あなたの都道府県の暮らしは地球何個分?
~地域別エコロジカル・フットプリントと都市化や高齢化との関係を解明~

2021年3月3日

人間活動が地球環境に与える影響を面積で換算する指標、エコロジカル・フットプリント※1。総合地球環境学研究所は、Global Footprint Network、WWF ジャパン、東京大学と協力して、私達の暮らしが地球環境に与える影響をはかるこのエコロジカル・フットプリントの都道府県ごとの違いを解明しました。

さらに、この都道府県ごとの数値を活用して、都市化や高齢化がより進んでいる都道府県でエコロジカル・フットプリントが高くなるという関係性を明らかにし、消費カテゴリーのうち「食」で、この関係性が顕著にみられることを示しました。

以上のことから、私たち人類が地球1個分の範囲内で持続可能な暮らしを実現していくためには、分散型の居住と経済、ローカルな食、脱炭素型エネルギー源への転換が重要であることが明らかになりました。

また、本研究によって、自治体に提供可能であり、政策立案のために活用してもらえるエコロジカル・フットプリントの詳細データが揃いました。

背景

エコロジカル・フットプリントは、地球の環境容量(バイオキャパシティ)との比較で「地球何個分か」を示すという直感的に理解しやすい方法であるため、世界各地の環境政策に活用されています。

エコロジカル・フットプリントの開発と普及に取り組む国際NGOであるGlobal Footprint Networkが算定した結果(図1)から考えると、もし世界中の人々が日本の2014年時点の生活レベルと同じレベルの生活を送る場合、地球は2.8個必要になります。

図1 Global Footprint Networkによる日本のエコロジカル・フットプリントの変遷

図1 Global Footprint Networkによる日本のエコロジカル・フットプリントの変遷
1960年から2014年の土地利用別エコロジカル・フットプリント。詳細は下記ウェブサイトを参照のこと:
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20190726sustinable01.pdf

これまでは、利用できるデータの制約から、エコロジカル・フットプリントの利用にはいくつかの課題がありました。一般にエコロジカル・フットプリントは国単位で土地利用別に算出されるため、私達の日常生活と結びつけて考えにくいという難点があります。また、日本は世界に先駆けて都市化※2高齢化※3が進んでいる国ですが、都市化と高齢化がエコロジカル・フットプリントに与える影響は十分に解明されていませんでした。

研究の目的

そこで今回、総合地球環境学研究所などの研究グループは、エコロジカル・フットプリントを私達の日常生活により近い自治体レベルでの政策立案での活用可能な形とすることを目標に、都道府県別に詳細化され、食・住居・交通といった消費カテゴリー別に翻訳されたエコロジカル・フットプリントを明らかにすることとしました。

あわせて、エコロジカル・フットプリントの削減に効果的な政策立案に役立たせることを目指し、都道府県別・消費カテゴリー別のエコロジカル・フットプリントにみられる差異が、都市化や高齢化とどのような関係にあるのかを明らかにすることにしました。

研究の方法

すでにいくつかの研究で日本の都道府県別のエコロジカル・フットプリントが算定されていますが、本研究では、国際的に標準化された手法を用いて研究結果を海外の数値と比較可能にし、最近の資料に基づく最新の数値(2014年)を使い、食をはじめとする消費カテゴリー別の詳細な分析を行うなど、これまでの研究にない手法を試みることとしました。

具体的には、都道府県別エコロジカル・フットプリントの算出と、都市化をはじめとする都道府県の特徴とエコロジカル・フットプリントとの関係の分析の2種類の研究を行いました。

都道府県別エコロジカル・フットプリント(図2)は、日本の国レベル・土地利用別の数値をもとにして算出し、環境拡張型多地域間産業連関モデル※4スケーリング手法によって構成されています。

都市化をはじめとする都道府県の特徴とエコロジカル・フットプリントとの関係は、全体および消費カテゴリー別(食・住居・交通)の1人あたりのエコロジカル・フットプリントに都市化率・高齢化率・平均収入が与える影響を一般化線形混合モデル※6を用いて分析しています。

図2 都道府県別エコロジカル・フットプリントを算出するための手順(簡略版)

図2 都道府県別エコロジカル・フットプリントを算出するための手順(簡略版)

研究の成果

まず、都道府県別エコロジカル・フットプリントの算出から、日本全体のエコロジカル・フットプリントのうち68%を家計部門が占め、さらに、家計部門全体を100%とした場合に、食、住居、交通の3カテゴリー合わせて75%を占めていることがわかりました。このことから、日本のエコロジカル・フットプリント削減のためには、この3つのカテゴリーでの削減策を考えることが重要であると考えられました。

さらに、1人あたりのエコロジカル・フットプリントの値は東京都が最も高く、5.24グローバル・ヘクタールである一方で、山梨県は4.06グローバル・ヘクタールと最も低いことがわかりました(図3)。これは、東京都の暮らしは山梨県の暮らしよりも29%環境への負荷が大きいことを意味し、都道府県ごとにエコロジカル・フットプリントの値には大きな違いがあることが明らかになりました。

Global Footprint Networkは現在の地球が支えられるバイオキャパシティを1人あたり1.68グローバル・ヘクタールとしています。そのため、世界中の人々が山梨県と同じ暮らしをすれば、地球は2.4個分(4.06÷1.68)必要になります。東京都の暮らしではさらに多くの面積が必要となり、地球3.1個分(5.24÷1.68)となります。

また、同じ数値を消費カテゴリー別にみると、たとえば「食」カテゴリーの負荷が最も大きいのはやはり東京都ですが、最も低いのは山梨県ではなく沖縄県と、消費カテゴリー別の特徴も都道府県ごとに異なることがわかりました。

