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2008年 本研究 FR 4年目
 Circulation- 循環領域プログラム

図1 研究対象地域の概要

 背景 | 研究目的 | 主要な成果と課題 | 成果の概要 | 今後の課題 

背景
 日本には陸と海の生態学的つながりを意味する言葉として「魚付林(うおつきりん)」という概念があります。我々はアムール川流域からオホーツク海を経て親潮域に至る生態学的つながりの存在を提起し、これを「巨大魚付林(きょだいうおつきりん)」と名づけました。巨大魚付林には様々な機能がありますが、我々が注目するのはオホーツク海と親潮域の基礎生産を支える溶存鉄です。アムール川流域には、この溶存鉄を生成する広大な湿地と森林が広がり、オホーツク海には海氷ができることによって駆動される鉛直の熱塩循環があります。これらの自然科学的な機構は、オホーツク海を南流して千島列島から太平洋へと海水を輸送する東サハリン海流と連携し、アムール川流域起源の溶存鉄を広く親潮域へと輸送します。いわば、アムール川流域の陸面環境がオホーツク海や親潮域の命運を握っているといってもいいでしょう。
 アムール川流域はモンゴル、中国、そしてロシアによって占められ、そこには1億人を越す人々が暮らし、農業・林業・工業などに依存して生活しています。これらの活動は、様々な程度で土地利用の変化をもたらします。アムール川流域で生成される溶存鉄は、湿原と森林の存在に大きく依存しますので、湿原や森林の変化に関わる土地利用変化は、溶存鉄の生成量を変化させ、結果的に海洋の基礎生産にも影響を及ぼしうる可能性があります。


魚付林。岸辺の森から流れ出す栄養分が沿岸に藻場を作り魚を育むことを指す言葉です。近年、アムール川流域が、オホーツク海や北部北太平洋親潮域の巨大な魚付林になっている可能性が浮かび上がってきました。本研究では、これを巨大魚付林と名づけました。アムール川からもたらされる溶存鉄が基礎になって、海の生き物をどう育んでいるか、また流域における人為的な土地改変が陸面からの溶存鉄流出にどう影響するかを総合的に解析し、変化の背景を探ることによって、陸と海の間での人や生物の健全な関係の構築を目指します。



   

   
図2 巨大魚付林ロゴ



 写真1
 スイフンヘ駅でのロシア材積み替え


 
研究目的
  1. オホーツク海と北部北太平洋親潮域における生物生産に対するアムール川の役割とアムール川流域における人為的陸面改変が海洋生態系に与える影響を評価すること;
  2. 溶存鉄がいかに陸面で生成され、アムール川や大気を通じて海に輸送されるか、そのメカニズムを解明すること;
  3. アムール川から輸送される鉄フラックスの変化がオホーツク海と親潮域の植物プランクトンの生産に与える影響を評価すること;
  4. 人為的なアムール川流域の土地利用改変が溶存鉄フラックスに与える影響を評価すること;
  5. アムール川流域で近年生じている急速な陸面の土地利用変化の社会、経済的な背景を解明すること;
    アムール川とオホーツク海・親潮域の生態系のつながりを例として、地球環境学に巨大魚付林という概念を新たに創出し、その保全に資する学問的な貢献を行うこと。
 
主要な成果と課題
 本プロジェクトでは、ロシアと中国との国際共同研究により、過去3年間にわたって、これらの自然科学的機構と土地利用変化の実態および背景を探ってきました。その結果、二十世紀の中頃以降、急速に変化するアムール川流域の陸面環境が、オホーツク海や親潮域に供給される溶存鉄量を規定している可能性が高いことがわかってきました。
  実態が鮮明になってきた今、モンゴル・中国・ロシア、そして日本が共有するこの広大なシステムを如何に保全し、将来にわたって持続可能な状態に保っていくか。国境を越えた国際的な取り組みが必要となっています。残りの2年間で、この重要かつ緊急の課題に学問領域を超えたチームで取り組んでいきたいと考えています。
 
成果の概要
  1. オホーツク海における日露共同海洋観測の結果、アムール川からサハリン湾の大陸棚に輸送される大量の鉄の存在と、それが海氷生成に伴う熱塩循環ならびに潮汐混合によって外洋に輸送され、その後東サハリン海流によって親潮域まで輸送されるという当プロジェクトの仮説がほぼ裏付けられた。
  2. サハリン湾の海底には大量の鉄が堆積し、それが時間的な遅れを伴って外洋に輸送される状況を当初想定していたが、今年の観測から、海底に堆積する鉄は少なく、アムール川から流出した鉄はほとんど時間的な遅れを伴わずに外洋に輸送される可能性が高まった。
  3. アムール川の河口域においては、溶存鉄が凝集し、沈殿することが予想されていたが、海洋観測と汽水域観測の二つの観測航海によって、このプロセスが確認された。腐植物質と錯体を形成した溶存鉄も、一旦は粒子として海底に沈降し、その後、中層水循環によってオホーツク海の中層を千島列島まで、一定の溶解度を保ちながら輸送され、ここで激しい潮汐混合によって海洋表層に輸送され、それが一次生産に利用されるというメカニズムがほぼ明らかになった。
  4. アムール川流域においては、中流域のハバロフスク付近に巨大な鉄の供給源が存在し、それより上流域では基底流出に相当するほぼ一定の鉄フラックスが毎年供給されていることが判明した。また、溶存鉄は腐植物質と錯体を形成していること、アムール川の氾濫によって周辺に広がる湿原から溶存鉄が供給されていること、の2点が高い可能性として確認された。
  5. アムール川流域の森林開発の新たな動きとして、ロシア中央の新興資本による極東林産業の躍進、海外資本による生産施設投資、違法伐採の取り締まり強化などの現状が確認できた。
  6. 三江平原においては、近年の灌漑に伴う地下水面の低下、利費の上昇に伴う経営の悪化などの三江平原の農業経営の持続可能性に関わる問題が浮き上がってきた。
 
今後の課題 
  1. アムール川流域における溶存鉄の供給源を特定し、その自然変動ならびに人為的な擾乱による影響を定量化すること;
  2. アムール川河川中で生じる溶存鉄に関わる生物地球化学的過程の解明;
  3. アムール川河口域で淡水から海水に遷移する過程における溶存鉄の凝集・沈降過程の定量化ならびに潜在的可溶鉄フラックスの把握;
  4. オホーツク海大陸棚における鉄収支の明確化;
  5. 中層水による鉄の輸送・沈降除去、溶解過程の解明;
  6. エアロゾルによる鉄フラックスの定量化;
  7. 鉄をはじめとする物質の循環の循環と一次生産、高次生産との関係解明
  8. 陸面水文化学モデルと海洋生態系モデルの結合による、陸上の土地利用改変が海洋の基礎生産に与える影響の評価シミュレーション
  9. アムール川流域の土地利用変化の歴史的変遷のGIS化
  10. アムール川流域で生じている土地利用変化の背景に関する要因の解明
  11. 巨大魚付林という概念の構築
  12. 巨大魚付林に基づくアムール川流域とオホーツク海・親潮域の持続的利用を目指した保全策の考案
 
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