口蹄疫>

対象                                            
 さまざまな偶蹄類(牛・水牛・羊・ヤギ・豚など)で起こる急性のウィルス伝染病。口蹄疫ウィルスは家畜だけではなく、70種以上の野生の偶蹄類にも感染。(山内 2010: 9)

症状                                                 
 牛では2~8日程度の潜伏をへて発病。典型的な症例としては、最初は発熱・食欲低下・乳の量のいちじるしい低下などがみられる。そののち涎をたらすようになり、舌・歯茎に水疱があらわれる。水疱は指のあいだの皮膚・蹄の周囲・乳房にもみられる。舌の水疱は2、3日でなおるが、足や鼻腔の水疱は細菌の二次感染などでなかなかなおらないことがある。(山内 2010: 9)

死亡率                                                 
 おとなの牛では、死亡率はきわめて低く、5パーセントをでることはほとんどなく、たいてい2~3週間で回復するが、その後もウィルスを排出しつづけることが多い。6ヶ月以前の子牛では、心筋炎などで死亡することがあり、ときに50パーセント以上、過密な飼育環境では90パーセントにとどくこともある。口蹄疫が常在している地域では、免疫ができている牛も多く、軽い症状、あるいはほとんど症状をしめさないこともある。(山内 2010: 9-10)

感染経路                                                 
 おもな感染経路は空気感染で呼吸器粘膜からウィルスが侵入。餌などにウィルスが付着して経口感染を起こすこともあり、このばあい扁桃などからウィルスは侵入する。水疱液には多量のウィルスがふくまているため、傷口などから接触感染をひきおこすこともある。(山内 2010: 10)

拡大径路                                               
 感染した動物では、呼気・糞尿などにウィルスが排出。多く、これらのウィルスが呼吸器から侵入して感染を拡大。ウィルスは動物の体内でしか増殖できないため、排出されたウィルスがふえることはまったくない。だが、外界の環境条件がウィルスに適しているばあいには、長期間生きのびることがある(→KHVはどれくらい?)。口蹄疫ウィルスはとくに、外界でながく生きのびることがある。だが、太陽光線・酸やアルカリ・高温ではかんたんに死滅する。
 拡大径路としては、感染動物の移動・汚染した畜産製品や人との接触・汚染した器物や風による拡散などがある。もっとも多いのが、感染動物の移動による拡大。感染動物の体内ではウィルスが増殖し排出されているからである。とくに牛・羊・ヤギでは喉のなかにウィルスがかなりながく存続しているため感染をひろげやすい。汚染した畜産製品による拡大も多い。一般に、肉のばあいにはpHが低下してウィルスが不活性化されるため、感染源になる可能性は低いと考えられている。しかしリンパ節では長期間存続することもある。
 人による感染の多くは、衣服や靴などにウィルスが付着し、感染源となるばあいである。2010年の5月に江華島で発生した口蹄疫の感染源は、牧場経営者が中国に旅行したさいにもちこんだことが疑われている。またパーブライト研究所の実験では、感染動物から放出されたウィルスが実験者の喉に入りこみ、もっともながいもので28時間存続して、しかもウィルス量は家畜に感染するに十分だったという結果がえられている。
 器物による伝播も多い。2000年の宮崎のケースは、中国から輸入した麦わらであることが疑われている。風による伝播もヨーロッパではときどき起きていた。ウィルスは細かい埃や塵などに付着してエアロゾルとなって風で運ばれるのである。1976年の英国のケースでは、風によってインフルエンザの10倍以上の速度でひろがったといわれている。また2001年の英国のケースでは、発生原因となった感染第一例の豚が飼育されていた養豚場がほぼ特定されたが、感染径路として残った可能性は違法にもちこまれた肉または肉製品のみとなった。その結果、ウィルスに感染した肉が含まれた残飯が十分に加熱されずに豚にあたえられた可能性が疑われている。(山内 2010: 10-11、13-18)

タイプ                                               
 口蹄疫ウィルスは現在7つの血清型(O, A, C, SAT1, SAT2, SAT3, Asia1)にわけられている。現在これ以上あたらしいタイプが発見されないと考えられており、この7つの下に多くのサブタイプがある。(山内 2010: 19)