図3 都道府県別エコロジカル・フットプリントの算出の結果

図3 都道府県別エコロジカル・フットプリントの算出の結果
エコロジカル・フットプリント全体の値と、主な構成要素である食・住居・交通カテゴリーの2014年の値(単位は全て1人あたりグローバル・ヘクタール)。

次に、都市化をはじめとする都道府県の特徴とエコロジカル・フットプリントとの関係を分析した結果(図4)、全体および食カテゴリーの1人あたりエコロジカル・フットプリントについては、都市化率・高齢化率・平均収入が高いほど、エコロジカル・フットプリントが高くなる傾向がみられました。食カテゴリーの大部分を魚・穀物・野菜の加工食品が占めることも踏まえると、分散型の居住と経済やローカルな食の推進がエコロジカル・フットプリント削減のために重要だと考えられます。

図4 都市化および高齢化と都道府県別エコロジカル・フットプリントの関係

図4 都市化および高齢化と都道府県別エコロジカル・フットプリントの関係
本論文の結果をもとに作成。棒グラフは都市化や高齢化がエコロジカル・フットプリントに与える影響の大きさを、エラーバーは95%信頼区間を示す。エコロジカル・フットプリントの単位は1人あたりグローバル・ヘクタール。

一方、住居および交通カテゴリーについては、こうした都市化率などとの関係性は確認されませんでした。住居および交通カテゴリーでは、土地利用別ではカーボン・フットプリント(エコロジカル・フットプリントの算定においては温室効果ガス吸収に必要な森林面積として換算)がほとんどを占めることから、発電方法などによって決まるエネルギー効率(単位エネルギーあたりの二酸化炭素排出量)の大小にその数値が強く影響されます。そのため、住居および交通カテゴリーのエコロジカル・フットプリント削減のためには、脱炭素型エネルギー源への転換が必要になると考えられました。

まとめと今後の展望

総合地球環境学研究所のFEASTプロジェクトは、持続可能な地球社会の基盤を支える食と農の新たなあり方を展開することを目指した研究に取り組んできました。本研究から、食のエコロジカル・フットプリントが都道府県によって大きく異なり、そうした差異が都市化や高齢化と関係していることが明らかになったことにより、分散型の居住と経済やローカルな食といったFEASTプロジェクトが推進し実践してきた活動の重要性が確かめられました。

今回整理した都道府県別のエコロジカル・フットプリントは、気候変動に関するパリ協定、生物多様性のポスト2020年目標、SDGs、国内における2050年の脱炭素化目標といった世界・国レベルの目標を、自治体の環境施策において具体的に展開する際のベンチマークとしての役割が期待できます。このことは、総合地球環境学研究所が推進する超学際的(Transdisciplinary)研究の発展にとっても重要ですが、自治体における政策立案のためにエコロジカル・フットプリントの詳細データを提供するという社会貢献にもつながります。

本研究の論文の筆頭著者であり、総合地球環境学研究所共同研究員かつ東京大学大学院農学生命科学研究科の土屋一彬助教は「食生活が生態系に与える負荷も地球環境問題のひとつですが、エネルギーや脱炭素の話題ほどには注目されていません。都道府県別のエコロジカル・フットプリントが、より広い意味での地球環境問題を議論するきっかけになれば嬉しいです」と語っています。

用語解説

  • ※1 エコロジカル・フットプリント
    「生態系を踏みつけている足跡」の意味で、世界や国などの経済活動を保つために必要な土地面積で表現される。土地面積は耕作地・牧草地・森林地・漁場・生産阻害地・カーボン・フットプリントの6区分からなり、グローバル・ヘクタール(global ha)という独自の世界共通の面積単位を用いて計算する。
  • ※2 都市化
    本論文では、都市人口(人口集中地区人口)が総人口に占める割合を意味する。
  • ※3 高齢化
    本論文では、65歳以上人口が総人口に占める割合を意味する。
  • ※4 環境拡張型多地域間産業連関モデル
    地域の間でのモノやサービスのやりとりを金銭単位で表現した地域間産業連関表を、環境負荷量の情報(エコロジカル・フットプリントなど)と組み合わせて拡張することで、消費活動の環境負荷を中間投入(肉類の生産のための飼料など)も含めて推計する手法。
  • ※5 スケーリング手法
    国など大きな地理的単位で得られた数値をもとに都道府県などの詳細な数値を推定する手法。
  • ※6 一般化線形混合モデル
    注目している数値(応答変数)と関連しうる要因(説明変数)の関係を、他の要因(混合効果)の影響も加味して上で推定する手法。本論文では混合効果に地方区分を用いている。

論文情報

  • 掲載誌名:
  • Journal of Cleaner Production

  • オンライン/誌面掲載日:
  • 2021/1/19(オンライン)/ 2021/4/10予定(誌面)

  • 論文タイトル:
  • Decentralization & local food: Japan's regional Ecological Footprints indicate localized sustainability strategies (分散型社会とローカルフード:日本の地域エコロジカル・フットプリントに見る地域に根差した持続可能性戦略)

  • 著者名:
  • 土屋一彬 (東京大学/総合地球環境学研究所FEASTプロジェクト)、 伊波克典 (Global Footprint Network/FEASTプロジェクト)、 Adeline Murthy (Global Footprint Network) 、David Lin (Global Footprint Network)、Selen Altiok (Global Footprint Network)、Christoph D.D. Rupprecht (総合地球環境学研究所FEASTプロジェクト)、 清野比咲子 (WWF Japan)、 Steven R. McGreevy (総合地球環境学研究所FEASTプロジェクト)

  • DOI:
  • 10.1016/j.jclepro.2021.126043

問い合わせ先

総合地球環境学研究所 広報室 岡田 小枝子
TEL 075-707-2450 / 070-2179-2130(携帯)
E-mail: e-mail 

  

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