新型コロナウイルス感染症による水産物の売り上げは約3割減
~ウィズコロナの水産業再興はサプライチェーン改革がカギ~

令和2年7月22日

概要

水産物は私たち日本人の暮らしに欠かせない食料のひとつです。新型コロナウイルス感染症の拡大により私たちの生活様式が様々な面で大きな変化を余儀なくされる中、総合地球環境学研究所(地球研)の研究者らを中心とした研究グループは、漁業・養殖業従事者や水産関連事業者(水産加工・流通・小売・外食など)への個別アンケートを実施しました。

2020年5月29日から7月8日までの回答結果を取りまとめたところ、回答者は、前年同月に比べて約30%の売り上げ減を感じており、サプライチェーンに問題があると認識していることがわかりました。また回答者は、自主的な対応策として自主休漁やネット通販などに取り組んでおり、今後の日本水産業の目指すべき方向性として「持続可能な日本水産業の再考」や「コロナを機とした水産流通改革」などを考えていることが明らかになりました。

調査結果から、新しい生活様式に対応したサプライチェーンの構築が、日本水産業の再興につながる可能性が示唆されました。研究グループは、持続可能な水産業振興の観点から、今後も引き続き新型コロナウイルス感染症の影響について分析を続けていきます。

なお、本調査は、地球研、水産研究・教育機構、東京大学等に所属する全国の水産研究者・実務者有志により結成された「新型コロナウィルスの水産業・地域影響研究グループ」により実施されました。

背景

新型コロナウイルス感染症の拡大により、私たちの生活様式も変化せざるを得ない状況に陥っています。水産物は日本人の食生活に欠かせない資源であり、この感染症の拡大が水産業にもたらす影響は大きな問題です。その影響を調査することは、アフターコロナ、ウィズコロナの時代に水産業を維持していく施策等を考えるうえで不可欠だと言えます。

これまでにも公的機関や各種関連団体による漁業・養殖業従事者や水産関連事業者への影響調査が行われていますが、それらは組織や企業という団体を対象に行われており、よりよく実態を知るためには、それぞれの現場に立つ個々人の視点に立った調査を行う必要があると考えました。また、業種や団体で分断した調査ではなく、水産フードシステム全体を対象とした調査をすることで、現場の実態を横断的に把握することも重要であると考えました。

方法

上記の背景により、今回実施したアンケートは、水産業に関わる全国のあらゆる業種に関わる個人を対象に、オンラインで行い、プレスリリースやSNS、メーリングリストで周知拡大を図りました。調査は、約50の質問項目から成り、2020年5月29日から開始し、ある程度の回答数が得られたため7月8日までの回答を今回まとめて分析しましたが、現在も調査は続行中です。

結果

図1に示す通り、回答者は全国47県のうち33県から350人で、平均年齢は約47歳であり、漁業・養殖業従事者が31%で、残りの69%が流通・加工・小売・飲食などの水産関連事業者でした。

図1 回答者の属性(年齢・従事する職種・地域)

図1 回答者の属性(年齢・従事する職種・地域)

新型コロナウイルス感染症の拡大による変化については、漁業・養殖業従事者、水産関連事業者の多くが「悪くなった」と回答しており(図2)、前年同月と比較した販売金額の減収は約30%にのぼっていることが明らかになりました。

図2 新型コロナウイルス感染症の拡大による変化

図2 新型コロナウイルス感染症の拡大による変化

販売金額に影響した項目として、漁業・養殖業従事者は、魚価よりも「販路・販売数量の減少、鮮魚市などのイベント中止」の影響が強いと評価していました。水産関連事業者は、水揚げ量や輸入量よりも「魚価の変動、販売見通しが不透明になったこと、イベント中止」の影響が強いと評価していました(図3)。

図3 販売金額に影響を及ぼした要因

図3 販売金額に影響を及ぼした要因

漁業・養殖業従事者は、平常時、平均して約60%以上を卸売市場に出荷している販売状況にほとんど変化はないと回答する一方で、インターネットを利用した消費者への直接販売が増えている傾向を指摘していました(図4)。さらに詳しく回答をみると、コロナ以前から消費者への直接販売(オンライン・オフラインとも)を利用していた回答者では、「コロナによって漁業・水産業が悪くなった」と答える人が少ない傾向が認められました。

図4 コロナ前後の販路、販売量変化および直売利用者の影響比較

図4 コロナ前後の販路、販売量変化および直売利用者の影響比較

また、新型コロナウイルス感染症による騒動収束後の日本の漁業・水産業の望ましい方向性やあり方については、「持続可能な日本水産業の再考」や、「コロナを機とした水産流通改革」、「水産消費のあり方の再考」といった回答が多くみられました(図5)。

図5 日本の漁業・水産業の望ましい方向性やあり方(自由記述によるご意見の言葉のつながりを分析)

図5 日本の漁業・水産業の望ましい方向性やあり方
(自由記述によるご意見の言葉のつながりを分析)

まとめ

今回のアンケートによって、新型コロナウイルス感染症は、漁獲そのものより、流通・加工・販売などのサプライチェーンの目詰まりに大きな影響を及ぼしている可能性が示されました。供給が過剰にならないように自主的な休漁や、ネット販売などの対策を講じた漁業・養殖業従事者も見受けられましたが、影響はカバーしきれておらず、他方で多様な販路を持つことが影響緩和につながっていることが推察されました。また、水産関連事業者も、今回の感染症をきっかけとした流通改革を意識していることも明らかになりました。

以上のことから、水産物流通のパターンが特定のチャンネルに集中している状態は、漁業・養殖業従事者や水産関連事業者だけでなく、市民(消費者)にとっても持続可能とは言えず、新しい生活様式に対応した新しいサプライチェーンの構築の必要性が示唆されました。また、消費者にとっては、ネット販売や直売所の利用も有効であると考えられ、消費者、生産者をはじめ、その両者をつなぐ水産関連事業者も連携した日本水産業再興のための努力が重要であると考えられました。

なお、今回の調査は、漁業・養殖業従事者および水産関連事業者の主観的な評価の把握を目的として行いましたが、今後は、市場データなど客観的評価とあわせた検討を行う予定です。

アンケート結果アンケート結果

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