実践プログラム2

地域環境知形成による新たなコモンズの創生と持続可能な管理

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研究プロジェクトについて

写写真 地域住民によって再生された伝統的定置漁具「海垣」(上村真仁撮影)

写真 地域住民によって再生された伝統的定置漁具「海垣」(上村真仁撮影)
石垣島白保地区における、サンゴ礁生態系の保全と活用に向けた伝統的漁具再生の活動。多様なステークホルダーの協働によるこのような生態系サービス創出のための活動を、たとえば海垣の生態系機能、地域の海垣にかかわる歴史、ステークホルダーによる活用のしくみなどに関する知識が融合した地域環境知が支えている

生態系サービスの劣化などの地球環境問題を解決するには、地域の実情に即したボトムアップの取り組みが重要です。地域の人びとによる取り組みの基礎として、プロジェクトでは科学知と在来知(人びとの生活のなかで培われてきた多様な知識体系)が融合した「地域環境知」に着目します。世界各地の事例を収集分析し、地域環境知が形成され活用されていくメカニズムの解明と、それを生かした「順応的ガバナンス」のあり方を探求します。

なぜこの研究をするのか

図1 地域環境知の構造 地域環境知の生産と流通は、職業的な科学者だけでなく、地域の多様な主体(農協・漁協などの一次産業従事者、地域企業、行政官、NGO など)によって担われている。その多くは同時に知識ユーザーでもある。このような多様な主体が地域の活動のなかで相互作用することを通じて、地域の課題解決に必要な多角的視点を融合した地域環境知が形成され、活用されている。また、その際に科学者・専門家は多様な知の体系をステークホルダーの視点から再整理、体系化し、多様なステークホルダーと協働して地域の環境課題の解決に活用するという新たな役割を担う

図1 地域環境知の構造

図2 階層間トランスレーターの働き 地域から地球規模まで、多様な階層をつなぐ知識の双方向トランスレーターが、濃密な知識の流通と相互作用を支えている。その際に、多様なトランスレーターが重層的に相互作用することが重要であることが明らかになってきた。このしくみを理解し活用していくことで、異なる階層の知識を統合したクロススケールの知識基盤を構築するメカニズム、それを生かしたクロススケールのガバナンスのしくみを明らかにすることをめざしている

図2 階層間トランスレーターの働き

全世界的に劣化が進行している生態系サービスは、地域内外の多様なステークホルダー(利害関係者)が協働して管理すべき「新たなコモンズ」ととらえることができます。その創出と持続可能な管理のためには、地域の実情や課題に即した知識基盤が生み出され、ステークホルダーによって問題解決に活用されることが不可欠です。世界各地の地域社会における取り組みのなかで、科学者と地域のステークホルダーとの相互作用と協働を通じて、これまでの科学知・在来知などの区分に当てはまらない新しい問題解決指向の領域融合的知識である「地域環境知」が生み出され、活用されています(図1)。

プロジェクトでは、地域社会において地域環境知が形成され、活用されていくメカニズムを解明し、地域環境知を基盤として社会のしくみを柔軟に変化させていく「順応的ガバナンス」のあり方を探求しています。また、地域から地球規模までの多様な階層をつなぐ知の流通によって形成される、階層間(クロススケール)の知識基盤の生成と変容が、地球環境問題の取り組みを支えるしくみについて検討します(図2)。これによって、地球環境問題をボトムアップで解決していくための科学のあり方、科学的知識を取り込み活用する社会のあり方を明らかにして、持続可能な社会を構築するための未来設計に貢献することを目標としています。

どこで何をしているのか

プロジェクトの目標を達成するためには、地球研のこれまでの研究プロジェクトの成果、ならびに世界各地で蓄積されてきた多様な知識の事例を収集分析することが必要です。そのために、プロジェクトでは、合計61か所の事例研究サイトを選定しました(図3)。それぞれの地域に深くかかわっている研究者が参加する事例研究グループや、理論・モデリンググループを中心に、参加型研究と広域的な比較によるメタ分析を行ない、地域環境知が生み出され流通するメカニズム、および知識が生み出され流通することによって持続可能な地域づくりを促すしくみを探索しています。

また、事例研究サイトおよびクロススケール・トランスレーターの事例から16件(石垣島白保、北海道西別川流域、米国フロリダ州サラソタ湾、トルコ共和国カラプナール地方、東アフリカマラウィ湖国立公園、日本生物圏保全地域ネットワークなど)を選定して、焦点を絞った仮説の検証をめざす社会実証プロセスを動かしています。

