実践FS

〈地球人間システムの共創プログラム〉

プロジェクト概要

洪水や産業事故などの災害管理は、東アジアにおける持続可能な開発の達成に不可欠です。産業化、貿易、投資、援助、地政学的要因により、地域の災害の特性とリスクが変化しています。本研究では、 東アジアの地域統合や人々の自然との関係の変化を分析することで、災害の理解、準備、対応のあり方を再考します。研究対象国はカンボジア、中国、日本、ミャンマー、台湾、タイであり、これらの国々に 影響を与える地域経済、環境、災害ガバナンスシステムにも焦点を当てます。

なぜこの研究をするのか

本研究は、人新世(Anthropocene)における東アジア地域主義と災害・開発の関係を探るものです。洪水や干ばつ、地震、津波などの災害は、経済・社会・環境に深刻な被害をもたらし、食料供給、エネルギー供給、輸送などの人間の生活基盤を脅かします。さらに、貿易・投資・援助といったグローバルなサプライチェーンを通じた流通に依存する現代社会において、その影響は一層深刻です。

本研究では、東アジアの地域主義における経済・環境のつながりが、どのように災害の発生、準備、対応に関係しているかを探ります。これまでの研究や政策は、経済・環境・災害ガバナンスを個別に扱うことが多く、災害と開発の相互関係を明確に説明できていません。このような分断的なガバナンスのアプローチは、しばしば人間の利益に重点を置き、社会を支える自然との関係の変化を考慮しないまま進められてきました。

本研究では、「地域的なつながりの文脈の中で、持続可能な開発と災害管理を確保するために必要な政策・ガバナンスとは何か?」という問いを立てています。理論的には、「世界生態学(World Ecology)」「災害の社会的生成」「環境正義」といった概念を取り入れ、経済発展・災害・環境の共生的な性質を再構築することで、ポスト仙台枠組み(Sendai Framework)、ポスト2030開発アジェンダの文脈で、包括的なガバナンスシステムの設計と実践を目指します。

研究では、洪水、干ばつ、地震、工業事故など多様な災害を対象とします。カンボジア、中国、日本、ミャンマー、台湾、タイにおいて地域レベルの事例研究を実施するとともに、以下のような広域的課題についても検討します。

•越境煙害(トランスバウンダリー・ヘイズ) •越境水ガバナンス •気候変動と気象システム •ASEAN人道支援調整センター(AHAセンター)の役割

本研究は、学際的(トランスディシプリナリー)なアプローチを取り入れ、政策設計や制度構築に貢献することを目的としています。そのために、地域・国・国際レベルの関係者と連携し、研究成果を社会実装につなげます。

研究の進捗状況

これからやりたいこと

本研究では、以下の3 つの目標を達成することを目指します。

1 .研究デザインの理論的・方法論的な確立

世界生態学、災害の社会的構築、人間と自然の関係における正義の概念を取り入れたアプローチを発展させます。

2 .研究者間の交流と成果の共有

2025年6 月に総合地球環境学研究所でワークショップを開催し、研究に関わる研究者が事例研究の詳細を共有し、それらの相互関係を探ります。また、その成果をもとに、共同論文を作成します。

3 .研究プロジェクトの統合と外部連携の強化

学際的アプローチを活用した研究計画を確立します。ポスト2030開発アジェンダ、ポスト2030仙台枠組み、ASEAN 2045ビジョンなどの政策対話に関与する機会を検討します。また、事例研究を行う各国の被災地域に具体的な利益をもたらすための戦略を開発します。

メンバー

FS責任者

ITO, Takeshi

上智大学教授

研究の流れについて

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