東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上

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研究プロジェクトについて

地方再生・地域活性化と環境保全を両立させる鍵は、適正技術の利用による住民参加型の資源管理です。本プロジェクトでは、地域住民組織による自然資源の持続的利用と管理を可能とする条件群をエリアケイパビリティーとして定義し、日本とアジアの沿岸域での成功例を精査することによって、エリアケイパビリティーの評価方法と導入ガイドラインの作成を進めます。

なぜこの研究をするのか

図1 調査対象地域とそれぞれの特徴・課題

図1 調査対象地域とそれぞれの特徴・課題

温室効果ガス濃度の上昇や生物多様性の消失など、近年、地球規模での環境問題の解決が求められています。多くの地球環境問題が越境性や広域性といった特性を持つ反面、これらの問題を解決するためには、各個人や組織および企業が、環境に配慮した選択 と行動をとること、つまりは“Think Globally, Act Locally”の精神に沿った世界規模での意識と行動の変容“Transformation”を起こす以外に道はないと考えています。これまでの多くの環境研究が、地球規模での環境変動観測や将来予測を通じて“Think Globally”を訴えてきています。しかし、“Act Locally”を推進し“Transformation”をどのように展開すれば良いかを示すような学術研究は少ないのではないでしょうか。

“Act Locally”を推進する際、地域で保全活動をしている個人や組織と、実際にその自然を生活に利用している住民との乖離や衝突をどのように改善するかが大きな課題です。自然や生態系サービスの重要性は、それぞれの個人や組織の立場や自然との関係性によって異なります。行き過ぎた自然の搾取は防がなければならない一方で、生活に生態系サービスの利用が不可欠な人びとを、保全の名のもとに置き去りにすることは避けなければなりません。したがって、利用者と保全活動者をどのように結びつけ、持続的な社会を構築するかが地球環境問題の解決には不可欠な視点です。

プロジェクトでは、複数のケーススタディーを精査し、地域(≠エリア)において個人や組織を結びつけ、地域全体で環境に配慮した行動が選択される条件群を「エリアケイパビリティー」としてとりまとめます。また、この「エリアケイパビリティーの向上」を開発指標として用いられるようにすることで、“Transformation”を推進し、地球規模の環境問題の解決に挑もうとしています。

どこで何をしているのか

写真1 石垣島での高校生を対象とした環境教室のようす

写真1 石垣島での高校生を対象とした環境教室のようす

写真2 フィリピンで実施しているエビ放流事業の養殖池

写真2 フィリピンで実施しているエビ放流事業の養殖池

写真3 タイに導入された村張り定置網漁業のようす

写真3 タイに導入された村張り定置網漁業のようす

プロジェクトでは、国内の12大学・研究機関、タイのカセサート大学およびフィリピンのフィリピン大学ビサヤ校とアクラン州立大学に加え、愛知県西尾市役所、東幡豆漁協、沖縄県石垣市役所、八重山青年会議所、タイ水産局ならびに東南アジア漁業開発センターなどと協力し、タイの定置網漁業者グループやフィリピンの漁民組織などの住民組織と連携して研究を進めています。西尾市では、東幡豆漁協が中心となってともに進めている環境教育活動が新たな生態系サービスの活用につながっています。また、石垣島では、観光と漁業や畜産などさまざまな産業を関係づけることで、保全と地域振興の両立をめざした活動を進めています(写真1)。静岡県の浜名湖では、漁業者グループによるクルマエビの放流が続けられており、その手法はフィリピンのパナイ島のバタン湾地域に導入されつつあります(写真2)。富山県氷見市では、地元の伝統漁法である定置網を中心に地域振興を行ない、その漁法が導入されたタイの沿岸地域では、新しい漁業者組織が形成され、新たな資源利用と資源管理意識の涵養が起きています(写真3)。

それぞれの地域において、住民活動の環境や社会および住民意識への影響を調べる一方で、基礎生産と食物網および汚染状況の把握などから生態系の健全性を科学的に評価し、住民主体で地域環境保全を行なうための必要な要素と条件の検討を進めています。