種別                                                 
 牛はウィルスにたいする感受性がとくにたかく10感染単位程度で感染することがあり、症状もみつけやすいので口蹄疫発見のための検出動物といわれる。豚は1000感染単位以上のウィルスでないと感染しないとされているが、ウィルスを大量放出するため、ウィルスの増幅動物といわれる。羊はあまり症状をださないまま、ながいあいだウィルスを咽喉部などに保有しているので、ウィルスの維持動物といわれる。南アフリカでは、野生のアフリカ水牛が羊とともにウィルスの維持動物になっている。野生動物では制圧対策は困難なため、口蹄疫は常在し、撲滅は不可能と考えられている。(山内 2010: 11-12)

特徴                                                
 口蹄疫の重要な特徴は、その伝播力である。また国際獣疫事務局(OIE)の分類では、牛疫や高病原性インフルエンザとならんでリストAにいれらている。牛疫や高病原性インフルエンザウィルスは牛や鶏に致死的感染を起こすため、家畜の健康保護のために重要な病気とみなさているわけだが、口蹄疫ウィルスの毒性はそれほど強いものではない。しかし一時的とはいえ乳を生産しなくなったり生育がとまることは、経済動物としての存在価値を失わせるし、急速にひろがる病気でもある。その意味では、家畜の健康保護ではなく、貿易保護のために重要な病気だといえる。(山内 2010: 12-13)

口蹄疫と対策の歴史                                                
 BSEや高病原性鳥インフルエンザ同様、口蹄疫対策として多数の牛や豚が殺処分されている。こうしたやりかたは「感染家畜と感染のおそれのある家畜はすべて殺処分する」という国際獣疫事務局(OIE)の国際動物衛生規約にもとづくものである。
 殺処分のはじまりは1711年のイタリアにまでさかのぼる。ローマ法王の侍医だったジョバンニ・ランチシが、法王の領地に牛疫がひろがるのを防ぐため、病牛をただちに殺すこと、病気の出た地域から動物を移動させてはならないことを提言したのが端緒である(山内 2010: 23-24)。

