実践プログラム3

砂漠化をめぐる風と人と土

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研究プロジェクトについて

アフリカやアジアの半乾燥地は、資源・生態環境の荒廃と貧困問題が複雑に絡み合う砂漠化の最前線といわれます。私たちは、これらの地域の風土への理解を深めながら、現地の人びとともに、暮らしの安定や生計の向上につながり、同時に環境保全や砂漠化抑制が可能となるようなアプローチを探りました。その成果として、砂漠化対処に向けて、「ヒトVS自然」ではなく「ヒトも自然も」という発想転換といくつかの技術をもたらしました。

何がどこまでわかったか

図 プロジェクトの概要

図 プロジェクトの概要

ここでは、西アフリカでの事例に絞って、研究成果を紹介します。

在来の知恵を知る:アフリカを横断するように広がるサヘルと呼ばれる半乾燥地では、伝統的な農具「押しスキ」が使われています。土壌の表層を浅く耕すことで、雑草の生育を抑え、雨水が浸み込み、土壌からの水分の蒸発を減らします。また、農耕地に作物の刈り株をおくことで、乾季の季節風により移動する砂や有機物をとらえ、薄い砂の層をつくることもします。この砂の層にも、土壌の水分を保全する機能があります。私たちは、このような在来の知識や経験を汲み取り、砂漠化対処に向けた実践技術をつくるヒントにしました。

現地の人びとと一緒にあみ出した「暮らしを向上させ同時に資源・生態環境を保全し修復する技術―ヒトも自然も―」として、例えば、耕地内休閑システム(風による土壌侵食の抑制と作物収量の向上)、アンドロポゴン草列(水による土壌侵食の抑制と世帯収入の向上)、インドの伝統的な畜力牽引犂と播種器によるササゲ栽培(土壌水の保全と荒廃草原の耕地利用および生計の向上)、半乾燥地での植林技術の改良(ザイという伝統技術の活用)などがあります。これらは、一見すると単純なものですが、労力や資材あるいは経費をかけず、なおかつ社会的に弱い立場にある人びとでも実践可能で、口コミにより伝播するという特徴を持ちます。何よりも、私たちと現地の人びとが一緒に対処技術をつくることが可能であることを実証できました。

私たちの考える地球環境学

私たちは、環境という言葉を「風土」に置き換えます。「風土」とは、長い年月にわたり人びとの暮らしと周辺の資源や生態環境が織りなしてきたものであり、その中心には「人」がいます。本プロジェクトのタイトルにある「風と人と土」は、私たちの考える地球環境学であり、それは、地球研の理念でもある「人間存在(文化)を軸とする地球環境学の構築」に通底するものです。同時に、地球環境学は、私たちや次世代の人びとに突き付けられた深刻で時限を帯びた問題群に向き合うものでもあります。それ故に、「誰のために、何を、どうするか」を見出す問題解決をも志向するものでもあります。

新たなつながり

一連の取り組みにより、第41回日立環境財団・環境賞(環境大臣賞)や第25回日経地球環境技術賞(優秀賞)など約20件の学術賞を受賞しました。これらは一緒にフィールド研究に取り組んだ現地の住民有志の努力や在来知に対する評価でもあると理解しています。10件の「フィールドノート」を刊行し、これらのいくつかは学術書や一般書となります。その例として、『千年の古都ジェンネ 多民族が暮らす西アフリカの街』(伊東未来著)や、『サーヘルの環境人類学』(石山俊著)があります。また、中学生、高校生や社会人の方々に向けて研究者の想いや対象地域の人びとの表情を描いたエッセイ集『フィールドで出会う風と土と人』、電子版写真集『フォトエッセイ フィールドで出会う暮らしの風景』を作成しました。

半乾燥熱帯で形成した砂漠化対処の技術が持つ「ヒトも自然も」の方法論を、湿潤熱帯にも展開すべくJICA草の根パートナー事業「タンザニア東部でのバニラ産地の形成と生計向上(2017年度開始)」を立ち上げました。砂漠化対処への取り組みは、緒についたばかりです。今後も、アフリカやアジアの砂漠化地域で培った人びととのつながりを通じて、プロジェクトで得られた知見や技術を広げ、同時に、さまざまな新たな発見を続けたいと考えています。このプロジェクトで培った最大の財産は、参加した研究者そのものであり、一緒に働いてくれた対象地域の人びとです。これからは、それぞれがさまざまな取り組みの中核になり、さらに学術研究や社会実践の輪をひろげるつもりです。

プロジェクトリーダー

氏名所属
田中 樹総合地球環境学研究所教授
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