森の下草には土砂流出率を97%減少する
減災効果(Eco-DRR効果)があることを発見しました!

2021年8月31日
図1 森の下草の植被率と単位面積当たりの土砂生産量の回帰分析結果に基づくグラフ

図1 森の下草の植被率と単位面積当たりの土砂生産量の回帰分析結果に基づくグラフ

森の下草が土砂流出リスクを減らすことは定性的には良く知られています。しかし、どの程度減災する効果があるかについては、定量的にはほとんど知られていませんでした。

そこで、私たちが琵琶湖流域の森林における土砂流出を調査研究したところ、下草に60%以上覆われている場所は、30%未満しか覆われていない場所と比較して、単位面積あたりの年間土砂流出率が97%減少する効果を見い出しました(図1)。さらに、その減少効果は72時間の総雨量が400mmを超えるような豪雨でも有効である可能性を示しました。

実際の測定結果(Evidence Data)に基づいて具体的な数値を示して、生態系を活用した防災・減災効果(Eco-DRR効果)を知ることは世界的にも大変重要です。そのため、この研究成果はNature Springer社のオンライン総合学術誌であるScientific Reportsに掲載されました。

ポイント

写真1 琵琶湖流域の森林斜面からの土砂流出の様子(東近江市茨川村跡地)(撮影:琵琶湖環境科学研究センター 水野敏明)

写真1 琵琶湖流域の森林斜面からの土砂流出の様子(東近江市茨川村跡地)(撮影:琵琶湖環境科学研究センター 水野敏明)

図2 森林の下草植生と土砂流出の関係のイメージ図

図2 森林の下草植生と土砂流出の関係のイメージ図

  • 現代の日本各地では「間伐不足」や「シカの増加」などで森の「木」はあるけれど「下草」が減っている森が増えているため、豪雨に伴う土砂流出リスクの問題が顕在化してきています(写真1、図2)。本研究は、土砂流出量の定量データからそれら土砂流出リスクを評価しました。
  • 渓畔林、河畔林、里山における地域の人々による伝統的な森林管理である柴刈や草刈などの適度な繁茂を促す下草管理は、土砂流出リスクを減少させる効果もあることが示唆されました。
  • 生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based disaster risk reduction)とは、災害時には生態系が持っている機能を活用して防災や減災を行いつつ、平常時には生物多様性保全や持続可能な資源供給など自然の恵みを活用するという、グリーンインフラと類似した考え方で、気候変動問題への適応策として国際的に有望視されている方法論の1つです。本研究では、Eco-DRR効果として、森の下草が土砂流出を抑える効果について着目し、植生被覆量と土砂流出量の関係性を定量的に評価しました。
  • 本研究成果は、森林域の土砂流出量を評価しているため、例えばイワナやアユのような河川の土砂環境に感受性の高い在来魚の環境改善に役立つ情報になるものと考えられます。

研究体制と支援

研究プログラム

  • 本研究のフィールド調査は、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター政策課題研究2「在来魚保全に向けた水系のつながり再生に向けた研究」として実施されました。
  • 本研究のEco-DRRとしての解析は、総合地球環境学研究所「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装(Project No.14200103 研究代表:吉田丈人 総合地球環境学研究所・東京大学 准教授)」における「滋賀グループ(代表:深町加津枝 京都大学 准教授)」の「氾濫原チーム(代表:瀧健太郎 滋賀県立大学 准教授)」の研究として実施されました。
  • 本研究の総合解析に必要な滋賀県のデータは、滋賀県琵琶湖環境研究推進機構(事務局:環境政策課)の『「在来魚介類のにぎわい復活に向けた研究」サブテーマ2:流域環境研究』として、耕地課など県の部局の枠組みを超えた連携協力による研究支援を得て研究を完遂することができました。
  • 研究に御協力いただいた機関

  • 本研究では、比叡山延暦寺様および大篠原生産森林組合様の御協力のもと、貴重な比叡山のヒノキ林の林床および鏡山近傍の森林で調査を実施させていただきました。

発表論文

論文タイトル:

The risk reduction effect of sediment production rate by understory coverage rate in granite area mountain forest

著者名:

水野敏明(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター・総合地球環境学研究所)
小島永裕(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)
淺野悟史(京都大学大学院地球環境学堂)

掲載誌名:

Scientific Reports volume 11, Article number: 14415 (2021)

doi: 10.1038/s41598-021-93906-1

問い合わせ先

滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
 総合解析部門 水野、管理部 白川
 電 話:077-526-4800(代表)
 E-mail: e-mail

総合地球環境学研究所 広報室
 准教授 岡田 小枝子
 電話:075-707-2450/070-2179-2130
 E-mail: e-mail

京都大学大学院地球環境学堂
 助教 淺野悟史
 電話:075-753-6367
 E-mail: e-mail

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