沖縄トラフの伸張・沈降の時期は200万年前以降
~久米島沖の海丘斜面の堆積岩の年代測定から解明~

2021年11月4日

概要

琉球列島の北西の海底に長さ約1000キロメートルにわたって延びる沖縄トラフ(沖縄舟状海盆)は、鉱物資源が豊富と考えられる海底熱水活動域が多数見つかり、注目を集めています。トラフの形成は世界自然遺産の登録で注目される琉球列島の成り立ちとも密接な関係があり、大陸側の地殻が伸張・沈降(リフティング)して形成されたと考えられていますが、海底から得られる直接的な証拠は限られていました。

そうした中、琉球大学や総合地球環境学研究所を中心とした研究チームは、久米島の北~北西沖の海丘の斜面から採取した多数の岩石を分析し、久米島に露出する堆積岩と類似していることを明らかにしました。

このことから、それらの岩石が約400~200万年前(鮮新世前期~更新世前期)にこの海丘に堆積し、久米島にみられる大規模な大陸河川起源の地層が当時沖縄トラフ側まで広く分布していたことが明らかになりました。また、久米島沖の海丘が沖縄トラフの第二伸張期(鮮新世後期~更新世前期)に正断層(断層面の上に乗っている上盤が断層面に沿って滑り落ちている断層)によって、ブロック状に分断された地層の残存である可能性も示唆されました。

本研究成果は、琉球大学理学部卒業の喜久永りと子氏、琉球大学大学院理工学研究科の宋 科翰氏、秋田大学大学院国際資源学研究科の千代延俊准教授、琉球大学理学部の藤田和彦教授、総合地球環境学研究所ならびに琉球大学理学部の新城竜一教授、東京大学大気海洋研究所の沖野郷子教授から成る研究チームの研究成果で、2021年9月10日付けで「Island Arc誌」にオンライン掲載されました。

研究の背景と課題

沖縄トラフは琉球列島の北西に長さ約1000キロメートルにわたって延びる細長い海底の凹地です。最も深い海底は水深2000メートルに達します。海盆内では海底熱水活動域が多数発見されており、海底鉱物資源の観点からも注目されています。

沖縄トラフは、大陸プレート(ユーラシアプレート)の下へ海洋プレート(フィリピン海プレート)が沈み込むことに伴い、大陸側の地殻が伸張・沈降(リフティング)して形成されました(図1)。リフティングは大きく3つの時期に起こり、特に大規模なリフティングは第二リフティング期に起きたとされてきましたが、海底からの直接的な証拠は限られていました。

図1 琉球孤の地学的特徴と島尻層群堆積以降の沖縄トラフ形成モデル(新城, 2014)

図1 琉球孤の地学的特徴と島尻層群堆積以降の沖縄トラフ形成モデル(新城, 2014)

研究の内容

そこで研究チームは学術研究船新青丸の第KS-17-14航海(2017年11月実施)において、久米島の北~北西沖に分布する2つの海丘(第二鳥島海丘、西鳥島海丘)の斜面(水深約1000メートル)で海底の岩石を採取するためドレッジ(底曳き)を実施した結果、多数の岩石を採取することに成功しました(図2)。

採取された岩石の種類を調べた結果、久米島の陸上に露出する堆積岩(泥岩、砂岩、凝灰岩)と非常に類似することが分かりました(図3)。また、堆積岩に含まれる微化石である石灰質ナンノ化石※1による年代決定や貝化石のストロンチウム同位体による年代測定※2を行った結果、微化石年代とストロンチウム同位体年代ともに海底の堆積岩は久米島の堆積岩と同じ約400~200万年前(鮮新世前期~更新世前期)に堆積したことがわかりました。このことは、久米島の有名な観光名所“阿嘉のひげ水“で観察されるような大規模な大陸河川起源の地層が、当時久米島から沖縄トラフ側にかけて広く分布していたことを示しています。

また、地球物理学的調査により、海丘が分布する海域は、沖縄トラフの第二リフティング期に正断層によってブロック状に沈降したと推定されてきましたが、本研究により海丘の斜面には第二リフティング期と同時期かそれ以前に堆積した岩石が分布することが明らかになりました。このことは、これらの海丘がブロック状に分断された地層からなる残存地塊である可能性を示唆しています。

図2 久米島北~北西域の海底地形図と調査した2つの海丘(白丸印)

図2 久米島北~北西域の海底地形図と調査した2つの海丘(白丸印)

図3 第二鳥島海丘と西鳥島海丘の斜面から採取された堆積岩(A~E)と貝化石(F~H)

図3 第二鳥島海丘と西鳥島海丘の斜面から採取された堆積岩
(A~E)と貝化石(F~H)

今後の展望

以上のように、本研究は、沖縄トラフのリフティングの時期や様式に直接の証拠を与えることができました。沖縄トラフの地殻変動は、貴重な鉱物資源の形成場として注目される海底熱水鉱床の分布や活動と密接な関係があります。また、沖縄トラフの形成は世界自然遺産の登録で注目される琉球列島の成り立ちとも密接な関係があり、陸域の古地理分布や古生物の移動時期や経路の復元に重要な制約を与えます。研究チームは、今後も沖縄トラフの形成史や地下の熱水・マグマ活動について調べていくとともに、沖縄トラフを含めた琉球弧の形成史について調べていく予定です。

論文情報

Kikunaga, R., Song, K., Chiyonobu, S., Fujita, K., Shinjo, R., & Okino, K. (2021) Shimajiri Group equivalent sedimentary rocks dredged from sea knolls off Kume Island, central Ryukyus: Implications for timing and mode of rifting of the middle Okinawa Trough back-arc basin. Island Arc, 30(1), e12425. https://doi.org/10.1111/iar.12425

用語説明

※1 石灰質ナンノ化石
円石藻という植物プランクトンが造るコッコリスと呼ばれる微小な石灰質の小盤が化石化したもの。地質時代によってコッコリスの形態やサイズが進化することを利用して、ジュラ紀以降の地層の年代を特定することができる。

※2 ストロンチウム同位体年代測定法
海水に含まれるストロンチウム(Sr)の同位体比(87Sr/86Sr)が地質時代を通じて変動することを利用して、海水のSr同位体組成と等しい石灰質(炭酸塩)の化石のSr同位体組成を測定し、既知の海水Sr同位体変動曲線と比較することで、化石の年代を決定する方法。

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