実践FS

土地利用革新のための知の集約プログラム

氾濫原景観における災害軽減/生態系保全のための自然・文化を基盤とする解決策:流域治水/自然再興の実践に向けた持続的な氾濫原共同体の設計

プロジェクト概要

多くの都市が立地する氾濫原は、洪水、高潮や津波による災害に見舞われています。近年、河川・海岸や土地の改良が進み、利便性と安全性が増す中、多様な生物の生息場所やそれらが連なる生態系ネットワークは変質していきました。私たちは、氾濫原に培われてきた自然・社会共同体に注目し、流域治水/自然再興を実践する水・土地利用の変革を通じて、新たな「氾濫原共同体」を設計します。

なぜこの研究をするのか

集中豪雨による洪水、台風襲来による高潮や地震などが引き起こす津波は、私たちの多くが居住・利用する沖積低地に多大な影響を及ぼしてきました。多くの沖積低地は大河川の氾濫原であり、かつては人の手が入らない湿地的な景観が優占したとされています。その後、近世の人口増加に応じた新田開発やそれに伴うインフラ整備(霞堤や輪中堤などの不連続堤防など)が部分的に進められ、食糧増産を果たすと同時に生物多様性も向上したと考えられています(写真1)。 

写真1:濃尾平野西縁にあって扇状地と輪中を画する湧水河川・津屋川

近代に至って国や県の事業として河川・海岸が整備され、都市域や大規模農地による高度な土地利用が進められると、乾燥した氾濫原に資産は集積していく反面、かつて豊かだった生態系は変質していきました。長大な連続堤防は氾濫頻度を低下させますが、氾濫原に居住する人々に培われた生活様式や慣習・規範(水防共同体制など)に加え、平時は厳しく監視し合いながらも発災時には復旧・復興を相互扶助する、集落間の対立・協力関係も弱体化させました。このような状況下で、近代インフラで凌げないほど強大な洪水・高潮が襲来して広域・長期に及ぶ氾濫が生じると、人間社会、生態系ともに取り返しのつかない甚大な被害が生じかねません。流域治水/自然再興を実践する水・土地利用の変革を通じた、今日的で持続的な「氾濫原共同体」が求められているのです。

研究の進捗状況

これからやりたいこと

氾濫原共同体を自然・社会の両側面から分析するため、かつて洪水・高潮が常襲した氾濫原において、歴史的に構築されてきた土地利用インフラ/システム、それを支える河川水系とそれに依拠する複数の集落を調査します。そのうえで、氾濫原共同体に関わる景観・風土要素を探索・抽出して、それらの相互作用により成立してきた自然・文化を基盤とする解決策を記述します。 現段階で注目する景観・風土要素である土地、生物、資源、集落、生業、文化の連鎖系とこの研究を構成する4つのサブテーマの関係を概念的に示します(図1)。

図1:氾濫原共同体における景観・風土要素とこの研究を構成するサブテーマの概要

堆積地盤や生態系ネットワークなどを“自然科学”的に計測し<自然・生物の評価>、近世の集落、風俗、生業などを”社会科学”的に調査したうえで<歴史・文化の評価>、数値シミュレーションを基盤に流域治水/自然再興のシナリオを分析します<水・土地利用の検討>。これらの成果を踏まえ、現存する水共同体の分析に基づいた防災・環境ファシリテーションにより、氾濫原共同体のあり方を考えていきます。

メンバー

FS責任者

田代 喬

東海国立大学機構名古屋⼤学減災連携研究センター・特任教授

主なメンバー

秋山 晶則(岐阜聖徳学園大学教育学部)
荒木 裕子(京都府立大学大学院生命環境科学研究科)
厳島 怜 (九州工業大学大学院工学研究院)
大槻 順朗(山梨大学大学院総合研究部)
小野 悠 (豊橋技術科学大学建築・都市システム学系)
鷲見 哲也(大同大学建築学部)
陀安 一郎(総合地球環境学研究所)
豊田 将也(豊橋技術科学大学建築・都市システム学系)
中村晋一郎(東海国立大学機構名古屋大学大学院工学研究科)
永山 滋也(東海国立大学機構岐阜大学環境社会共生体研究センター)
橋本 操 (東海国立大学機構岐阜大学教育学部)
堀 和明(東北大学大学院理学研究科)
堀田 典裕(東海国立大学機構名古屋大学大学院環境学研究科)
森 誠一(岐阜協立大学地域創生研究所)

研究スケジュール

2024年度
(令和6)
FS

研究の流れについて

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