概要
気候変動は年を追うごとに進行しており、大量の炭素を蓄積している熱帯林を保護するため、豊かな国がそれら熱帯林の保護に関与を求める声が高まっています。そうした中、総合地球環境学研究所(以下、地球研)の金本圭一朗准教授とグエン・ティエン・ホアン上級研究員の研究グループは、2001年から2015年までの森林減少のマップ、森林伐採の要因マップ、サプライチェーンのビッグデータの分析から、カナダを除くG7各国は、自国での森林面積を増加させる一方で、輸入を通じてその増加分以上の森林をブラジルや東南アジア諸国などで減少させていることを明らかにしました。日本については、日本の消費者は、2015年の1年間で一人あたり平均2.22本の国内外の森林伐採を引き起こしており、そのうち2.07本は日本国外分であることがわかりました。
今回の研究成果は、先進国は自国での森林面積を増加させるだけでなく、サプライチェーンを通じた国外での森林伐採の減少に取り組む必要性があることを示しています。
本研究成果は、英国(ロンドン)時間2021年3月29日16:00(日本時間3月30日午前1時)にNature誌姉妹誌のNature Ecology & Evolution誌に掲載されました。
背景
毎年、気候変動に関連すると思われる自然災害のニュースが度々報道されています。世界各地での気温の上昇や海面上昇は着実に進行しつつあります。私たちの生活やライフスタイルにも劇的な変化が起こっていますが、私たちにできる地球環境への影響を減らす行動は、消費行動の変化を通じてサプライチェーンでの環境フットプリントを減らすことです。この問題を解決する取り組みのひとつとして、消費を通じて国内外での森林伐採の面積を減らすことがあげられます。
森林は地球の陸地のほぼ3分の1を覆っています。さらに、熱帯林は、すべての陸地に生息する生物種の半分から90%が生息地すると推測されるとともに、森林伐採で森林から追われた野生生物と人との接触が増え、近年見られる感染症の原因となるとも考えられる幾多の病原体の温床でもあります。このように、人間だけでなく生態系が健全であるためにも重要であるにもかかわらず、熱帯林は、林業、農業やその他製造業のために驚くべき速度で伐採が進んでいます。
この問題について、先進国による製品の消費と森林伐採との関係はこれまでに明らかになっていましたが、製品の消費やサプライチェーンに関連する森林伐採がどのような分布になっているのかはわかっていませんでした。
研究の方法
そうした中、地球研の研究チームは、貿易と森林伐採がどのように結びついているのかを理解するため、森林喪失の高解像度データ、森林喪失要因(森林が伐採された後、どのような用途に土地がりようされたのか)の空間分類、および詳細なグローバルサプライチェーンモデルに関するビッグデータを使用して、2001年から2015年までの森林伐採のフットプリント(森林伐採から国内外でのサプライチェーンを通じてどの国の消費者に辿り着くのかという過程)のマップを作成しました。また、農地転換の中でもどのような農作物が森林伐採を引き起こした可能性が高いのか明らかにするために、農作物面積のマップと用いました。また、深層学習を用いて森林とアブラヤシやゴムの木を区別しました。分析したマップから、農作物や木材などの製品に対する消費者の需要を通じてどの国がどこで森林伐採を引き起こしている可能性が高いのかを特定することも可能になりました。
研究の成果
サプライチェーンやマップを分析した結果、日本や他の先進国は木材や農作物の輸入を通じて世界各国で森林減少を引き起こしていることがわかりました。たとえば、中国は東アジアで木材の大規模な森林伐採を引き起こしていますが、日本の森林伐採フットプリントは東南アジアやアフリカで大きく、それはパーム油、コーヒー、綿、ゴマなどの農産物への需要等によるものでした。やはりアフリカにおいて大きいドイツの森林伐採フットプリントはココアの需要等によるものでした。米国の森林伐採フットプリントは最も際立っており、カンボジアの木材、リベリアのゴム、グアテマラの果物とナッツ、ブラジルの大豆と牛肉などによるものでした。このように、主要経済国が消費する商品が森林伐採にそれぞれ異なる地理的影響を与えることがわかりました。
また、カナダを除くG7各国は、国内で森林は増加している一方で、その増加を上回る面積を輸入を通じて他国で森林減少させてきたことも明らかになりました。G7諸国のうち日本を含めた5か国が消費を通じて引き起こした森林伐採の90%以上が国外であり、熱帯林にも大きな影響を及ぼしていました(図1参照)。
