【安成通信】 新たな日常性を求めて ‐コロナウィルス危機の中

2020年4月9日

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症によるパンデミックに陥った世界。この危機を乗り越えることが喫緊の課題ですが、今回の危機を未来可能な都市や社会への転換にどう生かせるか、私たち人類の叡智と想像力が試されています。

COVID-19の憂鬱な春

新年度の春を迎え、地球研の周りも桜が満開で、玄関付近の斜面にはコバノミツバツツジの赤紫の花も同時に咲き、北山一帯には山桜があちこちに咲く山笑う美しい季節となっています。

世界は、しかし、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大のため、遂にパンデミック(世界での大流行)を引き起こしています。国内でも東京など大都会を中心に、日に日に増加しています。国内全体で4月5日現在、感染者数が約4000人、死者は93人ですが、さらに増え続け、急激な増加(overshoot)が懸念される大変心配な状況です。京都でも欧州の卒業旅行から戻った学生達からクラスターとよばれる感染者集団が発生し、今日現在、京都市内での感染者が76名(京都府内では125名)になってしまいました。

都市では、様々なかたちで人が集まり、経済、商業、教育、行政、公共交通、医療、地域サービスなどの活動を、粛々とbusiness as usual (平常どおり)に進めることで、都市として機能し、ひいては現代の社会あるいは文明といわれるものが成り立ってきたといえます。それが、今回のCOVID-19の拡大のために、これらの集団的に効率よく行われてきた都市の機能は大幅に低下しつつあります。特に、経済、商業活動の低下は、(生きる糧を得るための)市民の生活に大きくひびくため、社会的な不安が増大しています

スペイン風邪から100年

ウィルス感染による最大規模のパンデミックとしては、ほぼ100年前(1918~1920年)に、いわゆる「スペイン風邪(Spanish flu)」がありました。世界での感染者は5億人(当時の世界人口は推定で18~20億人)、推定死者数は1700万人から1億人ともいわれています。日本国内でも当時の人口5500万人に対し約2300万人が感染し、40万人前後の死者がでました。このパンデミックは、ヨーロッパを中心とする第一次世界大戦(1914~1918年)の最中、アメリカ合衆国で広がり、米軍のヨーロッパへの参戦のきっかけに、ヨーロッパに拡大したとされています。戦時中であり、参戦国内では情報統制が強かったため、中立国であったスペインでの感染状況がよく知られたため、この名前が付けられています(注1)。戦争による戦死者が1500万人であったのに対しても、この感染による死者がはるかに多かったわけです。(戦死者数の中には、戦闘中の死者よりもこのウィルス感染によって亡くなった戦闘員が含まれているともいわれています。)

COVID-19とグローバリゼーションの功罪

今回のCOVID-19 による感染は、現時点で、世界の感染者数が100万を超え、死者も5万人を超えています。飛行機を中心とする交通網のグローバル化は、世界全体での感染を、ほぼ同時的に進める結果になっています。同時に、インターネットの普及で、感染の実態は、リアルタイムに世界中でモニターされ、情報が流れていることも、人類にとって、初めての体験であるといえます。このグローバル化された情報化社会により、感染を抑えるためのより確実な対策・対処の情報が各国で可能になっていることは非常に重要です。今回のケースは、このようなグローバルな情報交換と相互協力の効果もあり、今のところ、100年前のスペイン風邪の実態に比べると、はるかに「ましな」状況に抑えられているともいえます。

ただ、情報化を含め、高度に発達し、複雑化した都市を中心とした現代の社会は、ウィルス感染という、生物学的、物理学的なプロセスには、非常に脆いことも露呈されています。ワクチンなどがまだ開発されていない今の段階では、「お互いに移さない、移されない」ように、単純な隔離と分散を行う対策しかありませんが、100年前の都市よりもはるかに感染が拡がりやすい状況にもなりえます。多くの自治体や大都市の首長からは、毎日のように、不要不急の外出を控え、”Stay home!” を促す強いメッセージが出されています。

このような対策が、私たちの「文明化された」社会では、如何に様々な障害と機能不全を容易に引き起こすかを、私たちは同時に体験し始めています。インターネットの普及のおかげで、テレワークの高度化などが、今回をキッカケに急速に進むことが期待されますが、一方で、毎日顔を合わせて学び合う学校の存在も、いかに子供たちの成長にとって重要であるかも再認識させています。

新たな日常性を求めて-COVID-19を克服する智と想像力を

今回の問題をきっかけに、「地球温暖化」などの地球環境問題は、後回しだ、棚上げだという声も一部の人から出ているようですが、そうではないと私は考えます。むしろ、現在の文明の構造こそが、「地球温暖化」の原因でもあり、同時にウィルス感染への高い脆弱性にもなっています。人が集まる巨大都市ほど、CO2の排出量は多いだけでなく、今回のウィルス感染者数も非常に多くなっています。実現が非常に困難とされている「脱炭素」社会の可能性も、同時に考えるいい機会だと思います。たとえば今、人の移動の大幅な抑制のために、大量のCO2を排出する大型旅客飛行機の大部分がストップしていますが、「地球温暖化」対策としての効果が期待されながら、実行が困難であったことが期せずしてできてしまっています。ウィルス問題が終焉した時、再びクレイジーなほど頻繁で過密になっている航空網に戻すのではなく、そこそこの航空網でも「やっていける」社会の可能性を考える契機にもすべきだと思います。自然環境への負荷が小さく、同時にウィルス感染などにも強靭な社会こそ、より持続可能(あるいは未来可能)な社会のはずです。ウィルスや病原菌の感染には、生態系への人類の干渉そのものが密接に関係しており、今回の問題は、広い意味で地球環境問題として捉えるべき側面もあります。

目の前の差し迫った危機を乗り越えることは、もちろん喫緊の課題です。しかし、元の日常にただ戻すだけではなく、今回の危機を、より根本的に、より長期的視野で未来可能な都市や社会への転換にどう生かせるかを、同時に考えていくべきです。私たち人類の叡智と想像力が試されています

<人類の危機を見守る桜かな 哲風>

(注1)出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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