスを提供し、社会的・文化的・生活的ニーズを支えており、先住民族コミュニティや地域住民が土地や資源に対する伝統的権利を有する地域でもあります。土地利用の激化は、しばしば「持続可能な開発」や進歩として追求されますが、社会的にも生態系にも期待されるような成果をもたらさないことが多々あります。このような森林・農業フロンティアに住む先住民族や小規模農家は、様々な開発に関与し、適応し、抵抗してきましたが、地元の権力者や国家、外部投資者の利益の代償として自分たちや自分たちの慣習上の利益が阻害されることに常に直面しており、こうした状況は森林や土地利用をめぐる政治、制度、権力構造の複雑さを反映しています。

このプロジェクトでは、学際的、超学際的なアプローチを用いて、「森林と農地の境界(フロンティア)は誰の権益で変化し、誰が利益を得て、誰が不利益を被るのか」、「生態系においても持続可能で、社会的に衡平な結果をもたらすことができる政策の選択肢にはどのようなものがあるのか」を問いかけていきます。

これらの研究課題に取り組むため、プロジェクトは5つの連結するモジュールで構成されており(図1参照)、東南アジア(マレーシア(サバ州、サラワク州)、ラオス、インドネシア)と中央アフリカ(カメルーン、コンゴ民主共和国)で調査を実施します。

図1:プロジェクト構成

モジュール 1 森林と土地に関する政策の歴史的(及び植民地的)構成とその現在までの道筋を掘り下げ、政策が森林フロンティアにおける開発をどのように定義し、問題視するかについて批評的な言説分析を行う
モジュール 2・3 さまざまな手法と参加型アプローチを用いて、生態系サービスとウェルビーイングがフロンティアでどのように変化しているかを検証する
モジュール 4 超学際的なアプローチを用いて、多様な地域のナラティブ(物語)を含めた持続可能な未来を実現するための知識・知見を共創する
モジュール 5 構造化された定性・定量的分析を用いて、各モジュール、規模、国を横断する統合的な比較分析を行う

すべての研究は、各国のパートナーと共同で行われ、研究者、市民社会活動家、自然保護活動家、村人、学生などが参加しています。

研究地域は、森林被覆、生態系の多様性、不平等と人間のウェルビーイング、制度的・政治的統制、政策プロセスにおける民主主義と市民社会の関与など、生態系・社会的・制度的に多様でユニークな状況を提供しています。これらのアプローチを組み合わせることで、衡平性、生態系サービス、ウェルビーイングを評価するための理論や新たな手法を発展させ、今もなお多様なランドスケープに生計とウェルビーイングを依存している何百万もの人々にとってより衡平で持続可能な開発の道筋を可能あるいは阻害する条件を明らかにすることができます。

研究の進捗状況

これまでにわかったこと

モジュール1では、サバ州の森林におけるカーボン・オフセット政策 (Kan et al., in review)と、カメルーンのクリビ地域における新たなパーム油プランテーションを取り上げたメディアの言説分析を行い、政策やプランテーションに対して擁護もしくは反対する様々なアクターの協調体制 (コアリション) について調査しました。先住民やその土地で生活し働く地域コミュニティを排除し、不釣り合いな影響を及ぼしている森林フロンティアにおける開発の決定や実践の根底にある言説的権力がこの調査で理解することができました。

また他に、産物、金融、言説の遠距離的な流れが、現地のランドスケープにおける土地政策や森林政策を形成する上で果たす役割を検証しています。我々の分析は、コンゴ民主共和国(Pietarinen et al. 2023)やサバ州(Ali and Varkkey, 2023)において、フロンティアの利益と金融化がいかに不平等を助長し、権力構造を強化しているかを浮き彫りにしています。

現在、すべての調査地で現地の調査活動を行っています(写真1、2)。カメルーンのカンポ・マアン地域で地元のパートナーと修士課程の学生が収集したデータを分析したところ、国立公園の新設と拡大する大規模なアブラヤシやゴムのプランテーションに挟まれた地元住民と先住民のコミュニティのウェルビーイングと正義に関する認識が浮き彫りになりました(Dhiaulhaq et al.)。 先住民族であるBagyeli族が住むNyamabande村の多くの世帯は、森林が自分たちのアイデンティティにとって非常に重要であると認識しています(図2、Hepp et al., in review)。調査の結果は現地のコミュニティと共有され、彼らのフィードバックは、ウェルビーイングと生態系サービスの関連性の根底にある社会的・文化的背景の理解を深める上で極めて重要でした。