研究チームはさらに、ある国の居住者1人あたりが年間で伐採させた木の本数を推定し、G7諸国の国民一人当たりの森林伐採フットプリントの本数は平均約4本であったのに対し、中国とインドの国民は約1本であったと分析しました(図1参照)。ただし、一部の木の消費は、他の木の消費よりも生物学的影響が大きい場合があります。樹木の種類が異なれば、環境的および生態学的な役割も異なり、たとえば、アマゾンの3本の木の環境への影響は、ノルウェーの北方林にある14本の木の影響よりも深刻である可能性があると研究チームは考察しています。
日本については、輸入を通じた日本国外の森林伐採面積が日本国内での森林面積増加を上回っていることが明らかになりました(図2)。また、例えばブラジルからの大豆、インドネシアからのパーム油、タンザニアからの綿やゴマ、パプアニューギニアやラオスからのコーヒー豆などの輸入が森林伐採を誘発している可能性が高いこと、日本については、日本の消費者は、たとえば2015年の1年間で一人あたり平均2.22本の国内外の森林伐採を引き起こしており、そのうち2.07本は海外分であることがわかりました(図1)。

図1: 各国の消費者1人あたりが年間で伐採させた木の本数

図2: 日本の消費による世界各国での森林伐採の地図
まとめと今後の展望
サプライチェーンでの森林伐採を防止する取り組みは、森林に関する情報開示要請プログラムであるCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)フォレストや国際NGO森林管理協議会(FSC)の認証制度などを通じて進んできましたが、十分に成果を上げてきていません。
今回、森林伐採の空間情報をサプライチェーン分析と組み合わせることで、世界で初めて森林伐採フットプリントを地図化し、多くの先進国は、自国での森林面積を増加させるだけでなく、サプライチェーンを通じた国外での森林伐採の減少にどこで取り組む必要があることがわかりました。
本研究の成果を利用すれば、企業がサプライチェーンでの森林伐採を減少させる際に、どこでの森林伐採に着目して対策を実施すればよいのかの助けとなります。また、消費者は、どの国でのどのような商品の生産が森林伐採を伴って生産しているのかを理解した上で購入することができ、また、森林伐採を伴って生産された製品の購入を回避できることになります。ただし、これには企業が製品にラベルを付与するなどの協力が必要となります。
研究チームの地球研の金本准教授は「多くの森林は貧しい国にありますが、それらの国々は経済的な理由から森林を伐採したいと志向しています。私たちの研究結果は、豊かな国々が商品の消費を通じて森林伐採を引き起こしていることを示しました。森林保全を目指すために、単に伐採を禁止しても途上国での住民が生活のために違法な伐採が起こります。FSC認証の木材を使う、森林伐採を伴っていない農作物の意識的な消費、森林から受けている直接的ではないサービスのための費用の支払いなどが必要です。私たちの研究結果が政策立案に役立つことを願っています」と語っています。
発表論文・発表雑誌
雑誌名: Nature Ecology & Evolution
掲載日: 英国(ロンドン)時間2021年3月29日午後4時(日本時間2021年3月30日午前1時)
論文タイトル: Mapping the deforestation footprint of nations reveals growing threat to tropical forests
著者: Nguyen Tien Hoang, Keiichiro Kanemoto
DOI: 10.1038/s41559-021-01417-z
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謝辞
本研究は、人間文化研究機構総合地球環境学研究所のプロジェクト (No. 14200135)、科学研究費助成事業 基盤研究 (B) 18KT0004、内閣府ムーンショット型農林水産研究開発事業(管理法人:生研支援センター)MS509の委託を受けて実施されました。
問い合わせ先
総合地球環境学研究所 広報室 岡田 小枝子(おかだ さえこ)
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