【安成通信】 京都における新型コロナウイルスの推移-季節の移ろいの中で

2020年5月28日

世界と日本のCOVID-19の推移

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のため、在宅勤務やテレワークなどによるstay home状態からほぼふた月になりました。ひとけも少ない地球研の周りも、いつのまにか桜の季節は過ぎ、新緑の中にヤマツツジの花が咲き乱れる季節となりました。

世界のCOVID-19のパンデミックは南米や南アフリカなどに拡大し、5月25日(4月5日)のデータで、感染者数540万強(100万強)、死者は約34万5千人(5万人強)にのぼっています。(カッコ内は、4月5日の安成通信で調べた時の数値です。) この50日間で感染者も死者も5~6倍の増加です。国内では東京など大都会を中心に拡大し、5月25日(4月5日)現在、感染者数が約17000(4000)人、死者は839人(93人)です。感染者数は同じ期間で、4倍程度ですが、死者数は約9倍です。ただ、図1のように、5月の連休に入った頃から、減少傾向が続いているということで、4月7日に政府が出した緊急事態宣言は、本日(とりあえず)解除されました。

京都におけるCOVID-19 の推移

さて、(京都市・京都府を含む)京都の状況ですが、図2に示すように、欧州の卒業旅行から戻った大学生達からのクラスター(感染者集団)が3月29日に確認されて以来、感染者数は急上昇し、市内のひとつの病院で集団感染が発生したことなどもあり、4月3日には、1日に20人近い感染者数に達し、このまま、欧米でみられたようなオーバーシュートと言われる爆発的増加にならないかと心配されました。幸いなことにその後小康状態のまま、4月中頃から減少傾向となり、ゴールデンウィーク(GW)の頃からには数人以下、そして5月15日以降は感染者数ゼロとなっています。

なぜ京都で4月中頃以降、減少に転じたのでしょうか。政府の出した緊急事態宣言は4月7日であり、しかも、京都府はその時点は、この対象都道府県には入っていませんでした。緊急事態宣言の効果がすぐに出てくるものではないはずです。 いくつかの理由が相乗的に効いた可能性があります。まず、学生による集団クラスターの形成は、京都府・京都市に大きな衝撃を与え、知事と市長は4月2日に緊急の合同記者会見を行い、3密による社会的距離を保つことに加え、不要不急の外出、京都への観光、急激に感染が増加している関西圏での(通勤・通学も含む)行き来の自粛を強く訴えました。今年の桜の満開日はちょうど4月初めでしたが、例年なら京都市内、府内の桜の名所は多くの花見客が集まる時期でしたが、この自粛要請はみごとなほど効果が上がったようです。もうひとつ幸いであったことは、この数年来、大量に押し掛ける外国人観光客が、それぞれの国でのCOVID-19問題のため、移動禁止などで、ほとんどいなかったことです。写真1は、4月3日の賀茂川沿いの満開の桜ですが、人の姿もまばらなことがわかります。今回のウイルスは、感染から1~2週間程度で発症するとされています。最初の学生クラスターによる府内感染や病院での感染が、4月初めの知事・市長合同の緊急宣言以降、かなり効果的に抑えられたようで、その結果が、4月中頃に現れてきたと考えられます。その後、全国での緊急事態宣言が出されたことも、他府県からの人の移動などを抑えることに一定の効果があったかもしれません。

図1・図2

図1:日本全国でのコロナウィルス感染者数(5月28日現在)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/
図2: 京都府における新型コロナウィルス感染者数(5月28日現在)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/

地域レベルでの民主主義の大切さ

例年なら大勢の観光客が訪れるはずの京都では、さらに4月末からのGWでのstay homeキャンペーンによる感染抑制の効果がかなり効いたようです。GW中に覗いた木屋町、先斗町界隈も、例年なら人でごった返していますが、今年は飲食店街もすべて閉店で、ほとんど人も歩いていない通りになっていました。写真2は連休最後の5月6日の四条大橋付近の鴨川の夕方です。例年は、5月から鴨川沿いのどの店も川床(ゆか)を始めて、賑やかな夜景が広がりますが、この日はまるでゴーストタウンの夜景でした。市内の観光名所である神社や寺院もすべて参詣・拝観の自粛を行っていました。写真3は5月10日(日)の清水寺全景の写真ですが、清水の舞台にも人影は全くありません。そして、このGWでのstay home効果により、約2週間後の5月15日前後から、京都では感染者ゼロの日々が達成されました。初夏を告げる鴨川の鮎放流がおこなわれ、カワウ除けのロープも四条大橋付近に張られました(写真4)。鴨川沿いの床で飲食を楽しむ人たちも少しづつ増え、京都の町は、ようやく季節を取り戻したかのようです。

いっぽうで、Stay homeおよび休業の要請は、非常に多くの商店や事業者の収入を大きく減少させています。休業の要請は、休業補償とセットで実施されるべきですが、この問題についての政府の対応は遅く、むしろ、多くの地方自治体からの強い要請で細々と開始されつつあるのが現状です。それでも、自粛ベースのstay homeや休業要請がかなり効果的に実施できたのは、京都府・京都市などの自治体と市民の間の信頼関係にもとづく問題の共有があったからではなかったでしょうか。医療機関の崩壊を防ぐために、市内のホテルが積極的に協力したことなども、効果的でした。東京都や大阪府などでも同様の効果が見られています。ヨーロッパの一部の国々では罰則も伴う緊急事態の法的措置によるロックダウンを行いましたが、それでも医療崩壊が起り、爆発的な感染者・死者の増加が起こってしまいました。日本が少なくとも現時点で感染拡大をかなり抑制できているのは、そのような法律の制定よりもまず、地域レベルでの民主主義的施策と行動こそが重要であることを強く示唆しています。

  • 写真1

    写真1:賀茂川沿いの満開の桜(4月3日).(左)下鴨出雲路橋付近(左岸)(右)下鴨葵橋付近(右岸)

  • 写真2

    写真2:四条大橋付近の鴨川の風景(5月6日夕方).大橋南西角の中華料理店東華菜館ビルの灯も消えている。

  • 写真3

    写真3:東山阿弥陀が峰から撮影した清水寺全景(5月10日)。観光客に人気の舞台にも全く人影が見られない。

  • 写真4

    写真4:鴨川の風景(5月21日.四条大橋方面を松原橋から撮影).鮎をねらうカワウ除けのロープが張られている。

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