写真1:ラオスのウドムサイでの現地調査

写真2:コンゴ民主共和国上カタンガ州での現地調査

図2:カンポ地域、カメルーンで調査した各村において人々のウェルビーイングに貢献している生態系サービスの観測値を描いたスタープロット

特筆すべき事項

このプロジェクトの分析の枠組みは、権力と日常政治の理論、社会的・環境的な正義、生態系サービスの科学に基づいて構築されています。私たちは、国内のパートナーと協力して重要な政策分析(コンゴ民主共和国の先住民ピグミーの権利保護に関する法律、インドネシアのオムニバス法)を行い、フロンティアにおける企業の現状維持(business-as-usual)を変える可能性を検証しています。

このプロジェクトでは、研究者、パートナー、学生による新しい研究成果・意見論文などを共有するために、研究報告のシリーズを作成しました。このシリーズは査読付きで、2023年には2つ出版されています。

Assembe-Mvondo, S., Tieguhong, C.J., Wong, G., Brockhaus, M. Crises, complexities and claims in protected areas: Landscapes of (in) coherent biodiversity governance and social-environmental injustice in Southwest Cameroon. In, Ongolo, S., Krott, M (eds.), Power Dynamics and Biodiversity Crisis in African Forests. Routledge Studies in African Politics and International Relations; peer reviewed, in press.

Ali, S. and Varkkey, H. (2023) When distal flows meet local realities: A history of Acacia and Eucalyptus plantations in Sabah, FairFrontiers Research Brief no. 1/2023. Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto, Japan. peer reviewed.

Pietarinen, N., Koh, NS., Ville, A., Brockhaus, M., Wong, G. (2023). Can REDD+ finance compete with established and emerging land investments? The case of Mai-Ndombe, Democratic Republic of Congo. CIFOR-ICRAF Info Brief no. 395. peer reviewed.

Wong, G.Y., Holm, M., Pietarinen, N., Ville, A., Brockhaus, M. (2022). The making of resource frontier spaces in the Congo Basin and Southeast Asia: A critical analysis of narratives, actors and drivers in the scientific literature. World Development Perspectives, 27(4): 100451. https://doi.org/10.1016/j.wdp.2022.100451; peer reviewed.

年報(業績一覧など)

メンバー

プロジェクトリーダー

WONG, Grace

総合地球環境学研究所准教授/Stockholm Resilience Centre, Stockholm University

プロフィール紹介

サブリーダー

BROCKHAUS Maria University of Helsinki
MERTZ Ole  University of Copenhagen
BRUUN Thilde Bech University of Copenhagen
MOELIONO Moira CIFOR-ICRAF
SAKAI Shoko Hong Kong Baptist University

研究員

SIDIBE Alimata 研究員
Andi Patiware Metaragakusuma 研究員
Wai Phyoe Maung 研究員
Azwar Azmillah Sujaswara 研究推進員
簡 綾美 研究推進員

主なメンバー

CHACGOM, Aristide Green Development Advocates
EGAY, John Kelvin Universiti Malaysia Sarawak
石川 登 京都大学東南アジア地域研究研究所
JOHN, Gordon Thomas PACOS Trust
LAIN, Christine Forgotten Parks Foundations
内藤 大輔 京都大学大学院農学研究科
NKONGOLO MUKAYA, Jules Fortunat Center for Intercultural and
Interdisciplinary Research for Sustainable Development in Southern and Central Africa
NTIRUMENYERWA MIHIGO, Blaise-Pascal University of Kinshasa
Nyein Chan 京都先端科学大学
SAHIDE, Muhammad Alif K. Universitas Hasanuddin
SELOMANE, Odirilwe University of Pretoria
TENGÖ, Maria Stockholm University
THONGMANIVONG, Sithong National University of Laos

外部評価委員による評価(英語)

研究スケジュール

2019年度
(令和1)
2020年度
(令和2)
2022年度
(令和4)
2023年度
(令和5)
2024年度
(令和6)
2025年度
(令和7)
FS FS/PR FR1 FR2 FR3 FR4

研究の流れについて

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