英国                                            
 1839年、英国で最初の口蹄疫が乳牛で発見。感染源はアルゼンチンから輸入した肉や乾し草と推測された。だが口蹄疫はまだ軽度の病気とみなされていた。
 1865年、英国でふたたび牛疫が大流行。そのさいの対策は牛疫だけではなく、口蹄疫のひろがりも抑えた。これが契機となり、口蹄疫にたいしても殺処分と動物の移動禁止措置が有効と考えられるようになった。
 1860年代、英国では農業がさかんになっていたが、1870年代末から1980年代はじめにかけて米国から安価な穀物が輸入されるようになるとともに、口蹄疫により牛肉や乳の生産が低下することが注目され、経済的に重要な病気と認識されるようになった。
 1922年、家畜市場で最初の感染例がみつかり、1923年にも数ヶ所で同時に発生。殺処分の対象は30万頭ちかくに達した。この農務省の措置にたいして残酷であり無能であるとの批判がたかまり新聞も同調したが、殺処分は継続され、1924年に終息した。この発生にかんする調査報告は1925年に公表された。そこには農務省の対策にたいする批判などもふくまれていたが、殺処分は唯一の対策であること、隔離を望む声は英国から病気を排除する望みを放棄するものであることと結論した。ここに、殺処分という英国方式が定着をみるにいたる。
 1937年、ドイツのオットー・ヴァルトマンが口蹄疫を接種した牛の舌をもちいた不活化ワクチンを開発、デンマーク・オランダ・ドイツなどでもちいられはじめた。1947年には、オランダのフレンケルが健康な牛の舌の上皮細胞にウィルスを接種する方式での大量のワクチン製造法を発表した。
 1951年、イングランド東南部の海岸で口蹄疫が発生。農務省は殺処分をはじめたが、ワクチン接種をもとめる声が高まった。しかし農務省はこれに反対、議論は議会・新聞・公聴会へと発展したが紛糾しているうちに口蹄疫が終息、議論も立ち消えとなった。
 1967年、英国中西部で口蹄疫が発生。牛・羊・ヤギ・豚あわせ43万頭あまりの家畜が殺処分。この発生でふたたび、ワクチン接種に切りかえるべきだという議論が起きた。ワクチン接種のほうが道徳的かつ科学的、安あがりで、近代畜産に適しているというわけである。だがこうした意見も草の根的なもので、ひろがりをみなかった。農務省関係者も、ワクチンにかかわる問題点を指摘、殺処分のほうが安あがりであると反論した。
 20世紀後半、西ヨーロッパの大部分では口蹄疫は常在していたが、殺処分はおこなわれなかった。殺処分への抵抗が強かったのだ。補償など費用がかかりすぎるうえに、周辺国からの口蹄疫侵入への有効な対策とならなかったからである。そのかわりにワクチン接種により口蹄疫制圧につとめる動きがひろがった。その結果、ヨーロッパにおける口蹄疫発生は1960年の2万5000例から1968年には3658例に激減。英国の口蹄疫はそのほとんどがヨーロッパ大陸から侵入していたため、大陸での発生が激減したことは英国が口蹄疫清浄性を保持するのにも役立っていた。
 1960年代、パーブライト研究所がハムスター腎臓由来のBHK21細胞が口蹄疫ウィルスの増殖に適していることをみいだしたことで大量の大量生産が可能となり、世界各国にワクチンが供給されることになった。これによりヨーロッパでの口蹄疫は1970年代なかばまでにはほぼ排除された。しかし時折の小規模の発生が、ワクチンに不活性化されていないウィルスがふくまれていたりなど、ワクチンに起因するものだったため、農業関係者からはワクチン接種の中止をもとめる声が高まってきた。ワクチン接種をしていない清浄国との貿易が容易になるとの経済的な思惑からである。1992年、EUは大量のワクチン接種の継続は経済合理性に欠けるとして、加盟国はワクチン接種を中止、強制的殺処分方式を採用し、ワクチン接種動物の輸入を禁止するよう決定。かくして英国方式がEUにも採用されるにいたる。
 2001年、イングランド東部エセックス州での発見を皮切りに口蹄疫は英国全土へと拡大、総計約600万頭が殺処分された。その内訳は、制圧のための殺処分が400万頭、のこりは動物福祉対策のための殺処分であった。英国では、家畜の多くは放牧されていて草を食べ尽くすと別の牧草地に移動させられるが、移動が制限されると草を食べられなくなり餓死するので動物福祉のために殺処分されるのである。この発生による直截間接の経済的損失はおよそ80億ポンド。英国史上最悪の発生となった。終息後には、英国首相および環境・食糧・農村地域省大臣宛に、その対応を批判する各種報告書が出された。
 「2001年口蹄疫発生から学ぶべき教訓及び将来の重要家畜疾患にたいする政府の方針にかんする調査」の概要は以下のとおりである。殺処分に依存した伝統的な対策には疑問。輸入における水際対策ではウィルスの侵入は不可能であることを強調。いかなる発生でも制圧対策の一環として緊急ワクチン接種を考慮すべき。技術的進展によりワクチンの安全性はましており、ワクチン接種動物がウィルスの運び屋になる危険性は下がっている。英国政府は、ワクチン接種が口蹄疫の国際的な制圧手段となり、かつ貿易の阻害ともならないよう議論を主導すべき。動物福祉については、このかん社会的な関心が大きかったにもかかわらず、社会的合意がないまま殺処分がおこなわれきたことは問題。
 「王立協会による科学面の調査」の概要は以下のとおりである。ワクチンはひとと動物の感染症の征圧に大きく役立っている。多くの動物の病気も、定期的なワクチン接種が最善の対策になっている。食用動物もワクチン接種をうけている。英国では定期的な口蹄疫ワクチンの使用は一度もおこなわれなかったが、多くのEU諸国では1991年までもちいられてきた。最近まで緊急ワクチン接種の主な問題は、感染して回復した個体とワクチン接種をされただけの個体をみわけることが困難だったことである。しかし現在ではその区別は可能となっている。OIEとWTOは緊急ワクチン使用国が清浄国にもどるには12ヶ月を要請していたが、殺処分に比して9ヶ月も遅れることが緊急ワクチン使用の抑制要因となっていた。だが2002年、OIEは12ヶ月を6ヶ月に短縮することを諒解した。かくして「殺すためのワクチン」から「生かすためのワクチン」への政策転換をもとめる。(山内 2010: 25-39)

cf. http://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/uk2007/index.html

