東南アジアにおける持続可能な食料供給と健康リスク管理の流域設計

研究プロジェクトについて

本プロジェクトでは、人口増加や土地の改変などによる環境・生態的異変が、人々の食と健康にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにし、集水域を単位とするリスク管理の構築をめざしました。特に都市化の影響が著しいフィリピン・ラグナ湖周辺地域を重点調査対象として、水質や食品の汚染による食生活や健康面への影響とメカニズムを解明し、問題解決への政策提言にも取り組んできました。

何がどこまでわかったか

食料問題は地球環境問題と密接につながっており、21世紀前半における人類の最重要課題のひとつです。近年、アジア農業・漁業の現場では、生態系の劣化と破壊、水質汚染、洪水の多発など環境面でさまざまな異変が起きており、その影響は食料供給、食品の安全性、さらには人々の健康にまで及んでいます。

本プロジェクトでは、異常気象、人口増加、都市化の進展、土地の改変などの過程で生じているさまざまな生態的変化と「食と健康リスク」との関係性に注目し、集水域を単位とするリスクの実態を解明するとともに、アジア諸国における食料安全保障と災害リスク管理のあり方について考察しました。私たちの食卓がいかに身近な生態環境に支えられているのか、そして、どうすれば持続可能な食料生産を達成しうるのかについて、アジアの現場から解明しようと試みました。さらに、地域コミュニティやステークホルダー(利害関係者)の参画が地球環境問題の解決に向けていかに効果的であるのかについても検証しました。

私たちの考える地球環境学

本プロジェクトでは、特に都市化と人口集中が著しいフィリピン・ラグナ湖(Laguna de Bay)周辺地域を対象として調査を実施しました。ラグナ湖はアジア最大級の淡水湖であり、その水資源は農業・工業・養殖・飲用・水運・レジャーなど多目的に利用され、しかも用途間の競合が強まっています。農業面では「緑の革命」によって稲作は集約化され、化学資材が多量に投入されました。その結果、土壌劣化や水質汚染が顕在化し、食のリスクを高めてきたのです。そこで、首都マニラ都市圏の影響を強く受けているサンタロサ(Santa Rosa)集水域を対象として、資源・環境調査、水質・底質調査、住民の食生活と栄養・健康調査などを実施しました。

地球環境学は、さまざまな専門分野の研究者が共同で環境に対する理解を深めるだけでなく、さまざまなステークホルダーとともにその環境との共生システムを模索するうえで重要な役割を果たすと考えられています。

過去10年間のラグナ湖における魚大量死の発生箇所
図1:過去10年間のラグナ湖における魚大量死の発生箇所
(出所)Laguna Lake Development Authority 資料2012

新たなつながり

禁漁区(Yankaw漁礁)の設定と共同管理による漁業資源の回復
図2:禁漁区(Yankaw漁礁)の設定と共同管理による漁業資源の回復
Yankawは地元に多く自生する枝分かれの多い樹木。伝統的な漁礁づくりに使われていたが近年使われなくなってきていた

私たちは、2012年の秋以降、ラグナ湖周辺の農漁民・地域住民・研究者・行政の連携による「Yama ng Lawa(湖の恵み)」という資源の保全管理と経済的自立を両立させるための社会実験を開始しました。伝統知を生かしつつ、資源の保全と持続的な漁業を両立させるため、住民参加型の新しい手法を試みました。その結果、食と健康リスクを低減させる実行可能な手法を開発することができました。これらの一連の取り組みに対し、フィリピン政府より「湖の魂(“Diwang Lawa”)賞」が授与されました。

引き続き研究を進めているCR事業「持続可能な資源利用にむけた社会実装の検証―フィリピン・ラグナ湖集水域を事例として」においては、生態系保全と漁家の生計確立を両立させる取り組みの意義について評価を試みています。

この取り組みにおける主要課題は、前述の社会実験の過程において、地域コミュニティおよび主要ステークホルダーの参画がどのようなプロセスで行なわれ、それらが地球環境問題の改善・解決に向けてどのように作用し、さらにはどのような具体的成果を生み出したのかについて実証的に解明することです。

「湖の魂賞」授与式のようす
写真2:「湖の魂賞」授与式のようす

プロジェクトリーダー

嘉田 良平
四条畷学園大学

外部評価委員による評価(英語)

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