図3 世界各地の事例研究サイト

図3 世界各地の事例研究サイト

これまでにわかったこと

図4 順応的ガバナンスの概念モデル(ILEK三角形)

図4 順応的ガバナンスの概念モデル(ILEK三角形)

世界各地の事例研究を通じて、「レジデント型研究者」および「知識の双方向トランスレーター」の重要性が明らかになりました。レジデント型研究者は、地域社会に定住する科学者・研究者で、地域社会のステークホルダーの一員として地域の実情に即した領域融合的な研究を推進します。双方向トランスレーターは、知識ユーザーの視点から科学知の再評価と再構築を行ない、科学知が地域で活用されることを促進し、地域の人びとが培ってきた生態系サービスにかかわる知識を体系化して発信します。これらの働きを中心に、メタ分析とモデリングの基礎となる概念モデル(ILEK三角形)をつくり(図4)、知識が社会の順応的な変化を駆動する際の要因を5種類(価値の創出と可視化、新たなつながりの創出、選択肢と機会の拡大、集合的アクションの創発、トランスレーターの性質)に分類することができました。

また、このモデルに基づく各地の事例の参与観察と、地域社会で知識の生産、流通、活用に重要な役割を果たしている多様な人びとに対するインタビューなどの分析を進めた結果、これらの5種類の要因がILEK三角形モデルのなかでどのように働いているかについて、詳細に理解することができるようになり、特に双方向トランスレーターの多様性と重層性が重要であることが明らかになりました。これらの成果を理論的なモデルに統合し、焦点を絞った具体的な仮説を生成して社会実証プロセスを動かすことを通じて、地域環境知を基礎とした順応的ガバナンスのメカニズムの精緻な理解をめざします。

伝えたいこと

私たちは世界各地にまたがる事例研究サイトの現場に密着し、地域に生きる人びとの視点から、科学知と在来知が有機的に相互作用して形成される地域環境知の働きを解明しようとしています。その際には、多様な分野の科学者はもちろん、地域社会のさまざまなステークホルダーとも協働して研究を設計し、進めていくことが必要不可欠です。科学者、専門家の枠に当てはまらない多様な人びとと協働して研究を進めるアプローチ(トランスディシプリナリティ)が、プロジェクトの根幹を支えています。モデリングやウェブGISなどの技術も活用して、ステークホルダーと協働した問題解決指向の総合研究を推進し、地域からのボトムアップによる地球環境問題の解決をめざします。

集合写真

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名所属
佐藤 哲総合地球環境学研究所教授

マラウィ大学生物学科助教授、スイス・ベルン大学動物学研究所客員研究員、WWFジャパン自然保護室長、長野大学環境ツーリズム学部教授などを歴任。一人の科学者として科学と社会のかかわり、地球環境問題の解決に役立つ科学のあり方を探求しています。

共同リーダー

氏名所属
菊地 直樹総合地球環境学研究所准教授

環境社会学をベースとしたレジデント型研究者(兵庫県立大学/兵庫県立コウノトリの郷公園)として、コウノトリの野生復帰プロジェクトに参画し、領域融合的な研究と活動を展開してきました。地域に馴染んだ地球環境問題の解決策を模索しています。

プロジェクト研究員

氏名所属
竹村 紫苑プロジェクト研究員
大元 鈴子プロジェクト研究員
三木 弘史プロジェクト研究員
北村 健二プロジェクト研究員
福嶋 敦子プロジェクト研究推進支援員
KITOLELEI, Jokim Veuプロジェクト研究推進支援員

主なメンバー

氏名所属
宮内 泰介北海道大学大学院文学研究科
新妻 弘明日本EIMY 研究所・東北大学
星(富田) 昇日本EIMY 研究所・EIMY 湯本地域協議会
菅   豊東京大学東洋文化研究所
松田 裕之横浜国立大学大学院環境情報研究院
酒井 暁子横浜国立大学大学院環境情報研究院・日本MAB 計画委員会
牧野 光琢(独)水産総合研究センター
時田恵一郎名古屋大学大学院情報科学研究科
中川 千草龍谷大学農学部
湯本 貴和京都大学霊長類研究所
山越  言京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
清水万由子龍谷大学政策学部
家中  茂鳥取大学地域学部
久米  崇愛媛大学農学部
柳  哲雄(公財)国際エメックスセンター
鹿熊信一郎沖縄県海洋深層水研究所
上村 真仁筑紫女学園大学現代社会学部
CROSBY, Michael P.Mote Marine Laboratory(Sarasota, Florida)
CASTILLA, Juan CarlosPontificia Universidad Católica de Chile
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