社会を変化させ、崩壊させるふたつの「しきい」
~「規模のしきい」と「情報処理のしきい」という内的要因が鍵を握る~

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)を収束させるために、今、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を取るためのさまざまな行動変容が進んでいます。このように、環境が社会のあり方を大きく変えることは、歴史上何度もありましたが、実は、疫病や災害のような明確な外的要因がなくても社会が崩壊することはあり得るということを、2019年度に地球研の招へい外国人研究員であった米国ワシントン州立大学ティム・コーラー教授の研究グループが、大規模データ解析によって明らかにしました。

『Nature Communications』誌に発表された論文によれば、完新世(1万1700年前から現在まで)を通じて、歴史上の諸社会が人口と領域を拡大するにつれ、取引と出来事を記録し管理するために、社会は文字に代表される情報を処理するための道具立てと行政の仕組みを発展させてきました。

しかし、社会の拡大は必然的だったのでしょうか。研究チームが世界史データベース「Seshat」を用いて、過去数千年における各大陸の何百もの政体(国家などの政治的実体)を多変量解析という統計手法を用いて調査したところ、社会と政治の発展は、第一義的には政体の規模、次いで情報処理と経済システムの発展、そして規模のさらなる拡大によって規定されることが明らかになりました。

その結果によれば、社会の拡大には、「規模のしきい」と「情報処理のしきい」という、2つのしきいがあります。「規模のしきい」を超えると、情報処理力の成長が顕著になり、「情報処理のしきい」をひとたび超えると社会の規模がさらに拡大します。「情報処理のしきい」を超えるまでは政体の社会政治的特徴は多様ですが、このしきいを超えるとどこも似通ってきます。

論文では、このような規模と情報処理という二段階のステップアップを、日本の古墳時代から飛鳥時代、律令国家の成立に向けた政体の発展を例に取って論じています。一方、アメリカ合衆国の中西部と南西部の先史社会を例に、社会発展の諸要因がバランスを欠くと、政体が不安定になることも指摘しています。これは、外部環境要因によらずとも社会が変化することを示唆する研究成果です。

論文情報

  • Scale and information-processing thresholds in Holocene social evolution
    (完新世の社会進化における規模と情報処理のしきいについて)
  • Jaeweon Shin, Michael Holton Price, David H. Wolpert, Hajime Shimao, Brendan Tracey & Timothy A. Kohler
  • Nature Communications 11:2394 (2020).
  • (解説:総合地球環境学研究所 近藤康久 准教授)
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