オランダ                                               
 オランダでは1984年以降、口蹄疫は発生していなかった。しかし2001年の英国での発生はオランダにも飛び火した。オランダ政府は緊急ワクチン接種をおこなったが、ワクチン接種後そのすべてが殺処分された。終息後、ワクチン接種牛を殺処分したこことには批判の声があがったが、緊急ワクチン接種によってオランダでは約1ヶ月で終息をむかえることができた。(山内 2010: 42-44)

アメリカ                                          
 米国では1870年、東海岸地域で最初の口蹄疫が発生。19世紀ではその後1880年と1884年に発生したが、いずれも局所的なものであった。
 20世紀にはいると、1902年にマサチューセッツ州で発生し、バーモンド・ニューハンプシャー・ロードアイランド州へと拡大し、翌年終息。1908年、ペンシルベニア州で発生、ミシガン・メリーランド・ニューヨーク州でも発生。1902年、1908年の発生ともに、天然痘ワクチン製造にもちいられた子牛が発生にかかわっていたことが判明している。天然痘ワクチンに口蹄疫ウィルスが混入していたのである。
 1914年にはミシガン州で発生。米国では最大の流行となった。1924年にはカリフォルニア州サンフランシスコで発生、ロサンゼルスにひろがり、テキサス州に達した。1929年、カリフォルニア州で再発。これを最後に今日まで米国では口蹄疫の発生はみられていない。(山内 2010: 45-50)

カナダ                                                
 カナダでの口蹄疫の発生はこれまで一度だけである。1951年の発生がそれで、翌年終息。発生は風でもひろがったが大規模な拡大はみられなかった。その要因としては、牛の飼育密度が低かったこと、豚は少数の感染であったこと、残飯を餌にする方式がなかったことなどが考えられる。侵入経路としては、ドイツ移民の衣服にウィルスが付着していた可能性が考えられるが定かではない。(山内 2010: 50-51)

メキシコ                                               
 最初の発生は1946年。感染源はブラジルから輸入した雄牛。殺処分は1947年の夏から秋にかけて毎週5万8000頭と急ピッチですすみ、11月までには50万頭ちかくに達した。このペースでいけば、牛だけで500万頭のおよぶことが予想された。これにたいし畜産農家から殺処分にたいする反対が高進。ついにはメキシコとアメリカから派遣されていた獣医師が農民に殺害される事件にまで発展。こうした経緯をうけ1947年、防疫委員会は無制限の殺処分計画を止め、ワクチン接種に転換。感染した牛やおそれのあるものは殺処分、健康な牛には抵抗力をつけるためワクチンを接種することにした。ワクチン製造所を設立し、ワクチン生産を開始。ワクチン接種は効果をしめし、発生は漸次的に減少。1951には発生は完全になくなった。1952年、撲滅計画は終了。本件は口蹄疫対策の歴史のなかで、ワクチン接種により口蹄疫が撲滅された最初の例となった(山内 2010: 51-53)。

台湾                                                
 台湾での発生は、日本による統治時代の1913年から3年間と1924-25年の二度みられたが、その後はみられず口蹄疫は存在しないとみられてきた。だが1997年、豚に感染が確認。殺処分された豚の数は385万頭をこえ、制圧費用と日本への輸出制限により、台湾の豚肉輸出産業は大打撃をうけた。(山内 2010: 69-73)

cf. http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/eitai/090219.html
  http://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/index.html

韓国                                            
cf. http://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/korea_2010.html
  http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/korea.html

中国                                             
cf. http://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/china.html

日本                                             
 最初に発生が疑われたのは明治時代、1899年の茨城のケース。もっともこれはどのように確定がおこなわれていたのか不明。1990年には、東京で発生。6つの県にひろがり、翌年終息。このときの調査が実施され、これが最初の発生とみられている。1901年、1902年にも発生。明治時代最後の発生は1908年だが、すべてが口蹄疫であったかは不明。
 大正時代にはいり、1919から1922年にかけては動物検疫所で44回、計1175頭の口蹄疫の牛が確認されたが国内牛への感染は起きなかった。
 時代はかわって昭和。1933年には下関の家畜検疫所で朝鮮半島から輸送されてきた牛に口蹄疫の症状が確認。口蹄疫の伝播をしめす典型的事例とみられている。
 そして平成。2000年3月、宮崎で10頭の和牛に口蹄疫が確認。全国レベルでのサンプル検査を経た結果、発生は4戸の農家にとどまることが確認。殺処分された牛は740頭。同9月にはOIEが清浄国復帰を確認。感染源としては、初発農場で牛にあたえられていた中国産麦わらの可能性が高いとされている。2010年4月、ふたたび宮崎で発生。初動がおくれたため、感染は牛から豚にまでひろがり、多数の家畜が殺処分され、貴重な種牛の特別措置による隔離という事態につながった。5月には緊急ワクチン接種が実施。これはしかし拡大をおさえるためのものであって、ワクチン接種動物は感染動物同様、殺処分された。(山内 2010: 65-69、73-80)

