淡水・汽水・海水 どこでも魚に寄り添う生き物
「ウオノエ」の起源は深海だった

2017年4月19日
  1. 畑啓生(愛媛大学 准教授)
  2. 川西亮太(北海道大学 特任助教)
  3. 曽我部篤(弘前大学 助教)
  4. 武島弘彦(総合地球環境学研究所 外来研究員・元特任助教)

発表のポイント

  • ・淡水・汽水・海水の魚類に寄生して生活している等脚類※1の「ウオノエ」は、深海に生息していた共通の祖先から進化した可能性が高いことを初めて示しました。
  • ・淡水魚に寄生する「ウオノエ」は、南米大陸とアフリカ大陸で、別々の時期に独立に進化したことも明らかになりました。
  • ・今回の成果は、淡水・汽水・海水を問わず世界中の魚から集められた「ウオノエ」の、DNAデータに基づく系統解析※2により、初めて明らかになりました。
  • ・研究成果は、海洋生物学分野の有力ジャーナルであるMarine Biology誌に、4月12日にオンライン公開されました。

発表の概要

海釣り好きやコミックファンにはお馴染みかもしれない「ウオノエ」は、エビ・カニなどを含む甲殻亜門のなかでも、最も多様と考えられている等脚目の生き物です(図1)。世界で知られている約400種のウオノエ全てが、淡水・汽水・海水、必ず何らかの魚類に寄生しており、非常に特異な生活史を持っています。魚の体表や、口、エラ、腹の中に寄生して、そこを安全な住み場所とし、その魚から血液や体液を吸汁して栄養を得ています(図2)。このようなウオノエ類は、どのように多様化してきたのでしょうか? その進化の道筋は、これまでほとんど分かっていませんでした。

図1
A:メジナの体表に3生するニザダイノギンカ B:トビウオ類の体表に寄生するウオノコバン属の1種 C:トビウオ類の口に寄生するトビウオノエ

図1. 魚類に寄生するウオノエ類

  1. A:メジナの体表に寄生するニザダイノギンカ
  2. B:トビウオ類の体表に寄生する
       ウオノコバン属の1種
  3. C:トビウオ類の口に寄生するトビウオノエ
図2
A:イトフエフキに寄生するウオノコバン B:カイワリに寄生するシマアジノエ C:ツマリトビウオに寄生するエラヌシ属の1種

図2. 魚類の体表、口、エラに寄生する
    ウオノエ類

  1. A:イトフエフキに寄生するウオノコバン
  2. B:カイワリに寄生するシマアジノエ
  3. C:ツマリトビウオに寄生する
       エラヌシ属の1種

今回、淡水・汽水・海水を問わず、世界中の魚から採集した 29種のウオノエについて、DNA系統解析を行ったところ(図3)、以下のことが初めて明らかになりました。

  1. (1)深海に生息するウナギ目魚類に寄生するウオノエのグループが、最も古くに分岐したこと
  2. (2)淡水魚に寄生するグループは、進化史の初期に南米大陸へと、比較的最近にはアフリカ大陸へと、別々の時期に独立に淡水へ侵出したこと
  3. (3)エラ内に寄生するグループが最も古くに分岐し、続いて、口や腹内、体表に寄生するグループが次々と分化してきたこと
図3
図3. 本研究により明らかとなったウオノエの系統関係。

※図クリックで拡大図に移動

図3. 本研究により明らかとなったウオノエの系統関係。
ウオノエ各種と結ばれているのが寄生される魚種。魚の色は、各魚種の生息水域を、系統樹上の色は、ウオノエ各種の寄生場所を示す。グソクムシの一種は、ウオノエの近縁種のため、系統樹の根を明らかにするため用いた。

本研究から、魚の寄生者であるウオノエが、魚の上で新たな住み場所(エラ、口、腹、体表)を得ることで、住家の魚(深海魚・淡水魚・沿岸海水魚)をダイナミックに変えて、深海から浅海・淡水へ侵出してきたという、多様化の道筋に迫ることができました(図3)。今回の成果は、生物界に普遍的にみられる、寄生者-宿主間の共進化(例えば:病原体がヒトへ感染した場合、病原体はヒトの免疫系の攻撃を避けるような戦略を進化させる)という、進化生物学上の重要なテーマを考えるうえでも、大きなヒントを提供するものと考えられます。

本研究の応用面としては、ウオノエの分類や系統関係、本来寄生する魚種との対応関係についての知見が揃ったことにより、養殖場や水族館でウオノエが大発生して被害が生じた際、そのウオノエの正体が容易に突き止められるようになります。

用語の説明

等脚類※1
甲殻亜門 軟甲綱 フクロエビ上目 等脚目に属する甲殻類の総称。陸上から淡水、浅海、深海まで多様な環境に生息しており、ワラジムシやフナムシなどが含まれる。近年脚光を浴びているダイオウグソクムシも深海性の等脚類である。自由生活を行う種も多いが、ウオノエ科などの一部のグループは寄生生活を行う。
DNAデータに基づく系統解析※2
ゲノム中の、ある遺伝子領域の塩基(ATGC)配列情報を用いて、生物種間の分岐関係を推定する解析方法。ここではミトコンドリアDNAに含まれる16SリボソームRNA遺伝子領域とCOI遺伝子領域を解析に用いた。

発表雑誌等

  • 雑誌名:
  • 論文タイトル:
     Molecular phylogeny of obligate fish parasites of the family Cymothoidae (Isopoda, Crustacea): evolution of the attachment mode to host fish and the habitat shift from saline water to freshwater
  • 論文和訳名:
     魚類に寄生するウオノエ科等脚類の分子系統:寄生様式の進化と海から淡水域への侵出
  • 著者:
     Hiroki Hata*, Atsushi Sogabe, Shinya Tada, Ryohei Nishimoto, Reina Nakano, Nobuhiko Kohya, Hirohiko Takeshima, Ryota Kawanishi
     * 責任著者
  • DOI番号:
     10.1007/s00227-017-3138-5

研究に関すること

畑 啓生(はた ひろき)
愛媛大学(准教授)
TEL/FAX: 089-927-9638
E-mail: E-mail

川西亮太(かわにし りょうた)
北海道大学(特任助教)
TEL: 011-706-3075
E-mail: E-mail

武島 弘彦(たけしま ひろひこ)
総合地球環境学研究所(外来研究員・元特任助教)
E-mail: E-mail

広報に関すること

遠山 真理(とおやま まり)
総合地球環境学研究所 広報室
TEL: 075-707-2430 FAX: 075-707-2106
E-mail: E-mail

北野 誉直(きたの たかなお)
北海道大学 総務企画部 広報課
TEL:011-706-2610 FAX: 011-706-2092
E-mail: E-mail

2017年6月8日(木)付 朝日新聞(朝刊)に掲載されました。

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