これまでにわかったこと

図2 エリアケイパビリティーサイクル

図2 エリアケイパビリティーサイクル

図3 ACC モデルから見た浜名湖のエビ放流事業

図3 ACC モデルから見た浜名湖のエビ放流事業
エビ放流を通じて地域コミュニティが強化され、地域全体の環境への配慮がなされ る社会が形成された

自然豊かな地域に暮らしている人が、必ずしも自然に親しんでいるわけではなく、むしろ、当たり前にある自然の重要性は意識されていないことが多いことがわかってきました。このため、環境に配慮した行動の選択を促進するためには、身の回りにある自然への興味や関心を育むことが重要です。環境教育や体験学習なども効果的ではありますが、興味や関心を持ち続けるためには、生業や日々の生活に自然への関心を喚起する活動が組み込まれていることが重要であり、特に途上国では、自然へのケア活動が生活の改善につながることが求められます。したがって、エリアケイパビリティーを向上させるためには、自然と生業を結びつける技術の開発や産業構造の改良が必要です。また、開発された技術や改良されたシステムを、住民組織が活用することにより新たな生態系サービスの利用が進み、住民の身の回りにある自然への興味や関心が涵養される連鎖が重要です。一方で、住民組織による生態系サービスの活用が行き過ぎた利用とならないよう、研究者と住民および行政の協働による科学的モニタリングと分析が必要です。また、このような環境に配慮した地域のあり方が外部から評価されることは、住民の自尊心の向上や活動への自信を高め、さらなる活動の展開と地域外を含めた生態系へのケアの拡大に重要であることがわかってきました。プロジェクトでは、この一連の活動と社会および意識の変容の連鎖(Transformation)を、エリアケイパビリティーサイクル(ACC)としてモデル化しました(図2)。ACCを用いることで、それぞれの取り組みが持続的社会の構築に向けた活動へと展開するために必要な要素を確認することができ、また、参加している個人や組織は、各自の役割や個々の活動の位置づけを明確に意識することができると考えます(図3)。「エリアケイパビリティーの向上」は、特定資源やサービスの適正利用が、直接的な資源とその利用者だけでなく、地域全体の環境を対象とした社会全体による生態系のケア促進と生活の向上につながる可能性を教えてくれています。

伝えたいこと

写真4 2014年11月にフィリピンで開催した国際セミナーのようす

写真4
2014年11月にフィリピンで開催した国際セミナーのようす

これまでにも、生態系やそれがもたらす財やサービスの重要性はさまざまな場面で強調されてきました。また、その価値を貨幣価値で評価し、市場メカニズムを活用した保全や地球環境問題の解決へつなげる試みがなされてきています。しかし、私たちはこれらの取り組みだけでは、現在直面している地球環境問題の解決に十分ではないと感じています。特に、途上国や過疎地域などでは、まずは生活を守ることが最優先であり、環境が重要だと理解していても、地球環境問題の解決への活動が広がりにくいのが現状です。加えて、景観や伝統、地域のコミュニティなど、貨幣価値による評価に適さないが、極めて重要な財やサービスが常に存在しています。プロジェクトでは、環境保全の取り組みは、地域開発や活性化と一体となって行なうべきであるという立場をとっています。情報社会で氾濫するデータや思い込みに惑わされることなく、生活と地域の価値に立脚した開発をめざせる社会をつくることが、地球規模の環境問題を解く鍵であると考えます。

集合写真

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名 所属
石川 智士 総合地球環境学研究所教授

東京大学農学部リサーチアソシエイト、民間企業研究員、JICA専門家、JST-CREST研究員、東海大学海洋学部准教授を歴任。住民視点での資源利用の現状と課題について、科学的側面と社会学的側面からとらえる研究を進めています。

サブリーダー

氏名 所属
渡辺 一生プロジェクト研究員

プロジェクト研究員

氏名 所属
本間 咲来プロジェクト研究推進支援員

主なメンバー

氏名 所属
河野 泰之京都大学東南アジア研究所
黒倉 壽東京大学大学院農学生命科学研究科
有元 貴文東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科
宮本 佳則東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科
山田 吉彦東海大学海洋学部
武藤 文人東海大学海洋学部
吉川 尚東海大学海洋学部
川田 牧人成城大学文芸学部
松岡 達郎鹿児島大学水産学部
江幡 恵吾鹿児島大学水産学部
宮田 勉国立研究開発法人水産総合研究センター中央水産研究所
TUNKIJJANUKIJ, Suriyanカセサート大学水産学部
KAEWNERN, Metheeカセサート大学水産学部
MUNPRASIT, Ratanaタイ水産局中部海域海洋資源研究開発局
AMORNPIYAKRIT, Taweekiet東南アジア漁業開発センター訓練部局
ALTAMIRANO, Jon P.東南アジア漁業開発センター養殖部局
BABARAN, Ricardoフィリピン大学ビサヤ校
FERRER, Alice J. G.フィリピン大学ビサヤ校
PRIMAVERA, Yasminアクラン州立大学
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