cf. http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/index.html

ワクチン                                            
 ワクチンがかかえる問題のひとつは、接種したにもかかわらず感染発病した場合、ワクチンが原因とみなされること。不活化ワクチンでは不活化されていないウィルスの残存が疑われる。生ワクチンでは、じっさいは流行ウィルス感染なのにワクチン感染が疑われる。この問題の解決のためにワクチン感染と自然感染を区別できるワクチンがもちいられる。それがマーカーワクチンである。
 口蹄疫のマーカーワクチン開発のうごきは、ヨーロッパで1990年代前半にはさかんになっていた。採用されたのは、口蹄疫ウィルス粒子の構成成分になっていない非構成タンパク質(NSP)をマーカーとするアイデアである。NSPは口蹄疫ウィルス遺伝子の情報で産出されるタンパク質でウィルス増殖に必要なものだが、ウィルス粒子にはふくまれない。感染動物の体内では、ウィルス粒子の表面にあるタンパク質の抗体とともにNSPの抗体も産出される。よって口蹄疫ウィルスを精製してNSPをふくまないワクチンを接種すればNSP抗体は産出されない。こうしてNSP抗体の不在を確認することで、ワクチン接種動物であっても感染していないことを証明できる。こうしたアイデアである。2001年の英国での大発生がきっかけとなり、現在ではほとんどのワクチンがこの精製ワクチンになっている。
 だがこのマーカーワクチンも、ときにNSPが混入するおそれがある。そこで組みかえDNA技術により、さらに信頼性の高いマーカーワクチンの研究開発成果が英国・米国・中国などから発表されている。(山内 2010: 58-63)

確認/論点(研究員:安部 彰によるメモ)                                             
・対策について:日本の口蹄疫対策の非科学性を指摘するものに山内(2010)。
・(野生ではなく)家畜における発生が口蹄疫の「問題」。
・人間への害:直接的害はあまりない(まれに感染するが健康被害は過小)。間接的害はある、たとえばE)経済的損害とC)文化的損害。すくなくともE)は殺処分の主たる理由とされてきた。感染拡大が悪なのは家畜/商品が死ぬと、売れなくなると、損だから(清浄国への欲望)。
・道徳的観点:動物倫理的には、殺処分<ワクチン接種。この病気は重篤な「死にいたる病」ではない。よって動物福祉(苦痛の回避)の観点から殺処分の正当化は困難。
・「殺処分<ワクチン接種」がのぞましいとして、接種の対象となる動物はかぎられる。哺乳類かつ家畜が条件か。その基準はなにか。可感性は前提として、ひとつは、X)人間との心理的/生物学的近さ(殺すのはなんか嫌だな感の強弱)。ひとつは、Y)有用性。とりわけ経済的価値。動物によっては、X<YのケースもY<Xのケースもあるだろう。その他基準の検討とあわせ、道徳的配慮対象の線引き(とその正当化)問題は重要(Ott und Gorke eds.2000=2010)。
・歴史を概観した印象では、いわゆる人為を原因とする発生がめだつように思われる。

参考文献                                                 
◇山内一也 2010『どうする・どうなる口蹄疫』岩波書店.
◇Ott, Konrad und Martin Gorke eds., 2000, Spektrum der Umweltethik, Metropolis-Verlag, Marburg.(=2010,滝口清栄・アンドレアス・ヴァルナー監訳『越境する環境倫理学――環境先進国ドイツの哲学的フロンティア』現代書館.)
◇動物衛生研究所ホームページ
◇農林水産省ホームページ
日本獣医学会ホームページ





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