【安成通信】「緑の回復」に向けて-「異常な夏」に考える
 “Toward a Green Recovery - A thought in the abnormal summer of 2020 ”
(The English version will be issued soon.)

2020年9月1日

豪雨災害をもたらした長い梅雨に続く酷暑の夏、そしてゲリラ豪雨。世界各地からは異常高温による森林火災も多数報告されています。日本に豪雨災害をもたらした要因は、非常に強い高気圧に加え、海水温の上昇による水蒸気の増加があります。日本付近も含めた全球的な海面水温の上昇は、CO2などの温室効果ガス増加による「地球温暖化」の海洋に現れた結果とされています。COVID-19のパンデミックからの社会・経済の回復は、より持続可能な新しい社会への転換の可能性を求めていく「緑の回復(Green Recovery*)」をめざすべきです。

豪雨災害、酷暑や森林火災をもたらした今年の夏

九州や西日本に豪雨災害をもたらした長い梅雨が7月末にようやく明けたとたん、8月は記録的な「酷暑」の夏となりました。8月が終わろうとする今も、連日、35℃を超え、時には40℃に迫る「危険な暑さ」の日が日本全体で続いています。東京都内の8月の熱中症による死者は200人を超え、過去最多となっています。世界の多くの地域では異常高温と、それに伴う森林火災が報告されています。一方で、ひとたび積乱雲が発達すると、1時間に100㎜を超える「ゲリラ豪雨」となったことがあちこちで報告されています。

こうした中、全国の多くの児童・生徒たちは、COVID-19のための長い休校のあと、夏休みを早く切り上げて新学期が始まり、酷暑の中、マスクをさせられて通学を強いられ熱中症になる生徒も増えています。このような酷暑の夏は、今年だけではなく、近年特に顕著に増加しています。1946年以降75年間の気象庁の観測データにより西日本の8月の平均気温の高かった年を調べると、今年を最高として、2010年以降の実に7年が、上位10位内に入っています。

酷暑と豪雨の原因は海水温の上昇による水蒸気の増加

なぜこんなにひどい暑さが続いているのでしょうか。直接的な原因は、日本付近を覆う太平洋(小笠原)高気圧が非常に強く、好天が続いているからです。高気圧が強いのは、日本の南、西部熱帯太平洋から東南アジアモンスーン地域の対流活動(積乱雲の活動)が非常に活発で、上昇気流が強く、南北の大気循環を通して高気圧域の下降気流を強めているからです。アジアモンスーン地域の活発な対流活動は、インド洋から西部熱帯太平洋の海面水温が高いことも関係しています。海面水温は今、図1に示すように全球的に上昇しており、この10年でも0.5℃の昇温になっています。

図1:全球平均の年平均海面水温の長期変化傾向(気象庁、2020)

図1:全球平均の年平均海面水温の長期変化傾向(気象庁、2020)

日本近海の昇温はさらに大きく、日本のすぐ南の海面水温は、この夏は、30℃に達しており、まさに熱帯の海洋と同じで、台風の発生・発達が容易な状況です。高い海水温に囲まれた日本列島では大気中の水蒸気量が増加し、7月の長くて活発な梅雨前線による雨をもたらしましたが、8月にはがまんできないような蒸し暑い夏をもたらしました。水蒸気の増加は、地域的な温室効果を強めて地面付近をより暑くする一方で、いったん大気が不安定になれば、過去にはなかったような豪雨を引き起こします。サンマの不漁もこの日本付近での海水温の上昇が大きな原因となっているようです。

海水温上昇は「地球温暖化」のシグナル

日本付近も含めた全球的な海面水温の上昇は、CO2などの温室効果ガス増加による「地球温暖化」の海洋に現れた結果とされています(IPCC、2013)。世界中で起こっている高温や関連した異常気象・現象の頻発は、地球の気候の状態が劇的に変化する転換点(tipping point)にさしかかっていることをさえ、示唆させます。パリ協定では、地球全体で1.5℃以内の温暖化に抑えて転換点の危機を避けようと、2050年までにCO2排出量をゼロにすることを目標にしていますが、これまでの経済成長だけをめざす社会の体制ではとても達成できそうにもない目標ともいえます。

COVID-19をキッカケに「緑の回復(Green Recovery)」をめざすべき

しかし、今回のCOVID-19は思わぬ機会を人類社会に与えてくれました。感染の拡大防止のために、2月以降に人の移動の大幅な抑制により世界規模で交通・運輸・産業はスローダウンしたことにより、今年の1月まで増え続けてきた世界のCO2排出量が、それ以降の3か月間で(2019年平均に比して)約17%も減少したことが明らかになりました(Le Quere et al., 2020)。特に地上交通・運輸と航空機運航の減少による削減は図2に示すように非常に大きく、通勤や国内外の出張などのビジネス活動に用いる交通手段を、自家用車から自転車や公共交通機関に変えたり、富裕層によるプライベートジェット機による移動を止めるだけでも、CO2排出の大幅削減は十分可能であることをこの論文の著者らは指摘しています。

図2:COVID-19に伴う政治的規制や自主規制に伴う、セクターごとの全球的なCO2排出量の変化。

図2:COVID-19に伴う政治的規制や自主規制に伴う、セクターごとの全球的なCO2排出量の変化。
2019年の平均的な排出量に対しての変化で示されている。上段:電力(左)、工業活動(中)、地上交通(右)
下段:公共活動(左)、家庭(中)、航空(右) (Le Quere et al., 2020)

今回のCOVID-19のパンデミックからの社会・経済の回復は、単に元の状態に性急に戻そうとするV字回復ではなく、むしろCOVID-19によって強制的に引き起こされた社会や生活の変化をキッカケとして、より持続可能な新しい社会への転換の可能性を求めていく「緑の回復(Green Recovery*)」をめざすべきなのです。

夕涼みの夏を懐かしみつつ
<夕涼み線香花火の匂ひかな> 正岡子規

地球温暖化を何とかしよう
<水を打つ曲りさうなるこゝろにも> 笙鼓七波
<海洋に打ち水をせん暑き夏> 哲風

参考文献:

  • IPCC, 2013: Climate Change 2013: The Physical Science Basis.
  • Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1535 pp.
  • Le Quere C. et al., Nature Climate Change, 2020: Temporary reduction in daily global CO2 emissions during the COVID-19 confinement.

Green Recoveryについて:
https://www.climatechangenews.com/2020/04/09/european-green-deal-must-central-resilient-recovery-covid-19/

気象庁HP:
http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/shindan/a_1/glb_warm/glb_warm.html

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