<何がどこまで分かったか>
「水辺の環境改変−KHV感染症−人間」の相互作用環の主な部分が実証できました。これにより、水辺の環境改変によって、KHV感染症が発生・拡大するという仮説がほぼ実証できました。さらに、この相互作用環を概念モデルとして、様々な感染症に適用し、人間による環境改変が感染症の発生・拡大に係る過程の理解が深まりました。
<地球環境学に対する貢献>
研究手法の開発:自然環境中のKHVおよび宿主であるコイの居場所を定量的に把握する世界初の手法を開発しました。このことによって、世界の研究機関が手法を共有し、世界規模の調査が可能になりました。
感染症対策の考え方を提案:世界の感染症対策は、診断法や拡大防止法の研究に力が注がれていましたが、KHV感染症をはじめ様々な感染症の事例から、感染症の発生・拡大を未然に防ぐためには、細胞や個体レベルの病理的メカニズムの解明に併せて、自然環境中における病原生物の動態と病原生物を生み出す背景と考えられる「環境改変と病原生物と宿主と人間 」の相互作用環の理解が不可欠であることがわかりました。 KHV感染症の例では、コイの大量斃死後もKHVが広域的長期的に水域に存在することから、KHVをコイの生息地から排除する事はきわめて難しく現実的ではないことがわかりました。このことから「病原生物が存在しても甚大な感染症が起きない環境対策」への必要性が提示できました。さらに人間の環境改変によって感染症が発生・拡大するという見方ができたことから、感染症対策には「感染症を軽減する環境と人間の関係を築く事が重要である」という考え方が提案できました。
新しい人間の責務:感染症を人間の倫理の問題として位置づけることによって、「感染症の軽減にたいして、人間の新しい責務」が生じたという観点が提案できました。
<成果の発信>
計4回の国際シンポジウムの企画および発表、国際学術雑誌での特集号Environmental change, pathogens, and human
linkageの出版、さらに国際学術雑誌での論文の発表を通して、「環境改変と病原生物と宿主と人間」の連環の考え方を、世界の研究者へ発信しました。琵琶湖における生態系サービスの持続的利用の取り組みが、国際的に影響を与えることを鑑み、地球研地域連携セミナー「水辺の保全と琵琶湖の未来可能性」において、水辺の消失がKHV感染症の発生と拡大を招く可能性があることを一般市民および滋賀県の行政関係者に紹介しました。
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